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2011年6月6日
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小原篤のアニマゲ丼

まえだまえだまえだまえだ

文:小原篤

写真:「奇跡」から、龍之介(左、前田旺志郎)と航一(前田航基) (C)2011「奇跡」製作委員会拡大「奇跡」から、龍之介(左、前田旺志郎)と航一(前田航基) (C)2011「奇跡」製作委員会

写真:母のぞみ(大塚寧々)と父健次(オダギリジョー)拡大母のぞみ(大塚寧々)と父健次(オダギリジョー)

写真:龍之介は父の身の回りの世話もする拡大龍之介は父の身の回りの世話もする

写真:石田敦子作「球場ラヴァーズ」3巻(少年画報社) 表紙のみなみは際どい格好ですがこんな場面は出てきません拡大石田敦子作「球場ラヴァーズ」3巻(少年画報社) 表紙のみなみは際どい格好ですがこんな場面は出てきません

写真:アニメーターの成長を描いた石田敦子さんの「アニメがお仕事!」(全7巻) こっちも傑作拡大アニメーターの成長を描いた石田敦子さんの「アニメがお仕事!」(全7巻) こっちも傑作

 癒やされましたとか、元気が出ましたとか、口に出すと何だか陳腐な響きですが、癒やされて元気が出ちゃったもんはしょうがない。今回は最近出会ったそんな作品を二つご紹介します。

 まずは、小学生兄弟のお笑いコンビ「まえだまえだ」主演の映画「奇跡」(11日公開)。監督(脚本も)の是枝裕和さんは「誰も知らない」(2004年)でも、子どもたちの自然で生き生きした表情をとらえていましたが、今回も主役の前田航基・旺志郎兄弟をはじめとした子役たちが、画面の中でのびのびと楽しく弾けます。「誰も知らない」はツライお話でしたが、「奇跡」はストレートに子どもの成長をことほぎます。

 親が離婚して鹿児島と博多で離ればなれに暮らす兄・航一(航基)と弟・竜之介(旺志郎)は、「鹿児島と博多をつなぐ九州新幹線の一番列車同士がすれ違う瞬間を目撃すると願いがかなう」といううわさを聞きつけ、それぞれの友人を連れて中間点の熊本を目指す。お金を工面し、親をごまかし、学校を抜け出して、子どもたちだけの冒険旅行の結末は――。

 小6の兄は、火山灰あびながら何でみんな平気で暮らしてんの?と桜島をにらみつけ、就活中の母を案じ、このまま家族がバラバラになったら…と危機感を募らせ、いろいろ屈託を抱えていますが、小4の弟は天真爛漫(らんまん)、いつも仲のいい女の子たちに囲まれ、グータラな父を叱咤(しった)し、庭で野菜を育てるしっかり者の一面も。

 悩めるリーダー体質の兄と天然なアイドル体質の弟。監督がまえだまえだの2人に合わせて作り上げたこのキャラクターがまさにかけあい漫才のようにかみ合い、絶妙なユーモアを生みます。また、さりげないセリフから登場人物の個性や心情を描き出し、巧みに群像劇を織り上げていく手際も見事。脇役で特に光るのが父・健次です。「30過ぎてもダラダラと夢を追いかける売れないミュージシャン」という、こんなフリーダムな役をやらせたら日本一のオダギリジョーさんが演じています。

 「航一には自分の生活より大事なものを持ってほしいんや。音楽とか、世界とか」と息子に語るこのセリフには、フリーダムでダメダメな感じが漂っていますが、終盤、航一がこの言葉への答えのようなセリフを口にする時、そのイメージは鮮やかにひっくり返ります。この男の子にとっては成長の小さな一歩でも、災厄を抱えた今の現実を生きる観客にとっては、まさに世界を救う崇高な精神とまぶしい希望が目に映るのではないでしょうか。私はそう見ました。「奇跡」というタイトルにふさわしい作品です。

 さてもう1作は、アニメーター出身のマンガ家・石田敦子さんの「球場ラヴァーズ――私が野球に行く理由――」(少年画報社)。野球知識ゼロの女子高生・実央が、カープファンのOL・基町とアニメーター・みなみに球場で出会ったことから徐々に応援にのめり込んでいくという「前代未聞のプロ野球応援席マンガ」「ビジター外野席で繰り広げられるヒューマンドラマ」(帯の惹句より)。野村宗弘さんしかり、こうの史代さんしかり、そして石田さんしかり、「広島出身のマンガ家はマンガの中でカープへの愛を語らずにはいられない」の法則にのっとったカープ応援マンガで、前田智や黒田や衣笠やマエケン(前田健太)ら選手に言及はしますが(そして熱い愛やウンチクが語られますが)プレー場面はほとんど出てこないのがミソ。

 「万年Bクラス」球団に捧げる愛とその悲哀をベースに、学校でのいじめや不毛な恋や職場での軋轢(あつれき)といった各キャラクターのドラマを絡ませ、カープの応援が自分自身への応援につながっていく、という仕立てですが、今ご紹介するのにはワケがあります。出たばかりの最新刊3巻に描かれているのは2011年のシーズン開幕――のはずがそれを遅らせてしまった東日本大震災。「こんなときに野球なんて…」そして「こんなときにアニメなんて…」と打ちひしがれ泣くみなみに、実央はたずねます。「あの――アニメって作ろうと思ったらすぐ出来るものなんですか? 1日2日で?」。この先は、もったいないのでココでは書きません。

 現実のプロ野球の進行に即した物語という設定から震災を取り込んだ、というのも事実でしょうが、「応援」を使命とするこのマンガがここでこの道に進まないでどうする、という作者の覚悟を感じます。1巻から読み返せば、「負けても打席はまわってくる」「一生懸命をバカにすんな」「まっすぐだからみれる夢がある」「始まりの鐘は笑って鳴らそうよ」といった熱いメッセージが大声援のようにこだまして、元気づけてくれます。

 というわけで、子どもの笑顔に癒やされ大人の覚悟に元気づけられた2作品をご紹介しましたが、ただ並べたのではコラムとして芸がない。ほら、両者をつなぐ「糸」がちゃんとあるでしょ、まえだまえだまえだまえだ……。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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