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「おまえうまそうだな」はうまかった

2010年10月25日

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写真:原作の絵本「おまえうまそうだな」(宮西達也作、ポプラ社)拡大原作の絵本「おまえうまそうだな」(宮西達也作、ポプラ社)

写真:映画「おまえうまそうだな」」(監督・藤森雅也)のハートとウマソウ (C)宮西達也/ポプラ社・おまえうまそうだな製作委員会拡大映画「おまえうまそうだな」」(監督・藤森雅也)のハートとウマソウ (C)宮西達也/ポプラ社・おまえうまそうだな製作委員会

写真:ウマソウの武器はハンマーのようなシッポ拡大ウマソウの武器はハンマーのようなシッポ

写真:エラスモサウルスのペロペロは、いやし系のキャラ拡大エラスモサウルスのペロペロは、いやし系のキャラ

 名前は知っていても原作の絵本は読んだことのない「おまえうまそうだな」。この10月、テレビアニメ化と同時に映画も公開されたので見に行ってみたら、驚きの感動作でした。前の席で見ていた女子高生2人組がグジュグジュ鼻をすすってましたよ。しかも、アニメーターの確かな腕を感じさせる、活きが良くてキレがあるアクションもたっぷり。絵柄や題材で敬遠する「食わず嫌い」はもったいない、オトナにも「うまさ」がしみる1本です。

 草食恐竜マイアサウラのお母さん(声・原田知世)が川でタマゴを拾い、自分のタマゴ同様に世話をします。生まれた子ハート(声・山口勝平)はお母さんの愛情をたっぷり受けて育ちますが、草が食べられず柔らかい木の実ばかり。実はティラノサウルスの子で、そのことを悟ったハートは故郷を飛び出します。暴れん坊に成長したハートは、タマゴからかえったばかりのアンキロサウルスの赤ちゃんを「おまえうまそうだな」と食べようとしますが、「お父さん、ぼく『うまそう』って名前なんだね!」と懐かれてしまって食べるに食べられず。「いつまでも一緒にはいられない」と知りながら、ハートはウマソウ(声・加藤清史郎)を育てることに。草原で生きていけるようにウマソウを鍛え、ウマソウを守るために仲間とも闘うハートは、遠く離れた故郷の危機を知り母を案じて駆けつけますが……というお話。

 まず目を奪われるのは、成長してからのハートのアクションです。両脚の強力なバネを感じさせるジャンプ、痛快なスピードで飛んでくるドロップキック。空中で連続キックから最後はシッポのアタックで相手を地面にたたきつける技の切れ味。力感と重量感が、ハッタリなしの正攻法な作画からしっかり伝わってきて、胸のすく思いがします。

 声の山口勝平さんも、陽気で向こう意気が強くて根は優しくて情にもろいハートを好演。激しい声で猛々しさを、明るい声でやんちゃぶりを、そして陰りのあるひくい声で胸の奥の真情を吐露。すやすや眠るウマソウを雨から守りながら「母さんは、どんな気持ちでオレを育てたんだろう」とつぶやく場面は、ジーンと胸にしみます。当たり役の多い山口さんですが、ハートは無理にキャラを際立たせることなく自然体で持ち味を十二分に発揮していて、本作は代表作の一つになるでしょう。

 さて、「食べる/食べられる」「狩る/狩られる」動物の世界に、人間を模した愛情や友情をムリヤリねじ込んで齟齬(そご)や軋轢(あつれき)や葛藤(かっとう)をドラマにするというのは、ディズニーの「きつねと猟犬」、ドリームワークスの「マダガスカル」、杉井ギサブロー監督の「あらしのよるに」など過去にもいろいろありましたが、もとの設定がなんせムリヤリなので、短編とかギャグならともかく、マジメにじっくりドラマにしようとするとどうにも地に足のつかない荒唐無稽(むけい)で珍妙な雰囲気に陥る危険があります。本作にもそんな瞬間がなくはないのですが、ギリギリ回避できた一因は、ハートのクールな省察を折々に挿(はさ)んだこと。特に、兄弟同様に育ったマイアサウラのライトに向かって「自分の都合で(相手を)食べるか食べないか決めてるだけさ」と言う、やりきれなさと自嘲(じちょう)をにじませたつぶやきは、大人向け映画にもなかなか出てこない深い味わいがありました。

 それと、設定はムチャですが物語の骨格は普遍的なのです。肉食恐竜を渡世人に、草食恐竜を堅気にするとアラ不思議、これは任侠映画ではありませんか。育ての親は堅気でも、体に流れる血はヤクザ、家を飛び出しいっぱしの渡世人になったころ、ひょんなことから赤子を拾い、情けをかけたが運の尽き、シマを追われて二人旅、うわさを聞けば母親の住むふるさとが危ねえと、駆けつけてみれば昔の仲間、「そこをどきねえ、命がないぜ」、こんなになったオレを見て「ひと目で分かった」と抱き寄せる、ああ母親のありがたさ、今は一緒に暮らせぬが、母さんの子でよかったぜ。うう、泣けるなあ。

 というわけで、人生の機微を知るオトナの方にもおすすめの「おまえうまそうだな」。興味がわいた方はぜひ、「食わず嫌い」せずお試し下さい。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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