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さよならの季節

2010年8月30日

  • 筆者 小原篤

写真:今敏監督=2002年8月、小原写す拡大今敏監督=2002年8月、小原写す

写真:08年、監督の個展で買い物をした来場者に「パーフェクトブルー」のセル画をカット袋ごとあげるという企画があり、私がゲットしたのがこれ。今敏監督いわく「これは当たりですよ」拡大08年、監督の個展で買い物をした来場者に「パーフェクトブルー」のセル画をカット袋ごとあげるという企画があり、私がゲットしたのがこれ。今敏監督いわく「これは当たりですよ」

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 書くのがつらいけど、メソメソしててもしょうがないと前回の本欄にも書きましたし、故人も喜びゃしないと思うので、明るく楽しく書きましょう(できるかな?)。

 「パーフェクトブルー」「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」「パプリカ」の今敏(こん・さとし)監督が8月24日、すい臓がんで亡くなりました。46歳。5作目の長編に取りかかっていたさなか、「余命長くて半年」と突然告げられたその残酷な運命を監督がどう受け入れたのかは、ご自身のホームページにアップされた手記「さようなら」で読むことができます。すがすがしくて、優しくて、とても悲しい、名文です。

 ちみつな画面、緊密な構成、幻惑的な映像絵巻で今敏監督が描いたのは、人間の不可思議なおかしさ、いとおしさ。長編4本を世に残しましたが、そのどれもについて監督インタビューを弊紙が載せたことは、手前みそながら誇らしく思います。私がインタビューしたのは「千年女優」と「東京ゴッドファーザーズ」の2本。2002年と翌03年のことです。アニメ監督というのは弁の立つ人ばかりで(作りたい映像を言葉にしてスタッフに伝えるのが仕事の一部だからでしょうか)今敏監督もそうでした。テーマにしても技法にしても、ツボを正確に、わかりやすく、しかし深みのある面白い言葉で語ってくれるので、取材も執筆も楽しくてやりやすい方でした。

 伝説の老女優が語る回想と出演作の場面が混ざり合う「千年女優」については、こんなお話をしてくれました。

 「前作(パーフェクトブルー)で主人公の不安な内面を表現するのに使った虚実混交という手法を、今度は楽しいイメージの冒険にしようと思った。おばあさんの昔話なんてアニメにしちゃあ地味な企画だ、という声もあったけど、出来上がりを見せると『アニメらしい華やかな展開だ』なんて言われて、その点はしてやったりですね。主人公は原節子と高峰秀子のイメージ。出てくる映画は、黒沢明っぽい時代劇や、怪獣もの、SFなどいろいろ。この作品は、日本映画へのオマージュでもあり、『初恋はいいよね』という話でもあり、『自分に素直に生きよう』というメッセージでもある。いろんな風に見てほしい」

 生涯「初恋の君」を追いかけ続けた主人公の女優は、最後の最後に「だって私、あの人を追いかけてる私が好きなんだもん」と言ってのけ、甘い感傷に浸っていた観客を面食らわせます。記事には書きませんでしたが、今敏監督はこんな風に解説してくれました。

 「私が観客だったら『言わなくてもいいのに』と思ったでしょう。でも、甘いファンタジーに終わるんじゃなく、『好きなこと』を続けるのは厳しいことなんだ、そこには自己肯定と覚悟が必要なんだと言いたかった。周りに迷惑を掛けても『好きなこと』を達成するには、強い自己肯定が要るんです」

 ただ「『解は一つではない』――それが一番欲している作品のあり方」ともおっしゃっていたので、観客独自の深読み、裏読みは監督も歓迎するところでしょう。

 その深読みで、監督にホメられたことがありました。オッサンとオカマと家出少女のホームレス3人組が、捨てられた赤ちゃんの親を捜す「東京ゴッドファーザーズ」。重ね着して着ぶくれしているホームレス少女は、家出前はぶくぶくに太っていて、映画の終盤で服を脱ぎ捨てていくとスラリと美しい姿に変身しています。精神の成長と内面の解放が、まるで「イモムシ→サナギ→チョウ」のような鮮やかな変態として描かれてますね、と話すと監督は「それは気づきませんでした」とニッコリ。

 「家出前に太ってたというのは脚本家のアイデアで、意地悪なことを考えるなあ、なんて思ってたんです。チョウのたとえはいいですね、これからは(インタビューで)そう答えることにしましょう」

 ホントに?!なんて喜んでしまいましたが、その後のインタビュー記事などを読んでも残念ながら「チョウ」説は登場せず(当たり前か)。

 「東京ゴッドファーザーズ」で監督は、「人の顔」に見える路地裏の風景をあちこちに登場させています。窓やエアコンの室外機が「目」、シャッターや玄関が「口」。東京という街が3人をいつも見守っている、という風情です。だから東京のどこかにきっと、今敏監督によく似た路地裏の「顔」があって私たちを見守ってくれてるんじゃないか。喪失感を紛らすためにこんな感傷にひたっても、監督は「甘いファンタジーだ」なんて思わずに、許してくれるでしょう。

 悔しさと苦い思いを抱きながら手記「さようなら」を読み終えて、あることにふと気づき、思わずクスリと笑ってしまいました。4本の映画どれもすべて、ラストに病院か病室を出してきた「病院」監督なのに、ご自身の人生のラストを病室で迎えることは強硬に拒み、無理をおして自宅での死を選ぶとは! これはどう深読みすればいいんでしょうかねえ、監督?

 この原稿を書き始める直前、人形美術家でアニメーション作家の川本喜八郎さんの訃報が飛び込んできました。川本先生のことは、ここでは書ききれません。回を改めて書くことにします。

 ハナニアラシノタトヘモアルゾ 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 さよならついでにもう一つ。10月1日付で名古屋報道センターに異動します。東京のみなさん、さようなら(でもちょくちょく帰ってくるので構ってやって下さい)。

 このコラムは、たぶん続けます。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

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