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リアルすぎる丹下段平は……

2011年2月7日

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写真:「あしたのジョー」の丹下段平(香川照之) (C)2011 高森朝雄・ちばてつや/「あしたのジョー」製作委員会拡大「あしたのジョー」の丹下段平(香川照之) (C)2011 高森朝雄・ちばてつや/「あしたのジョー」製作委員会

写真:力石徹(伊勢谷友介)拡大力石徹(伊勢谷友介)

 実写版「あしたのジョー」(2月11日公開)を見ました。結論は「リアルすぎる丹下段平は子泣きじじいと区別がつかない」です。…すみません、ウソです。でも香川照之さん演じる段平は子泣きじじいにそっくり。マンガやアニメを見ても結びつかない二つのキャラクターがどうして? これぞ映像マジック!(違いますね)

 香川段平は黒いアイパッチにヒゲ、つけ歯、頭のデコボコまで原作に忠実に再現、体全体をゴム製の特殊メークで覆うという凝りっぷり。香川さんは「コスチュームも原作通りに」という主張を押し通し、熱烈なボクシングファンであることから山下智久さん(矢吹丈)と伊勢谷友介さん(力石徹)に身ぶり手ぶりで熱い指導をしたとか。さすが当代きっての熱演派。ちょっと前ならこういう役は竹中直人さんがやっていたんじゃないかと思いますが、竹中さんに負けない「やりすぎ感」を発散し、アニメ版の段平(声・藤岡重慶さん)ばりのダミ声で「立て、立つんだジョー!」をかましてくれます。

 しかし上には上が。ほとんど絶食に近いハードな減量と厳しいトレーニングによって肉体改造した伊勢谷力石は香川段平を吹き飛ばす迫力です。容貌(ようぼう)も肉体も、力石が乗り移ったようで鬼気迫るものがあり、とりわけ、ガイコツに筋肉がはりついたみたいな計量シーンは必見。アバラの下あたりになにか今まで見たことのない骨が突き出ていて、ゾゾゾと背筋に寒いものが走りました。ちなみにこのシーンの撮影後、すっぽんスープをかき込んだ伊勢谷さんは水分による一時的なリバウンドで1日で5キロ増えたとか。まるでスポンジです。

 さて、おかげで割を食ったのは山下ジョー。見事に肉体改造をやりとげ、コスチュームもばっちり原作通り。孤独で繊細なジョーをしっかり演じていますが、伊勢谷力石と並ぶとなんだか薄味のキャラに見えてしまいます。

 物語は昭和40年代を舞台に、ドヤ街にやってきたジョーがヤクザをぶちのめして段平に見込まれ、少年院で力石に出会い、プロボクサーとなって対決するまでを描きます。マンモス西がどうみても中年のオッサンなのに少年院にいるのはヘンだなあとか、ストーブを10台も20台もそんな狭い部屋に置いたら酸欠で死なない?とか、シャワーの蛇口まで針金で縛ったらトレーニングのあと困るんじゃないかなとかいろいろ細かなツッコミどころはありますが、鍛え上げられ凄(すご)みを増していく肉体のパワーでグイグイ押し切ります。

 しかし残念なのは、肝心の試合シーン。かわりばんこにハラを打ち合う単調なアクションの繰り返しとか、スカスカした音響(ラウンド間の休憩時、会場が静まりかえる)とか、ところどころでテンションが下がり、なんだか不完全燃焼な感じ。この素晴らしい肉体を真っ赤に燃やして真っ白に燃え尽きてほしいのに……。

 納豆のように汗が糸を引くアニメのKOシーンは「懐かしの名場面特集」といった番組で目にした方も多いことでしょうが、今回の実写版KOシーンはそれに比べれば意外やアッサリ。監督が「ピンポン」(2002年)などを手がけた曽利文彦さんなので、納豆2倍増しくらいに粘っこく見せてくれるのでは、と期待したのですけれど。

 ともあれ、超「つくりもの感」にあふれた子泣き段平と、リアルな肉体が有無を言わせぬオーラを放つ力石&ジョーという、両極端な「やりすぎ感」がステキに炸裂(さくれつ)する実写版「あしたのジョー」、ご興味ある方はぜひ劇場へどうぞ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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