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クビがなくてもオチはある

2010年8月16日

  • 筆者 小原篤

写真:「ダニー・ボーイ」は首のある男とない女の恋を描く拡大「ダニー・ボーイ」は首のある男とない女の恋を描く

写真:マレク・スクロベツキ監督拡大マレク・スクロベツキ監督

写真:「Zero」は胸の数字が一生を決める世界拡大「Zero」は胸の数字が一生を決める世界

写真:クリストファー・ケゼロス監督拡大クリストファー・ケゼロス監督

写真:「アングリー・マン」は家庭内暴力が主題=以上、広島国際アニメーションフェスティバル事務局提供拡大「アングリー・マン」は家庭内暴力が主題=以上、広島国際アニメーションフェスティバル事務局提供

写真:グランプリを受賞したアニータ・キリ監督=広島市で8月11日、小原写す拡大グランプリを受賞したアニータ・キリ監督=広島市で8月11日、小原写す

 アニメの国際映画祭に世界各国のアニメ作家が送り出す短編作品なんてものは、アートっぽくて難しくて地味で、なんていう印象(または先入観)を持たれているのかも知れませんが、どっこいトンデモなく危ないオチをぶちかましてくれる作品を見たので、思い切りネタバレでご紹介します。今回は、8月7〜11日に開催された第13回広島国際アニメーションフェスティバルのお話です。

 まずはコンペティション部門の1本「ダニー・ボーイ」(監督:マレク・スクロベツキ=Marek Skrobecki)というスイス・ポーランド合作の人形アニメ。舞台は、首なし人間たちが暮らす世界。目が見えない(というか、目がない)ためにみんな手探りでヨロヨロ歩いて街灯にぶつかったり、道路に出て車にはねられたり。その車も信号無視(というか、信号が見えない)でドカン!ガチャン! それでいて、「BLIND(盲目)」という札をさげた物ごいが路上に座り、映画館の中では観客が切り株みたいな首の断面にポップコーンをぶちまけています。静謐(せいひつ)でセンチメンタルな画面のムードとは裏腹に、不条理でブラックな笑いが充ち満ちています。

 この世界でただ独り首のある青年が、首のない女性との恋を実らせるために自らギロチンで……というのがオチなのですが、ラストカットに驚愕(きょうがく)。ロングで街をとらえたショットの右端にはチャプリンの「モダンタイムス」よろしく寄り添って歩んでいく恋人2人。ちょっといいラストだなーと思ってると画面左端のツインタワーに飛行機がドッカンと突っ込む! 終映後、知り合いをつかまえては「見ました?!アレ」。あきれかえるほどとことんブラックですが、何か支えを求めるように灰色の街をさまよう(そしてすれ違い、無意味にたおれていく)人々は、現代の我々のもの悲しい似姿に見え、強い印象を残します。

 お次はやはりコンペ作品の「Zero」(監督:クリストファー・ケゼロス=Christopher Kezelos)。オーストラリアの人形アニメです。胸の数字で身分が決まる世界で、「0(ゼロ)」という忌むべき数字に生まれついた主人公は、幼い頃から容赦ない差別と迫害を受けます。天涯孤独と思われたゼロは、同じ数字の女性と出会い愛し合うようになりますが、人々は2人を引きはがしゼロを牢獄へ。そしてみごもった女性のゼロも取り囲まれて……。キモかわいい人形たちが演じる世界は、冷たく残酷です。

 ゼロに何を掛けてもゼロにしかならないというのが、「3」や「4」をつけた人々からゼロが迫害される理由。「これを逆転するには∞(無限大)しかないんじゃね?」と、数学に疎い私が映画を見ながら当てずっぽうにそんなことを考えていたら、当たりました。しかし監督の発想は、はるか無限の彼方までぶっ飛んだものでした。

 女性のゼロが産んだのは、結合性双生児。胴体がつながっていて、胸の「0」と「0」が結合して「∞」になっているというこれまた驚愕のオチ! そして∞を見た人々は手のひらを返したようにゼロ夫婦とその子を祝福し、メデタシメデタシ――。冗談やネタで書いているのではありません、ホントにこんな結末だったんです。

 記者会見で監督に質問しました。「このラストに、ためらいや、周囲の反対はなかったのか?」

 「なかったよ。僕にはこの双子が美しく魅力的なものに見えるんだ。社会的には受け入れられないものかも知れないが、普通とは違っていても美しい。このラストを選んだのは、映画をヒネリがきいたオチで終われると思ったからだ」。なおこの作品、政府から助成を受け、海外の映画祭で賞も取っています。

 コンペに陰々滅々とした作品が多くて気がめいったり、間延びした作品にイライラさせられたりすることもありましたが、こうしたショッキングで刺激的な出会いがあるので広島アニメフェスに通うのはやめられません。

 ちなみにグランプリは、ノルウェーの切り紙アニメ「アングリー・マン」(監督:アニータ・キリ=Anita Killi)。父親の家庭内暴力におびえる男の子の繊細な描写に胸を締め付けられますが、ラストには曇り空に薄日が差すような救いがほの見えました。2児の母のキリ監督は6年がかりでこの20分の短編を完成させたそうで、表彰式の壇上で満場の拍手を浴び、涙で声を震わせトロフィーを抱きしめました。どこか重苦しさが覆っていたコンペに、心温まるすがすがしいオチをつけてくれた審査委員の皆さんにも拍手!

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

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