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「カラフル」だけど地味なのよ

2010年8月9日

  • 筆者 小原篤

写真:原恵一監督=07年撮影拡大原恵一監督=07年撮影

写真:「カラフル」から、小林真(左)と彼が思いを寄せる後輩のひろか拡大「カラフル」から、小林真(左)と彼が思いを寄せる後輩のひろか

写真:母との間にはずっと気まずい空気が流れる拡大母との間にはずっと気まずい空気が流れる

写真:DVD「河童のクゥと夏休み」(アニプレックス)拡大DVD「河童のクゥと夏休み」(アニプレックス)

 映画担当記者をして体得した、映画を紹介するコツというのがあります。映画の雰囲気と記事の文体を近づけること。高尚な芸術作品なら格調高い言葉遣いで、バカバカしい映画ならくだけた言い回しで、子どもに見てほしいなら易しくわかりやすく、日本情緒あふれる作品なら和語を使って、といった具合です。

 例えば、売れないロックバンドを追ったドキュメンタリー「アンヴィル!」について書いた記事の出だしは、演歌番組っぽく「売れなくたって食えなくたってロック一筋30年、純情男二人組、バンド人生泣き笑い――」。ビリー・ボブ・ソーントンがダメ中年を好演したコメディー「バッドサンタ」の記事は「デパートがバイトで雇ったそのサンタは、飲んだくれで女好き、子供は嫌いで言葉は下品、おまけに本業は泥棒だった――。破戒サンタのバチ当たり行状記が、ラストで意外にもクリスマスらしい“感動”に昇華する」。なんちゃってレトロSF「スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー」は、「小難しい理屈や伏線は抜き。ヒーローの行くところに事件が起き、手がかりがあり、危機には助けが現れ、偶然が味方し、正義は勝つ。ついでに愛も勝つ」。

 あれれ、「くだけた」実例ばかりになっちゃった。

 さて、これからご紹介する映画「カラフル」(8月21日公開)は、こんなタイトルなのにとっても地味な、そしてその地味さに大きな意味がある映画です。となると文体は地味に地味に、そしてじんわり滋味がにじみ出すような、そんな文章であるべきなのですが、さあこれが難しい。

 直木賞作家・森絵都さんの青春小説を、「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」「河童のクゥと夏休み」の原恵一監督がアニメ映画化した感動作――というのが教科書通り、というか宣伝資料そのまんまの紹介文。ウソじゃないけど何も伝わりません。

 「ぼく」は死んだ。天使だという大阪弁の男の子がやってきて、頼みもしないのに、下界に戻って人生をやり直すチャンスをやると言う。「ぼく」の魂は中3の少年・小林真の体に入った。真は内気で友達ゼロ、影の薄い父親を軽蔑し、成績優秀な兄にバカにされ、好きな女の子が援助交際をしていたことと母親が不倫していたことを知って自殺したのだという。家族は、真の前で仲のいい家族を演じて取り繕うとしている。つまらない人生。つまらない世界。でもそんな「ボク」に、早乙女君という友達ができた――。

 これが物語の説明です。天使、人生やり直し、援助交際、不倫、自殺といろいろキャッチーな要素を持ちながらも、ドラマはケレンとは無縁、地に足のついた日常がベースです。「他人の体に入った」という仕掛けを通じて、平凡な日常を再発見させるのがこの映画の狙いなのです。

 原監督の前作「河童のクゥ」も、いじめや初恋といった少年の日常を核にしていましたが、河童と同居という藤子不二雄的ファンタジーや、メディアの狂騒という現代社会批判、逃亡劇のスペクタクルなどを盛りつけてくれました。しかし今作はなんと、主人公が生きる喜びを感じるようになるのが、都電の跡地巡りとコンビニ前に座ってのおしゃべり。もっとも鮮烈なビジュアルは、教室の床に黒い絵の具がボタリと落ちるカット。もっとも感動的な場面は、鍋料理を口にする主人公を見てお母さんが泣くシーン。どうです、なんて地味な映画でしょう!

 でも、見慣れた風景から都電の痕跡を捜すのは「日常に隠された意味を見つける」ことの象徴ですし、黒い絵の具は心の奥に押し込めていた悩みの視覚化で、見事にドラマにハマっているのです。

 これは原監督が、テーマとしてきた「日常」という素材をそのままとことんじっくり味わってもらうため、ダイコンとコンニャクだけの薄味オデンでまっこう勝負を挑んだようなもの(ダシは思春期、ダイコンは家族関係、コンニャクは友人関係、「ぼく」が何者でなぜ死んだかというナゾがカラシの役割)。それでミシュランの三つ星を取っちゃった、というくらいの暴挙で快挙なのです。画面と演技を統御しこの抑制的なトーンを全編で持続させるのは、実写(実景&人間の役者)では余計な雑味が入って無理でしょう。雑多な色を取り除いてこそ、地味だからこそ見えてくる色がある。この映画から、こんなメッセージを受け取りました。

 となりにいる人が、あなたを気にかけている。そのささやかな思いに気づくことができれば、灰色に沈んで見えた世界に無限の色を感じ取ることができる。What a colorful world!

 問題は、こんなマジメなアニメ映画に、お客さんがちゃんと来てくれるかどうかなのですが。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

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