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戦いは数だよ兄貴!

2011年3月7日

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写真:「劇場版マクロスF 〜サヨナラノツバサ〜」 (C)2011 ビックウエスト/劇場版マクロスF製作委員会拡大「劇場版マクロスF 〜サヨナラノツバサ〜」 (C)2011 ビックウエスト/劇場版マクロスF製作委員会

写真:シェリル・ノームのコンサートシーン (C)2011 ビックウエスト/劇場版マクロスF製作委員会拡大シェリル・ノームのコンサートシーン (C)2011 ビックウエスト/劇場版マクロスF製作委員会

写真:「塔の上のラプンツェル」 (C)Disney Enterprises,Inc拡大「塔の上のラプンツェル」 (C)Disney Enterprises,Inc

写真:ランタンの光に包まれるフリン(左)とラプンツェル (C)Disney Enterprises,Inc拡大ランタンの光に包まれるフリン(左)とラプンツェル (C)Disney Enterprises,Inc

 公開中の「劇場版マクロスF 〜サヨナラノツバサ〜」は、まさに「ゴージャス、デリシャス、デカルチャー」(マクロス世界で有名なCMソング。意味は「すごいわ、ステキよ、信じられない」……かな?)な映画でした。冒頭の「銀河の歌姫」シェリル・ノームのコンサートシーンでは桃色ナース服のシェリルがエロスを振りまいて乱舞。続くランカ・リーのステージは、「飛び出す絵本」のようにくるくる回るフェアリーテールな舞台の上で魔法少女風のランカがキュートにダンス。会場を埋め尽くす光の洪水とCG七変化とヒロイン2人の笑顔とノリノリの楽曲が、圧倒的な物量をもって客席に迫り、有無を言わさぬ幸福感で満たしてくれます。これぞ日本アニメ、歌と美少女は文化の極みです。デカルチャーです。

 おかげで戦闘シーンがやや押され気味でしたが、人類を脅かす謎の生命体との戦いを終わらせるには彼女たちが歌う時に腸内の○○から出るいい感じの○○がすごい力を発揮するんだ(でいいのかな?)という理屈のもと、マクロスお約束のクライマックス「歌って闘って最終決戦!」になると、スクリーンを航跡や光跡で埋め尽くすミサイルとビームの雨あられ、コンサート会場いっぱいに揺れるサイリュームさながらに銀河にまたたく戦いの火花、爆音に乗って宇宙に響くダブルヒロインの歌声。「戦いは数だよ兄貴!」と「機動戦士ガンダム」でドズル・ザビ中将もおっしゃっていましたが、この「マクロスF」もストーリーに野暮なツッコミを入れるスキなど与えない物量作戦で、テレビシリーズからここまで引っ張りに引っ張ってきたフィナーレを鮮やかに飾りました。いやー、気持ちよかった。

 「美少女と歌と物量」は何も日本だけの得意技ではありません。12日に公開されるディズニー50本目の長編アニメ「塔の上のラプンツェル」は、ハリウッドのパワーとしたたかさを見せつけてくれる1本です。

 魔女によって塔に閉じこめられた長い髪の少女ラプンツェルの元に王子様がやってきて――というグリム童話を基に、製作総指揮ジョン・ラセター&グレン・キーン(「アラジン」や「ターザン」で腕を振るった名アニメーター)、音楽アラン・メンケン(アカデミー賞8度)という強力な布陣で作り上げたCGアニメです。

 お話は、母ゴーテル(この顔、ちょいと「サンセット大通り」のグロリア・スワンソンが入ってる)によって塔の外に出ることを禁じられているラプンツェルが、王冠を盗んで塔の上に逃げ込んできた泥棒フリン(かなりエイドリアン・ブロディ入ってる)に道案内を頼み、空に無数のランタンを放つお祭りに連れて行ってもらうが、衛兵たちやゴーテルが追いかけてきて――というもの。追っかけやドタバタのギャグがテンポよく変化に富み、定番のミュージカルシーンもバッチリ決め、終盤の展開はヒネリがきいて先が読めずハラハラ。こういったところは、ラセターの手腕によってディズニーが着実によみがえって来ているなあと思わせます。ちなみにフリンの最も手ごわい敵は「馬」で、こいつが「カリオストロの城」みたいな大ジャンプを見せるところがまたいいのです。

 さて物量その1は、ヒロインの髪。魔法の力が宿るという70フィート(21m)の金髪が、ツヤツヤ輝いてフワフワなびいてしなやかにうねって、さらにはロープのように垂らしたり縛ったり。これで自由自在に動けばイカ娘です(そうはなりません)。ハリウッドのCG技術者はどうも「毛」に対する執着が強いらしく、「モンスターズ・インク」あたりから強迫観念的に毛の密度と質感を追究してやみません。

 物量その2は、クライマックスのランタン祭りです。宵の湖にボートを浮かべたラプンツェルとフリンを包み込むように、湖面と空が無数の淡い光で埋め尽くされる幻想的なシーンは圧巻です。このシーンのランタンの数は4万6000個もあるんだと、報道用資料に誇らしく書かれています。「戦いは数だよ兄貴!」(byドズル・ザビ中将)です。美しいヒロインを満たす幸福感を、圧倒的物量がもたらす陶酔によって有無を言わさず観客の心に注ぎ込む。さすがディズニー。

 見ている最中はこれがCGであることを忘れてしまうほど、こなれたキャラクターの演技も見事です。これはアニメーション・スーパーバイザーも務めたグレン・キーンの手柄でしょうか。このように手がきアニメの技とスピリットがしっかり継承されているのなら、「手がきかCGか」なんて形式はどっちでもいいのかもしれません。そしてウームとうならされるのは、このヒロインが「かわいい」こと。冠を頭に載せてウットリする表情、物音におびえてフリンの背中に抱きつくしぐさ、長い髪を編んでまとめた可憐な姿。丸い顔に大きな目、ソフトな表情は日本アニメから学んだものなのでは。ハリウッドはしたたかにも、「かわいさ」まで手に入れて世界標準の座を譲るまいとバージョンアップを続けている。「塔の上のラプンツェル」という、邦題が何だかジブリっぽいこの作品を見ながら、そんなことを感じました。

 というわけで、ゴージャスな映像でデリシャスな美少女が楽しめるデカルチャーな2作品、見比べてみてはいかがでしょう。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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