現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 小原篤のアニマゲ丼
  6. 記事

ニキビとカサブタ

2010年8月23日

  • 筆者 小原篤

写真:「ザ・ツイン・ガールズ・オブ・サンセット・ストリート」
拡大「ザ・ツイン・ガールズ・オブ・サンセット・ストリート」

写真:「HAND SOAP」=以上、広島国際アニメーションフェスティバル事務局提供
拡大「HAND SOAP」=以上、広島国際アニメーションフェスティバル事務局提供

写真:受賞会見で話す大山慶監督=広島市で8月11日、小原写す
拡大受賞会見で話す大山慶監督=広島市で8月11日、小原写す

写真:東京芸大でのカリキュラムについて講演する山村浩二さん=同
拡大東京芸大でのカリキュラムについて講演する山村浩二さん=同

 本コラムも今回で第150回を迎えました。前回に続き広島国際アニメーションフェスティバルに行ってきたお話です。

 「9・11」をギャグにしたり、結合性双生児の誕生を仰天のオチにしたりと、今回のコンペティションはいろいろショッキングでしたが、全体に目立ったのは子どもが不幸な目に遭う話。あんまり喜ばしくないトレンドです。前回紹介した「Zero」と「アングリー・マン」も、前者は主人公が子ども時代からひどい差別と迫害を受け、後者は父親の家庭内暴力におびえる子どもが主人公です。

 スペインの人形アニメ「ザ・ツイン・ガールズ・オブ・サンセット・ストリート」(監督:マルク・リバ=Marc Riba、アナ・ソラナス=Anna Solanas)は、一番キョーレツでした。双子の老姉妹によって子どもがさらわれ、監禁され、臓器を売られて食べられて…(最後は老姉妹が焼け死んで主人公の子は助かります)という陰惨なホラー。ドイツのCGアニメ「坊やと野獣」(監督:ヨハネス・バイランド=Johannes Weiland、ウエ・ハイドシュッター=Uwe Heidschötte)は、離婚のショックで母親が無気力な「怪物」と化した男の子の苦労話でした(ただし全体のトーンはユーモラス)。

 6作がコンペ入りした日本作品も、このトレンドと無縁ではありません。「指を盗んだ女」(監督:銀木沙織)は、暗い部屋の中で母親が子の手をなでると子の指が芋虫となってボタボタと床に落ちる、という奇怪な話。過剰な愛による子どもの支配、息苦しい母子密着の映像化、と受け取りました。

 日本勢の中で唯一の入賞(優秀賞)を果たした「HAND SOAP」(監督:大山慶)も、いじめを受ける少年の出口のない日常が描かれた作品です。主人公が壁に立っていて何かを投げつけられるのですが、よく見るとそれは生きたカエルで、血のしみを残して壁をズルズル…。は虫類の産卵のようなイメージで自慰らしき行為を描いたり、暗い顔をした姉が無表情で父と母のセックスをのぞき、それがホクロをなめるという行為だったりと、ある意味つきぬけた変態っぷりです。

 しかも大山監督独特の手法で、皮膚のクローズアップ写真と絵を組み合わせてキャラクターを描いているので、毛穴やニキビ(ぷちっとつぶれてアブラが飛び出す描写あり)が生々しく、思春期の鬱屈(うっくつ)と閉塞感(へいそくかん)が文字通り皮膚感覚で伝わってきます。監督は普段からいろんな写真を撮りためているそうで、「たとえばケガをしてカサブタになると、何かに使うかもと思って撮っておきます。カサブタなんて、撮りたいと思ってもすぐには出来ないものだから」。うーむ、やっぱり突き抜けています。本作の上映後、顔を合わせた知り合いが「おれダメ! ああいうの」と言い腕をさすってブルブルッというしぐさ。まあそれだけ喚起力が強いということで、好き嫌いはありましょうが、入賞するだけのパワーはありました。

 そのほか、部屋の中に引きこもる裸の女が様々な妄想や幻想を肥大させる「服を着るまで」(監督:北村愛子)とか、玄関を巨大なブタにふさがれて右往左往する家族を描いた不条理劇「わからないブタ」(監督:和田淳)なんて作品もあり、日本勢に目立ったのは「閉塞感」でした。やっぱりあんまりうれしくないトレンドです。

 会見で大山監督に聞きました。「日本作品に閉塞感が目立つのはなぜ?」。監督の答えは「僕個人のことを言えば、高校生のころからそういう題材が多かったし、そういう方が作るのが簡単だから。面白おかしくて作品として優れているものを作るのは、今の自分には難しいが、いつかは挑戦したい」。

 ちなみに「指を盗んだ女」「服を着るまで」「わからないブタ」の3本は東京芸大大学院アニメーション専攻一期生の卒業制作で、指導教授は「頭山」などで知られるアニメ作家の山村浩二さん。「HAND SOAP」の大山監督についても、山村さんは早くからその特異なセンスを評価していました。今回のフェスティバルで講演した山村さんいわく「この何年か、他の大学の学生作品を見ても感じるが、学生はプライベートな問題からもの作りを考え始める。たとえば『子どものため』とか、そういう目的意識で作る人は少ない」。

 ならば「自分探しの旅」みたいな題材もあっていいじゃない?と思いますが、やっぱりトレンドは部屋の中や家の中に閉じこもる(閉じこめられる)閉塞感なのでしょうか。

 ビビアン・ハラス国際審査委員長は「作品は世界を映す。子どもの不幸も、今の世界が直面する大きな問題だからこのヒロシマに集まってきたのでは」と話しました。

 「子どもの不幸」への興味関心と「若者の閉塞感」がどこから生まれてくるかと考えれば、「未来に希望が持てないから」という、これまたありがたくない答えがすぐ思いあたるのですが、閉幕パーティーでも「フェスティバルの予算がまた減らされた」とか「広島市の事業仕分けの対象になっている」とか、まことに耳に快くないお話を聞かされ、連日の厳しい暑さ以上にこたえました。

 クヨクヨウジウジしてもしょうがない、もっと前向きにいきましょう――ややこれは、本コラム第100回「ロカルノ ヤクザかサムライか」とくしくも同じ結論になってしまいました。

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介