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父子監督より兄弟監督

2010年12月27日

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写真:「ロビン・フッド」のラッセル・クロウ (C)2010 Universal Studios
拡大「ロビン・フッド」のラッセル・クロウ (C)2010 Universal Studios

写真:「アンストッパブル」のクリス・パイン(左)とデンゼル・ワシントン (C)2010 Twentieth Century Fox
拡大「アンストッパブル」のクリス・パイン(左)とデンゼル・ワシントン (C)2010 Twentieth Century Fox

 スタジオジブリの来夏公開の新作は、宮崎吾朗監督の「コクリコ坂」だそうです。企画と脚本は父の宮崎駿さん(脚本は丹羽圭子さんと共同)で、吾朗監督のデビュー作「ゲド戦記」ではならなかった父子共作が実現。「気になる男の子と両思いになれたのに異母兄妹だと告げられて……」という原作マンガのストーリーは結構シンプルで牧歌的で、今のマンガならそこからもう二転三転のグチャグチャのドロドロにしそうなところですが、宮崎駿さんはコレを息子のためにどう料理するのでしょうか?

 なーんて父子監督のことは、作品ができた時にまた語るとして、今回は兄弟監督の話。リドリー・スコット監督の「ロビン・フッド」(公開中)はスゴイけど弟のトニー・スコット監督の「アンストッパブル」(2011年1月7日公開)の方が面白かったぜ!という内容です。

 「ロビン・フッド」はとにかく映像がゴージャスです。濃い顔の役者たちが、豪勢なヨロイやドレスに身を包み、入念に作り込まれたセットで大見得(みえ)切って大暴れ。コントラストの強い映像、ここぞという時の水しぶき&スローモーション。加えて、矢が空気を切り裂く音、剣が交わる衝撃音、腹に響く馬の蹄(ひづめ)の重低音など分厚くつけられた効果音もゴージャス。冒頭の城攻めのど迫力と終盤の仏軍上陸作戦のスケール感が見ものです。ただ、空いっぱいに弧を描いて飛んでくる矢とか、揚陸艇から飛び出した兵士たちが猛攻を受けバタバタ、といったシーンは「どっかで前に見たような」なんですけど。

 最大の問題は、ドラマが薄いこと。弓に長けた傭兵(ようへい)が英雄ロビン・フッドになるまでの物語ですが、主人公の動機や葛藤(かっとう)がボヤけているのです。ロビン(ラッセル・クロウ)は、息子を失った老領主に頼まれてその身代わりを務め、その結果、王と諸侯の対立や仏軍との戦争に巻き込まれるのですが、その動機は「自分探し」。自分がすっかり忘れている幼い頃の記憶を領主が知っているらしいのでそばにいよう、というのです。でも切ったはったの傭兵生活ですっかり貫禄がついたゴツいオッサンと「僕は何か、大切なことを忘れているような気がするんだ」的な自分探しはまるで重なり合わず、ロビンの言動は成り行き任せにも見え、気まぐれな義侠心にも見え、心の内がつかめません。寡黙に耐える芝居が得意のクロウには、同じリドリー・スコット監督の「グラディエーター」のような、わかりやすい動機を持たせた方がよかったんじゃないでしょうか。

 さて、では「アンストッパブル」の方はというと、トニー・スコット監督と名優デンゼル・ワシントンによる鉄道パニック映画って前作「サブウェイ123 激突」と同じじゃん! と見る前は思ったのですが、そんなことはスカッと忘れさせてくれる、まさに手に汗握るサスペンスアクションでした。

 39両編成、全長800メートルの貨物列車がブレーキをかけそこなったまま無人で走り出し、徐々に速度をあげて暴走、大量の有毒化学物質と燃料を満載してミサイル真っ青の破壊力を持つこの怪物がこのまま都市中心部のカーブに突っ込めば脱線して大惨事に――という、実話に基づいたお話です。

 「ロビン・フッド」の大戦闘シーンに比べれば、地味といえば地味ですが、武骨な貨物列車の重量感、ナマのブツが放つ存在感はたまりません。立ちふさがるトレーラーや機関車をふっ飛ばす「雄姿」はスペクタクルとして申し分なし、大スクリーンで堪能してほしいシーンです。

 無人の列車はどこを走っているのか、何が積まれているのか、なぜ加速していま何キロで走っているのか、徐々に事態があらわになり、鉄道会社の作戦が次々に失敗し、責任者は頭を抱えてうめき、息を飲んでテレビ中継を見ていた人々は悲鳴を上げる。サスペンスを盛り上げるトニー・スコットのたたみかける演出も冴えます。

 時速100キロを超す暴走列車を止めるべく立ち上がったのは、たまたま近くを通りかかった(おかげであやうく衝突するところだった)列車のベテラン機関士と新米車掌。ロビン・フッドに比べれば圧倒的に地味な英雄で、特別な能力もすごいアイデアもあるわけではありませんが、鉄道マンの誇りにかけて、そして家族の住む街を守るため、わずかな可能性に命をかけます。

 冷静沈着な機関士フランク(デンゼル・ワシントン)とやや思慮に欠ける車掌ウィル(クリス・パイン)のコンビが抱えるドラマも、地味ながらジーンと来る話。ベテランを切り捨てる会社のやり方に腹を立てているフランクと、経験もなくコネで入社した若いウィルの間には、気まずくギスギスした空気が流れますが、「死ぬ時は一緒」の状況の中で、徐々に心が通い合います。

 ここらへんの芝居の主導権を握るのは、やはりワシントンです。ウィルが妻と別居しなければならなくなったシリアスないきさつを、生きるか死ぬかの状況下で面白がってたずねるあたりのユーモアの呼吸。ケンカ中の娘に電話し、「愛してるよ、じゃあな」とさりげなく別れを告げる顔ににじむ人間味。さすが名優です。年季の入ったブルーカラーになりきってます。ただ、歯が1点の汚れもなく純白に輝いているのは、リアリズムに反すると思いますが。

 暴走サスペンス、男2人のドラマ、それぞれの家族のドラマがキッチリかみ合っての大団円は、大げさな感動を押しつけることなく、ウィットに富んだセリフのやりとりでサラリと流すオトナの味わい。というわけで、最後までスカッと爽快(そうかい)な「アンストッパブル」、おすすめです。

 「ロビン・フッド」の方ももちろん、見て損はない力作。両作とも恋愛成分が少なく男臭さが魅力なのは、この兄弟の作風でしょうか。両主演俳優の渋くて頼れるオヤジっぷりが堪能できます。ラッセル・クロウとリドリーが組むのはこれが5作目。デンゼル・ワシントンとトニーが組むのもこれが5作目だそうです。仲のいい兄弟ですねえ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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