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男と女の間には

2011年1月31日

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写真:「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」の永作博美さん(左端)と浅野忠信さん(右端) (C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド拡大「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」の永作博美さん(左端)と浅野忠信さん(右端) (C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド

写真:酔って暴れて寝入ってしまう夫(浅野)を見つめる妻(永作)拡大酔って暴れて寝入ってしまう夫(浅野)を見つめる妻(永作)

写真:「毎日かあさん」の永瀬正敏(手前)と小泉今日子 (C)2011映画「毎日かあさん」製作委員会 (C)Rieko Saibara拡大「毎日かあさん」の永瀬正敏(手前)と小泉今日子 (C)2011映画「毎日かあさん」製作委員会 (C)Rieko Saibara

写真:こちらも「毎日かあさん」拡大こちらも「毎日かあさん」

写真:西原理恵子さん=2009年、小原写す拡大西原理恵子さん=2009年、小原写す

 「毎日かあさん」(2月5日公開)と「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」(公開中)を見ました。どっちもいい映画なのですが、勝ち負けで言ったら「毎日かあさん」の勝ち。決め手は「毎日かあさん」の永瀬正敏さん。その存在感が圧倒的でした。

 ご存じ「サイバラ」ことマンガ家・西原理恵子さんと、「カモちゃん」こと戦場カメラマン・鴨志田穣(ゆたか)さん夫婦の物語。夫のアルコール依存症、離婚、依存症を克服しての帰還、夫のガン発覚、2人の子どもとのつかの間の日々、そして別れ…。これを半ば同時進行的につづった西原さんの新聞連載マンガを原作としたのが「毎日かあさん」。鴨志田さんの遺(のこ)した自伝的小説を映画化したのが「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」です。ウラオモテのない実録ドラマを、妻の目と夫の目から見たらどう違って映るのか、同じ実在の人物を別の役者が演じると印象はどう違うのか、いろいろあった夫婦をいろいろあった元夫婦(小泉今日子さん&永瀬正敏さん)がどう演じてるのか、いろいろ興味は尽きません。

 映画「毎日かあさん」は、キャラを際立たせてくっきりメリハリ調の味わい。カラッとして、突き抜けた潔さがあり、これは原作の雰囲気と重なります。映画「酔いがさめたら」は、陰気というほどではありませんが湿っぽさと淡い甘さと優しさがあり、ゆき暮れてどこにもたどりつけないようなやるせなさがモヤモヤと漂っています。この違いには、小泉今日子さん(毎日かあさん)と永作博美さん(酔いがさめたら)という2人の女優が放つオーラの違いもあるでしょう。男は、酔いがさめたらうちに帰ろう(かなぁ〜)なんてフラフラして足もとが定まらないけど、女は、何があっても「毎日かあさん」やるしかない!と地に足がついてハラがすわっている。そんな図式が浮かんできます。

 しかし両作を見比べてもっと強い印象を残すのは、浅野忠信さん(酔いがさめたら)と永瀬正敏さん(毎日かあさん)の違い。浅野さんは、家庭という現実に腰を落ち着けられない男の漂泊感みたいなものは醸し出しているのですが、その厚い胸板と太い首とがっしりしたアゴを見ていると体も心も強靱(きょうじん)そうに見えてしまうのが難です。浅野さんの個性として、どこか超然として群れを嫌い俗にまみれない強さみたいなものがあって、それがこの役にはジャマな感じが……。

 ただ、見る側もサイバラマンガの「カモちゃん」のイメージにひきずられているところが大きいかも知れません。

 そこへいくと、永瀬さんのダメっぷりはほれぼれします。西原さんも「鴨(かも)ちゃんっぽい人ですよね、雰囲気が。『どのツラ下げて帰ってきたんだい感』みたいのが」(プレス資料より)と太鼓判を押しています。永瀬さん演じる夫は、体も首も頭もヒョロっとして、捨てられて拾われた犬のようであり、年は食ってもガキのまんまという感じで実に頼りナサゲ。川で釣ったコイをポケットに突っ込んで帰ってきたり、ビールをあおりつつドッグフードをかじって「どおしようもねーなーこの国は!」とテレビに空しいツッコミをいれたり、息子と一緒に寝小便をたれてリビングに転がっていたり、といったダメっぷりがこれほどおかしくてサマになる人はいないというくらい、ハマっています。

 そしてその後に見せられる、アル中を治して帰ってきた姿。この映画の白眉(はくび)です。ヒョロっとしたたたずまい、軽そうな体、悟ったようなさびしげな顔。フラフラと頼りナサゲだったのが、フワフワと今にも空へ旅立つのではと思わせるはかなげな雰囲気へ変わり、死期の迫った男のたたずまいを見事に表現しています。ひなまつりを祝う娘にカメラを向けつつそっと嗚咽(おえつ)をこらえ、夜に誰もいないリビングや玄関の子どもの靴を撮ってまわる――。「こういうシーンを、子どもを持つお父さんに見せるのは反則だよ」と思いつつ涙をこらえるのに苦労しました。

 西原さんのマンガは何度も映画化されていますが、これまでいまひとつノリきれなかったのは、サイバラマンガの持つ「泣ける」が先に立って「毒」が弱かったからではないかという気がします。しかし「毒」をおろそかにしては、人生の不条理や悲惨や貧乏は湿っぽい感傷に流れてしまいます。哀(かな)しみをのみ込んで「毒」として吐き出す、その浄化の先に(「ナウシカ」の腐海みたいですけど)すがすがしい笑いやナミダが待っている。それがサイバラワールドの魅力だと思うのです。

 「毎日かあさん」は、妻の容赦ない罵倒や侮蔑やイジワルさがスパーンと潔く描かれ、「毒」が効いています。「酔いがさめたら」と見比べると、その「毒」の効用が一段とくっきり感じられるかも知れません。「毒」を吐く小泉さんの嫌みのなさ、「毒」を浴びてもジメつかない永瀬さん。元夫婦だからどうとかは関係なく、ツボにはまるキャスティングでサイバラワールドを楽しませてくれる「毎日かあさん」、おすすめです。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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