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ミヤザキ春のパンまつり

2011年2月14日

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写真:宮崎駿監督拡大宮崎駿監督

イラスト:「パン種とタマゴ姫」の超シンプルなヒロイン、タマゴ姫 (C)2010 二馬力・G拡大「パン種とタマゴ姫」の超シンプルなヒロイン、タマゴ姫 (C)2010 二馬力・G

イラスト:顔にリンゴをくっつけたパン種と逃避行拡大顔にリンゴをくっつけたパン種と逃避行

イラスト:空を飛んで追いかけるバーバーヤーガ、巨乳です(なお、上映スケジュールは美術館HPで御確認下さい)拡大空を飛んで追いかけるバーバーヤーガ、巨乳です(なお、上映スケジュールは美術館HPで御確認下さい)

 「崖の上のポニョ」以来の宮崎駿監督の新作「パン種とタマゴ姫」を見てきました。東京・三鷹の森ジブリ美術館(入館は日時指定の予約制)で5月22日まで上映中の短編です。内容はというと、ジュルジュル、ズゾズゾ、クチャクチャ、ネバネバ、モチモチ、クニャクニャ、ボヨヨン、フカフカ……。ナンノコトカというと、宮崎さんが近年とみに惑溺(わくでき)している触感と食感のフェティシズムが全開なのです。

 森の奥の水車小屋に暮らすバーバヤーガ(魔女か妖怪みたいなばあさん)が、割れないタマゴを召使にしてコキ使い、メシの支度をさせてはガツガツ食らい込む。これがまあ、ギョロリと目をむき大口あけて、クチャクチャかんで、ジュルジュルすすって、ズゾズゾ飲み込み、汁をまき散らして大皿大鍋をたちまちカラにするという、キタナイような豪快なような、すさまじい食べっぷりです。ある夜、ネバネバ、モチモチのパン種にタマゴが目鼻をつけたらクニャクニャ動き出したので、タマゴはこれ幸いと手に手を取って逃げ出します。気づいたバーバは杵(きね)をつかんで臼に乗り、空を飛んで街まで追いかけます。つかまえたパン種をバーバがこね、タマゴが脇からそれをチャチャチャとヒトの形に整えて、窯の中へ。そして現れた焼きたてアンパンマン! じゃなかった、フカフカホカホカの全身パン男が……。

 こんなおとぎ話風の風変わりでノンビリした物語が、のどかでみやびな「ラ・フォリア」の調べに乗って、セリフなしで描かれていきます。アタマが空になり、ココロが躍り、そしてオナカがすく至福のひととき。近くの女性2人組も「あのパン生地の触感、すごかったねー」と感心しきり。皆さんも、マエストロが腕によりをかけて仕上げたモチモチ新食感アニメ、「ミヤザキ春のパンまつり」をぜひお楽しみ下さい。

 さて、「アタマが空に」と書きましたが、宮崎アニメを長年見続けてきた者としてはついイロイロ考えてします(邪推や勘ぐりとも言いますが)。

 宮崎アニメを並べると、大雑把に言って二つのパターンが浮かんできます。「男の子と女の子で世界を救う」と「モノノケと女の子がたわむれる」です。前者は「未来少年コナン」や「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」、後者は「パンダコパンダ」(監督は高畑勲さん、原案・脚本が宮崎さん)、「となりのトトロ」「紅の豚」。

 なので「パン種とタマゴ姫」の全身パン男は、パパンダやトトロやポルコ・ロッソの仲間と言えるでしょう(お相手は宮崎ヒロイン史上最も簡単なカオだけど)。こういったキャラクターは実はぜんぶ「着ぐるみ」で、その中に入っているのは宮崎さん、というのが私の邪推。マジメに世界を救うのならともかく、ただ可愛い女の子とべたつくなんてバチ当たりな楽しいことは着ぐるみを着てやんなさい、と宮崎さんの心の中でささやく誰かがいるのでは、とまあこれは邪推というより妄想ですかね。

 しかしもう少しメタな視点から見ると、こうした「着ぐるみ」キャラは、宮崎さんが自らに課してきた「健全な漫画映画」「子どものための作品」という目標のメタファーであるようにも思うのです。宮崎さんが、明るくなくても前向きでなくても構わない、青少年や大人向けの作品をリミッター解除して作ったらどうなるのか? それは短編「On Your Mark」なんかにチラリと見えている気もするのですが、それはまた別の機会に。

 この二つのパターンで考えていくと「千と千尋の神隠し」は、「世界を救う」側の男の子(ハク)と「たわむれる」側のモノノケ(カオナシ)がヒロインを奪い合うというハイブリッドな構造だったわけで、その結果はハクの勝ち(当然ですけど)。カオナシは、後期の宮崎アニメにおける愛の象徴であるドロドロ液体を吐いて吐いて吐きまくるのですが、悲しいことに千尋に届くことはありませんでした。ちなみに、「もののけ姫」のアシタカとサンはシシ神のドロドロを一緒に浴び、「ハウルの動く城」のソフィーはハウルの体から出たドロドロにまみれ、千尋は幻想シーンでハクの川の流れを浴び、「ポニョ」の宗介はほかのキャラクターがみんな嫌がるポニョの水鉄砲(口からピュ〜)を顔に浴びてニコニコ喜びます。宮崎さんはこういうの好きなんです(勝手に断定)。

 ドロドロを浴びるのも吐くのもすすり込むのも、同じ触感と食感のフェティシズムの世界。それは何となく、幼児期の感覚世界に近いのかも(バーバヤーガの、キバが食い込む豊満なオッパイも印象的ですし)。古希を迎えた巨匠は、感覚の原初的なるものへ突き進んでいるような気がします。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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