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2011年5月23日
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小原篤のアニマゲ丼

ロマンはないが、何がある?

文:小原篤

写真:「ロマンはない」の若き日の夫婦。身重なのに旅行先が雪国だった、というのがグチのタネ拡大「ロマンはない」の若き日の夫婦。身重なのに旅行先が雪国だった、というのがグチのタネ

写真:来日した監督のスギョンさん(左)とホン・ウンジさん=名古屋市で拡大来日した監督のスギョンさん(左)とホン・ウンジさん=名古屋市で

 とある夫婦の物語。キツイ性格の妻とズボラな夫が子どもたちに思い出話を聞かせる。そこにロマンはないが、さて何があるのか? 先日見た韓国の長編アニメ「ロマンはない」(2009年)が面白かったので、今回はそのお話です。

 韓国のインディーズアニメ31本(短編30本+長編1本)を集めた「花開くコリア・アニメーション2011」で見ました(5月14・15日、名古屋の愛知県芸術文化センター)。東京・大阪でも開催されたので、そちらで見た方もいらっしゃるでしょう。

 「インディーズ」なのに長編(70分)で、劇場で一般公開もされたというのにまずオドロキ。主催者のシネマコリアのお話では、韓国の国立映画学校「韓国映画アカデミー」が、同国最大手の映画会社CJエンターテインメントと提携し、学生チームの出した企画をコンペにかけて作品を作らせ、同社系列のシネコンにかける、という仕組みだそうです。「インディーズ」と呼ぶかどうかはさておくとして、「ロマンのある」取り組みですね。

 監督は同アカデミーでアニメを専攻したホン・ウンジさん、スギョンさん、パク・ジェオクさんの3人。上映後のトークでホンさんは「日本は公的な支援がなくても長編が作れる環境があるが、韓国ではなかなか。日本がうらやましい」と話していましたがそれは商業ベースの話で、学生に長編を作らせるとは(そして学生もちゃんと完成までもっていくとは)韓国は豪気というか本気なんだなあと思います。

 同アカデミーは、大学を卒業して社会人を経て映画界入りを目指して入ってくる、というケースが多いそうで、実技重視のスパルタ教育、「映画士官学校」の異名もあるそうです。「八月のクリスマス」のホ・ジノ監督や「殺人の追憶」のポン・ジュノ監督らが輩出しています。

 さてその「ロマンはない」は、韓国映画でよく見る残酷サスペンスでも甘〜いメロドラマでもなく、冒険とかバトルとかファンタジーとか萌えでもなく、日常アニメ(日本の「日常系アニメ」とは違います)。27回目の結婚記念日にリビングで豚足かじって焼酎を飲みながら、4人の子どもとサエない思い出をグチり合ううちに、夫婦はだんだんと険悪な雰囲気に……という、まさに「ロマンはない」展開。

 いい加減な夫のせいで家族旅行で歓楽街に入り込んでしまったとか、お見合いの後のデートではロクに口もきかずメシを食うだけだったとか、結婚を決めてもないのに実家にあいさつに行ったら同じ部屋に寝かされてドキドキとか、小さなエピソードを重ねる構成は「韓国版となりの山田くん」(主催者の触れ込みは「韓国版サザエさん」)。ファミリーものっぽい外見なのに「ムダに4人も産んだかねえ」といった辛辣なセリフや大人向けのネタやヘビーな展開もあって意表を突かれます。ここらへんの自由度は「インディーズ」らしさ、なのでしょうか?

 後半のクライマックスは、自分の親ばかり大事にする夫の無神経な言葉に傷ついた妻が家事育児を放棄し何日も部屋に引きこもった、という暗い思い出。まさに「鬱」展開です。フトしたきっかけで部屋を出て、ひとりでにわだかまりが溶けていく瞬間の繊細な表情の変化(ここだけ水彩タッチのアニメーションになります)、セリフもモノローグも使わず長い沈黙で感情を盛り上げる演出が、ピタリと決まって見事です。

 上映後のトークで、私の前の席にいた映画評論家の森卓也さんがこの場面について質問すると、スギョン監督いわく「一番悩んだ場面で、部屋を出てまずどこを見て、どんな顔をして、とカットごとに細かく検討を重ね、何十回も変更した」。ホン監督は「実はミキシングの段階までセリフがあったが、ない方が感情を表現できると思いセリフを抜いた」と明かしてくれました。作る側にしても冒険だったのですね。ここのタメからグッと感情が盛り上がるヤマが、長編らしいまとまりを映画に与えています。

 ラストは、思い切りグチを吐きだした後、「じゃもう寝ましょ」と妻は酔った夫の手を引いて起こします。「ロマンはないが、そこに愛はある。そんな思いを込めた」とホン監督。「互いに傷を負いながら、和解をする。そのとき芽生えるのが愛なのでは」

 シンプルな絵柄と動きは、はじめ「ややチープかな?」とも感じましたが見ているうちに慣れてきて、さりげない表情からも内面がしっかり伝わってくるし、妻の若い頃のツンデレっぷりもかわいく見えてきます(デレは2カットくらいしかないけど)。

 ちなみにモデルはホン監督の家族で、「7割が実話、3割が脚色」だそう。じゃあお母さんは美人なの? 「美人です。あいにく子どもは誰も、母に似ませんでしたけど」

 なかなか見る機会のない作品をオススメするのは気が引けますが、どこかで上映の機会がありましたら「ロマンはない」ぜひご覧になってください。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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