現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 小原篤のアニマゲ丼
  6. 記事

純情にもほどがある

2010年9月20日

  • 筆者 小原篤

写真:映画「REDLINE」の主人公JP。加速を表現するデフォルメが強烈拡大映画「REDLINE」の主人公JP。加速を表現するデフォルメが強烈

写真:危ういところをJPに助けられるソノシー拡大危ういところをJPに助けられるソノシー

写真:JPの愛車トランザム20000改WR。最高時速は777キロ拡大JPの愛車トランザム20000改WR。最高時速は777キロ

写真:インタビューに答える小池健監督(左)と石井克人さん=2010年9月拡大インタビューに答える小池健監督(左)と石井克人さん=2010年9月

写真:ロカルノ映画祭で会見後、カメラマンたちの前でポーズをとる小池健・由紀子夫妻=2009年8月拡大ロカルノ映画祭で会見後、カメラマンたちの前でポーズをとる小池健・由紀子夫妻=2009年8月

 もしルパン三世が童貞だったら、ビックリしますよね。いきなりナンノコッチャな書き出しですみませんが、今回はアニメ映画「REDLINE」(10月9日公開)のお話です。

 はるか遠い未来、命知らずのレーサーたちが挑むのは、「宇宙最速」を決める5年に1度のレース「REDLINE」。軍事独裁政権がやばい機密をいっぱい隠してる星「ロボワールド」を勝手に開催地に決めちゃったからさあ大変、「侵入者は皆殺し!」と息巻くロボワールド軍が待ちかまえる中、ブライキング・ボスみたいなトンカチ頭とかコウモリ男もどきの賞金稼ぎとかボインボインな歌って走れるねーちゃんコンビといった奇妙キテレツな猛者たちが、馬力は鉄腕アトム並みっていう怪物マシンでルール無用のハイパーチキチキマシン猛レース!

 まあこんな感じのお話なのですが、問題は主人公です。スーパーロボットのドリルみたいなドでかいリーゼントに革ジャンでクールに決めたJP(声・木村拓哉)。超絶テクの持ち主ながら、ワケあって八百長レースにかかわっていた彼が、夢の舞台REDLINE出場が決まって今度は本気。そして、常識はずれの加速装置を仕込んだ愛車トランザムのチューンを待つ間、「チェリーボーイハンター」の異名を持つキュートなレーサー、ソノシー・マクラーレン(声・蒼井優)にアプローチをかける。実はソノシーは子どものころ出会い思いを募らせていた人だった。レースも迫ったある夜、JPは彼女の落としたイヤリングを届けにバイクを走らせる……。しかしなんとJP君、イヤリングに花をそえてシャッターの前に置いて帰っちゃった! 中学生かよ!

 と、私がズッコケたのは昨年8月のスイス・ロカルノ映画祭、大広場ピアッツァ・グランデでの「REDLINE」ワールド・プレミアでした。ここでようやく本欄の妙な書き出しにつながるのですが、私にとっては極端に言えば「ルパン三世が童貞だった」みたいなビックリ感があったわけです(「カウボーイビバップ」のスパイクの方が近いかな?)。ロカルノでの記者会見でも質問しましたが、先日、小池健監督と原作・脚本の石井克人さんにインタビューする機会があり改めて質問しました。クールでアダルトに見えるJP君の意外な意外な素顔。いったいこれはナゼ?

 石井さん「初めは、銀河系のあちこちに26人の子どもがいる『種馬レーサー』だった。その養育費のためレースで稼ぐという設定で。でもなんか書きづらくて、僕自身、純情な方がイメージが湧くので、だったらいっそ真逆に行こうと、格好は奇抜でも、ものすごい照れ屋でマジメで純情で、というヤツにした。ハデなキャラの中でいい意味で浮くだろうし、そんな純情男が宇宙一速いヤツは誰だなんてレースに出るのも面白いな、と思って」

 なるほど、石井さんは自身の監督作「PARTY7」(2000年)について私がインタビューした折にも、つんつるてんのジーパンに毛糸のチョッキという出で立ちで浅野忠信さんに演じさせた「ティッシュを持ったノゾキ魔」について、「あの服はお母さんが買ってきたのを延々着続けているという設定。浅野さんは『着るだけで嫌な気分になる服だ』って言ってましたね」なんて喜々として話していましたし、JPと若干ベクトルは違うけどなんとなくそっちの方向の(どっちの方向だ)キャラクターが好きなんでしょうねえ。

 というわけで「REDLINE」のマスコミ向け資料にも、JP君のことを「ウルトラ純情野郎」と念を押すように4カ所も書いてあります。これを読んだアナタも、JP君はこう見えて実はああだけど映画館でズッコケないでね。とはいっても、純情にもほどがあるってもんですけど。

 映画は加速加速また加速で脳がジンジンしびれ、重厚サウンドが背骨にビリビリ響くゴージャスなお祭りムービーになっています。小池監督は絵コンテ・演出・作画監督に加えキャラクターとマシンと背景のデザインも担当、長編1本まるごと濃厚な自分色に染め上げるという異例の作り方です。

 「アメコミのような画面にしたかった。キャラも背景も質感を同じにし、影は真っ黒、線はペンでグリグリ描いたようなタッチ。こういう手法で長編1本やりきった作品はないので、誰もやってないことにチャレンジしたかった。人物だけでなくメカも手がき。CGでは出せないダイナミックなゆがみ、きしみ、スピード感、躍動感を出そうと思った。メカは容赦なく線が多くて複雑な形ですが、これを動かすことができたのは、僕のやりたいことを分かってくれるスタッフが集まってくれたから。みんな、僕より上手く描いてやる!という気合いで、上がってくる原画をチェックするのが楽しみでした」

 お二人が目指したのは、劇場版「銀河鉄道999」(1979年)。

 小池さん「あのとき僕らが受けた衝撃を、今の子どもたちに味わわせたい。ものすごくゴージャスで、お祭りのようなものを」

 石井さん「テレビとは違う突き抜けたグレード感。特別なものを見たという手応え。映画館に行かなきゃ!並ばなきゃ!と思わせるような作品にしたかった」

 ちなみにこの「REDLINE」はラストもビックリ。脚本になかったキョーレツなラブラブ光線の直撃がアナタを待っています。これは、小池監督とマッドハウスの小池由紀子(旧姓・二方)プロデューサーが、この映画がご縁で結婚したことをあらかじめ知っておくと「にゃるほど」と思えるかも知れません。小池監督いわく「この映画を見て幸せな気分になれたとしたら、作る過程で僕自身のわくわくした気分が作品に注入されたからじゃないかと思う」。

 思い出すのは昨夏、ロカルノ入りする前にお二人がスイスで挙式したことを、記者会見や野外上映前の舞台あいさつでマッドハウスの大御所・丸山正雄プロデューサーが発表したときの言葉。

 「えー、二人は小指と小指がREDLINE、赤い糸で結ばれておりまして」

 いやー、スイスのお客さんにどれだけ分かったかなあ。

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介