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記者の贈り物

2010年9月27日

  • 筆者 小原篤

写真:サン・テグジュペリ「人間の土地」(新潮文庫) 表紙イラストは宮崎駿さん拡大サン・テグジュペリ「人間の土地」(新潮文庫) 表紙イラストは宮崎駿さんこの商品の詳細はこちら

写真:「超兵器R1号」はDVD「ウルトラセブン」第7巻(発売元・円谷プロダクション)所収拡大「超兵器R1号」はDVD「ウルトラセブン」第7巻(発売元・円谷プロダクション)所収この商品の詳細はこちら

 私事で恐縮ですが10月1日付で名古屋に転勤します。カミさんと息子(小3)を東京に残して単身赴任です。カミさんが、半年間見続けたNHK朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」を見ながらつぶやきます。

 「ああ『ゲゲゲの女房』が終わる頃、夫も行ってしまう。『ゲゲゲの女房』が終わらなければいいのに」

 O・ヘンリーもどきのおかしな嘆き節ですが、離れた町で暮らすのは、私が入社して最初の赴任地(三重県・津市)に行ってから結婚するまでの2年間だけなのですから、さびしさのあまりヘンなことを口走ってしまうのも無理はありません。

 「愛するということは、おたがいに顔を見あうことではなくて、いっしょに同じ方向を見ることだ」(サン・テグジュペリ「人間の土地」第8章第3節から/新潮文庫・堀口大学訳)という言葉もありますし、まあ大丈夫、顔をつきあわせなくても何とかなるでしょう(ちょっと意味が違う?)。

 そうだ! この名言を記事にしてカミさんに読ませよう。私は美しい髪も立派な金時計も持っていませんが、記者には記事があります。これぞ、賢者ならぬ記者の贈り物。

 ――というのは半分ウソで、弊紙(東京本社版)毎週月曜夕刊「こころ」面の名言紹介コラム「コトバの記憶」を書く順番が回ってきたので、サン・テグジュペリあたりから何かないかしらと本棚をあさってこの名言にたどりついたのでした。でもカミさんに読ませたいなとも思ったので、半分はホントです。

 「コトバの記憶」は名言・名セリフを冒頭に大きく掲げてその下にコラムを書くもので、こうした形式は「引用」にあたらないそうです(今回の本欄の使い方は「引用」です)。なので著作権が残っている場合は許諾が必要。著者は没後50年たっていますが、翻訳者の権利は残っているので、委託を受けている日本文芸家協会を通じて申し込んだところ、ケッコーなお代を請求されてしまい、泣く泣くあきらめました。なんと悲しいことでしょう、「記者の贈り物」にもこんな障害があるとは……。

 というわけで速やかに方向転換。パッと思いついた「ウルトラセブン」の名セリフ「それは血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ」を紹介することにしました。方向転換にもほどがある? いやいや、改めてDVDで見直しましたが、いい話、いいセリフです。9月13日の夕刊に掲載したコラムをここに再録しておきましょう(許諾してくれた円谷プロさん、ありがとうございます)。

    ◇

 際限なき兵器開発競争を嘆くウルトラセブン=モロボシ・ダン(森次晃嗣)のセリフだ。1967〜68年に放映された特撮番組の名作「ウルトラセブン」第26話(脚本・若槻文三)に登場する。

 地球防衛のため、星1個を消滅させる威力の超兵器R1号が開発される。侵略者に対抗するには、相手より強い兵器を作るしかない――そう言い切るフルハシ隊員に、ダンは深い絶望と共にこのセリフを吐く。

 発射実験はギエロン星を破壊。だが生物がいないはずの星から「ギエロン星獣」が復讐(ふくしゅう)のため飛来する。実験を止めなかったことを悔いるセブンは、過ちを犯した人類を守るため、星獣に立ち向かう。

 軍拡競争批判にとどまらず、「正義とは何か」を問う、重くて苦いドラマだ。これをまっすぐに子どもたちにぶつけた作り手に、拍手。

    ◇

 「コトバの記憶」にはこれまでも、「アトムは完全ではないぜ なぜならわるい心を持たねえからな」(手塚治虫作「鉄腕アトム」の「電光人間の巻」より)とか、「けんかはよせ 腹がへるぞ」(水木しげる作「ゲゲゲの鬼太郎」の「朧車〈おぼろぐるま〉」より)といった言葉を紹介してきました。ほかの記者が、お釈迦様や福沢諭吉やマザー・テレサの言葉などを持ってくる中ではちょいと異色のラインナップですが、たくさん記者がいるのですから、中にはヘンな方向を見ている人間がいても紙面に変化が出て面白いというものではないでしょうか。

 というわけで、サン・テグジュペリの名言とはかなり方向がズレてしまいましたが、名古屋に行っても私なりにヘンな方向を見ていきたいものです。それがお役に立てる道でしょうから。サン・テグジュペリも、こう書いています。

 「たとえ、どんなにそれが小さかろうと、ぼくらが、自分たちの役割を認識したとき、はじめてぼくらは、幸福になりうる」(前掲書、同章同節より)

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。09年4月から報道局文化グループ記者。

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