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2011年6月13日
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小原篤のアニマゲ丼

デンデンデラデラ

文:小原篤

写真:映画「デンデラ」は6月25日公開 (C)2011「デンデラ」製作委員会拡大映画「デンデラ」は6月25日公開 (C)2011「デンデラ」製作委員会

写真:老婆たちはデンデラで自給自足の暮らしをしていたが……拡大老婆たちはデンデラで自給自足の暮らしをしていたが……

写真:カユ(左、浅丘ルリ子)はクマを追い雪山へ拡大カユ(左、浅丘ルリ子)はクマを追い雪山へ

 試写室は驚きと勘違いで満ちています(私に限った話かも知れませんが)。

 ナタリー・ポートマンがアカデミー主演女優賞を取った「ブラック・スワン」って、てっきり「大役を任されたバレリーナが芸術的な課題やライバルとの確執や精神的な重圧と闘うドラマ」、つまりいわゆる「芸道もの」と勘違いして試写に行ったら、なんとホラーめいたサイコサスペンスでした。そういえば監督のダーレン・アロノフスキーは今敏監督のサイコサスペンス「パーフェクトブルー」が大好きでリメークしようとしてたんだっけと思い出し、そうかこの虚実混交は彼なりの「パーフェクトブルー」なのかも、と思い至ったわけですが、バレエがご趣味の上品なマダムやお嬢様がコレを見に行ったらさぞかしビックリしたことでしょう。ポートマンの背中にヘンなブツブツができてそれをブチッと……なんて皮膚感覚に訴える痛い描写は、私も鳥肌が立ちました(←見た人には分かるシャレ)。

 6月25日に公開される「デンデラ」は、それを上回る驚きでした。佐藤友哉さんの同名原作がどんなものか知らず、「姥捨山には、続きがあった。」という宣伝コピーを見、「捨てられた老女たちが暮らす人里離れた共同体“デンデラ”で、彼女たちが困難な状況に立ち向かっていく姿を描いた、現代人への『生きることの賛歌』だ」というプレス用資料のイントロダクションを読み、「楢山節考」の今村昌平監督の息子である天願大介さんが監督すると聞いて想像したのは、同じく「姥捨て」を題材とした恩地日出夫監督の「蕨野行(わらびのこう)」(2003年)みたいな生と死のドラマ、つまりいわゆる「文芸もの」だったわけですが、内容はその予想を大きく覆すものでした。いや、生と死のドラマであることに変わりはないのですが……。

 雪深い山に捨てられた70歳のカユ(浅丘ルリ子さん)は、生き延びた老婆たちの集落「デンデラ」に迎え入れられますが、彼女たちの目的は、自分たちを捨てた村を襲撃し村人(つまり彼女たちの家族)を皆殺しにすること。気勢を上げる彼女たちを見て、私の頭に「え??」とランプが灯ります。

 デンデラのボスは100歳のメイ(草笛光子さん)、襲撃に異を唱える穏健派のリーダーは89歳のマサリ(倍賞美津子さん)。草笛さんは鬼のツノみたいなかんざしを差してど迫力で老婆たちをアジり、黒いアイパッチの倍賞さんが長い銀髪をなびかせ幽鬼のように雪原に立ち、野生のトラのような眼力(めぢから)の浅丘さんがじっと成り行きを見つめる。「文芸もの」には似つかわしくない殺気と緊張感。「あれえ???」私の頭のランプが激しく点滅を始めます。

 そして、デンデラを巨大なクマが襲う! 雪をかきわけた道でクマと目が合った瞬間、「デンデラ〜!」と老婆が叫びクマパンチで血がビュシュウッ! 「エェエェェ!」私の頭の中で警報音が鳴り響きます。手をちぎられ、足をもがれ、腹を裂かれ、雪原を真っ赤に染める老婆の血潮! 老婆たちも黙ってやられてばかりじゃいません。クマをぶち殺せ!と日ごろ鍛えた弓矢やヤリで反撃、クマとおばあさんたちの闘いのゴングが打ち鳴らされます。

 浅丘さんも草笛さんも倍賞さんもそのほかのベテラン女優たちも大変な熱演。でも、クマと老婆の雪まみれ血みどろアクションムービーなんてものを見せられるとは、思っていませんでした。それにしてもこのクマ、執拗に人間を狙い、一撃で致命傷を与えてはすぐさま次の標的へ。情け容赦ない殺戮(さつりく)マシーンと化し、死体の山を築いていきます。これじゃホラー映画の殺人鬼です、「13日の金曜日」のジェイソンも真っ青です。

 「なんだよ、そんな映画ならまったく予備知識なしに映画館で驚きたかったなあ」と、ここまで読んでお怒りになる読者の方がいたら申し訳ありませんが、「ベテラン女優たちの激しいアクションをたっぷり見たいゼ!」という願望を心秘かに抱いている映画ファンがこの作品を見逃してはいけないと思い、ご紹介いたしました。

 それではみなさま、デンデラ〜(ビュシュウッ!)。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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