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アニメ映画を読む

2010年11月1日

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写真:藤津亮太さんの近著「チャンネルはいつもアニメ――ゼロ年代アニメ時評」(NTT出版)拡大藤津亮太さんの近著「チャンネルはいつもアニメ――ゼロ年代アニメ時評」(NTT出版)⇒オンラインショップへ

写真:ブルーレイ「ルパン三世 ルパンvs複製人間」(バップ)拡大ブルーレイ「ルパン三世 ルパンvs複製人間」(バップ)⇒オンラインショップへ

写真:DVD「太陽の王子ホルスの大冒険」(東映ビデオ)拡大DVD「太陽の王子ホルスの大冒険」(東映ビデオ)⇒オンラインショップへ

写真:DVD「サマーウォーズ」(バップ)拡大DVD「サマーウォーズ」(バップ)⇒オンラインショップへ

 しばらく前から、友人のアニメ評論家・藤津亮太さんが講師を務める「アニメ映画を読む」という講座に参加しています。製作背景、物語、構成、キャラクター、映像…様々な角度からアニメ映画の新たな見方を探る通称「藤津学校」――なんていうと「パトレイバー2」の柘植学校っぽくてカッコいいですがすみません、いま勝手につけた通称です。

 講座では毎回、1本のアニメ映画を取り上げ、藤津さんが「『千と千尋の神隠し』で、ハクとカオナシは千尋をはさんで鏡のような対応関係にある」とか「『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のクェスの物語は、英雄神話のパターンを反転させたものだ」といった鋭い解説をしてくれるのですが、予習としてその映画を見直してみると、「取材のため」でも「お楽しみのため」でもないせいか私としても思わぬ発見や驚きがあったりしてなかなか面白いのです。

 例えば1978年公開の「ルパン三世」(ルパンvs複製人間)。最後に見たのはたぶん学生時代、この講座がなければ見返すこともなかったかも知れません。記憶では「前半はアダルトな雰囲気でクール、下水道までヘリが追ってくるカーアクションなどが見どころだけど、後半の派手なSF展開は『ルパン』らしくなくてイマイチ」といったところでしたが、見直してみたら記憶とは大違い。こんなにおちゃらけた映画だったっけ?

 全編そこかしこに漂う「お色気とユーモアとナンセンス」。これは「アダルト」といっても「大人漫画」の世界、手塚治虫のアニメラマ「千夜一夜物語」「クレオパトラ」に近いおふざけテーストを感じます。よく考えたら原作「ルパン三世」も、ハードでクールな劇画調の中に、お色気とユーモアと融通無碍(ゆうずうむげ)なナンセンスという大人漫画っぽさが交ざり込んでいた覚えがありますので、原作の雰囲気に近いと言えるのかも。それにしても、以前はミスマッチと感じていた三波春夫さんの歌う能天気なエンディング「ルパン音頭」が、なんだかしっくり来てしまったのは驚きです。映画本編が「アダルトでクール」だったというかつての私の印象が間違っていたというワケではなく、公開から30年余、たぶん見ている側の感覚が変化したのでしょう。

 「見ている側の変化」「時代の違い」は、1968年公開の「太陽の王子ホルスの大冒険」にも感じます。こちらは何度も見返している映画で、講座で取り上げるというので復習のような予習のためにDVDを見ましたが、毎度毎度ひっかかるのが共産主義プロパガンダっぽいカット。「迷いの森」に落とされたホルスが「わかったぞ!」と叫んで森から抜け出した後、輝く光の中で数多くの槌(つち)が振り下ろされるイメージが挿入されます。物語はここから一気呵成(かせい)に進めや進め、村人たちのいがみ合いもどこへやら、ホルスを中心に団結モードになだれ込んで悪魔グルンワルドを倒すのです。

 あの槌の列を見て「労働者よ団結だ、ウォー!」てな感じに高揚スイッチが入ったら(絵コンテに「素晴らしい槌の行列」と書いてあるので作り手もそう期待していたはず)きっともっと楽しいんだろうなあ、と思いながらもちょっとそのノリについていけない――大好きな映画だけに、そんなもどかしさを毎回感じてしまいます。

 講座では「ホルスの服装などに白土三平さんのマンガの影響があるとされているが、テーマの方にも白土マンガの影響は及んでないのか?」てな話になりました。私はかねて、「ホルスはきっと生き返ってきます。何人ものホルスになって」というヒロイン・ヒルダのセリフに「忍者武芸帳 影丸伝」の匂いを感じてならない(コトは影丸の秘密に関わることなので詳しくは書きませんけど)のですが、さて当たっているかどうか。いつか監督の高畑勲さんに聞いてみたいところです。

 2009年公開の「サマーウォーズ」は、これまた5回くらい見ている映画ですが、講座を前に見直したら新たな発見が――といってもボンクラな私がようやく気づいただけで、今ごろ何いってんの!と怒る読者もいるかも知れません。その「発見」を新書のタイトルっぽく言うと、「関係する女と所有する男」といったところです。

 サイバーテロに立ち向かうにあたって、この映画の男どもはイカ釣り漁船やスーパーコンピューターやミリ波通信装置を持ち込み、iPhoneやゲーム機やキーボードを操り――と、とにかくモノ(または情報)に向かいます。それに対し女は、まずヒロイン夏希は主人公健二にたくさんの親類を紹介し、そしてこの一族の中心は曽祖母の栄と大叔母であり、栄は政財界のお偉いさんに片っ端から電話して危機に対処せよと檄(げき)を飛ばし、仮想現実内の夏希は世界中の人たちの助けを借りて花札ゲームで人工知能「ラブマシーン」を倒す――と、とにかく人とのつながり、人間関係の中にあり続けます。

 初見の時、数学オタクの域を出ない健二君がもっと主人公っぽく、例えば花札勝負を買ってでたりすれば、もっと成長の幅が出せてドラマチックになるのに、などと思いましたが、こうした男女の構図を見ると「サマーウォーズ」は、「オタクな男たち」が「つながる女たち」に包まれるお話なのだなと感じます。成長することよりも「そのままの僕」をつながりの中に受け入れてもらえることに主眼がある、とすると、健二君のとどめの一撃のかけ声が「よろしくお願いしまーす!」であるというのも実に納得、さらに、ツルを伸ばして何かにつながろうとするアサガオが「栄の愛の象徴」としてこの作品の重要なモチーフになっていることも、合点がいくというものです(ちょいと深読みしすぎかな)。

 次の講座のお題は「ホーホケキョ となりの山田くん」(1999年)。むむむ、公開時に高畑監督にインタビューしたことがあるものの、こんな機会がなければ今なかなか見直したりしそうにない作品です。さ〜て、どんな「発見」があるのかな?

※編集部より:藤津亮太さんの講座は工学院大学・朝日カレッジで聴講できます。次回11月6日講座の詳細はこちらをごらんください。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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