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2011年8月15日
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小原篤のアニマゲ丼

親がガチョウで子がパンダでも

文:小原篤

写真:「カンフーパンダ2」は19日から全国公開 (C)2011 DreamWorks Animation LLC.拡大「カンフーパンダ2」は19日から全国公開 (C)2011 DreamWorks Animation LLC.

写真:「ツリー・オブ・ライフ」は公開中 (C)2010 Cottonwood Pictures LLC.拡大「ツリー・オブ・ライフ」は公開中 (C)2010 Cottonwood Pictures LLC.

写真:「大鹿村騒動記」も公開中。左端が原田芳雄 (C)2011「大鹿村騒動記」製作委員会拡大「大鹿村騒動記」も公開中。左端が原田芳雄 (C)2011「大鹿村騒動記」製作委員会

 本欄「アニマゲ丼」は今回めでたく第200回を迎えることができました。皆様のご愛顧のたまものであります。200回だからって特にメモリアルなことがあるわけでなく、間もなく公開の面白いアニメでもご紹介することにしましょう。第41回「パンダかわいや、かわいやパンダ」で取り上げた「カンフーパンダ」の続編「カンフーパンダ2」(19日公開)です。

 前作で、食いしん坊でボテ腹でお調子者でぐうたらなパンダのポーはめでたくカンフー・マスターになり、本作では老師から奥義「内なる平和」を身につけるよう求められる。ポーが村を襲うオオカミたちを快調にやっつけていたその最中、とある紋章を見て体が硬直。そのトラウマの裏にはポーの出生の秘密が…というお話。そりゃ出生に秘密はあるでしょうよ、ラーメン屋を営む父はガチョウなんだから。「本当の父親じゃないことは何となく分かってた」と言われショックを受ける父(おいおい)。養父に対してわだかまりを抱えたまま、秘密兵器でカンフーを滅ぼそうとたくらむクジャクのシェン大老に立ち向かうことになるが、シェンはポーが親から引き離された時のトラウマにかかわっていて、と話は進みます。

 殺陣はめまぐるしく、ポーと仲間(トラ、サル、ヘビ、カマキリ、ツル)の連携技はアクロバティック。鋭い羽を華麗にひらめかすシェンもいい悪役っぷり(吹き替えの藤原啓治が好演)。人力車やら獅子舞のかぶり物やら大道具小道具を利用したアクションもよく練られていますが、そのくらいはハリウッドのCGアニメなら普通のこと。この映画の光る点は、奥義をつかむ瞬間に、封印されていた母の記憶が、そして養父や仲間との思い出がカットバックされるシーン。実母の愛、養父の愛が心を満たして「内なる平和」に到達したことを直感的に納得させ、奥義獲得とトラウマ克服とアイデンティティー確立をビジュアル一発で描く鮮やかな演出です。

 その「内なる平和」という技は武術らしからぬ実に穏やか〜な動きで、冒頭に老師が見本を見せた時には「コレが戦いの役に立つの?」と観客に思わせておきながら、シェンの「秘密兵器」に対してはものすごく効果的。これまたビジュアル一発で納得させる心憎い作りだからこそ、ポーの脱力的アクションが痛快で笑えるのです。

 前作はかわいくないパンダが好きになれず(今もかわいくないけど)、秘めたるパワーが目覚めるクライマックスもどこかごまかされた感じがしたのですが、第2作はドラマのポイントの処理が際立って、グッと魅力的になってきました。ところで、男前な性格をしている仲間のマスター・タイガー(声はアンジェリーナ・ジョリー/木村佳乃)はポーを随分と意識してるようですが(抱きつかれてドキッとか)「ガチョウの親からパンダは生まれない」この世界で、異種間の恋愛をどう発展させる気なんでしょう。終幕に続編の布石があり、期待を抱かせます。

 「過去なんて忘れちゃえ。そんなの、どうでもいいんだ」というポーの言葉がこの映画の教訓ですが、主人公が父へのわだかまりを子供時代から抱え続けているという映画が、ちょうど公開されたばかりなのでついでにご紹介。もはや伝説的と言える寡作ぶりで有名なテレンス・マリック監督が今年のカンヌ映画祭を制した「ツリー・オブ・ライフ」です。「カンフーパンダ2」と「ツリー・オブ・ライフ」を両方見る人なんていないって? もしかしたらいるかも知れないじゃないですか、私みたいに。

 主人公(ショーン・ペン)が子供時代をふり返るという形式。頼もしく厳格な父(ブラッド・ピット)、美しく優しい母、やんちゃな2人の弟、青々とした芝生、干された真っ白なシーツ、陽光に透ける母のワンピース、さえずる鳥の声、ひらめくレースのカーテン、ピーター・ラビットの絵本を読みきかせる母、父の靴はいつもピカピカでズボンの折り目はクッキリで……と、アメリカ中産階級の漂白されたノスタルジーといった趣の回想の合間合間に、大自然、細胞、宇宙、恐竜、地球…など「2001年宇宙の旅」か「ガイア・シンフォニー」かといった趣の荘厳な映像が挿入され、「神の恩寵(おんちょう)」などについての哲学的な思弁がモノローグでかぶさる、という映画です。

 高圧的に振る舞う父に主人公は反抗心を募らせついに衝突するが、仕事のつまずきから父が自分の過ちに気づく、というのがドラマの核。ささいなことでウジウジ悩む主人公と、宇宙的スケールの映像詩の落差がどうも気になって、誇大妄想・自己陶酔のニオイから「巨匠病」という言葉が頭をよぎりもしますが、日常のひとコマまでどこまでも完璧に美しい映像には圧倒されます。個人的には、ポーチで弟がつま弾くギターに父がピアノを合わせる何げない場面が、どんな壮大な映像よりも、平穏で、幸福で、切なくて、心に響いてきました。一瞬の中に永遠が、卑近な営みの中に生の輝きがある、と気づかせてくれる一シーンでした。

 「卑近の中の輝き」は、公開中の「大鹿村騒動記」でたっぷり堪能できます。小さな村の食堂の老店主・善(これが遺作となった原田芳雄)のもとに、逃げた妻(大楠道代)が駆け落ち相手の親友(岸部一徳)と18年ぶりに帰ってきます。妻は認知症で駆け落ちしたことも忘れ、300年続く村歌舞伎の主役を務めるが準備はトラブル続き、そこに暴風雨もやってきて村は大騒動。「ツリー・オブ・ライフ」の何倍も面倒な状況を背負い込んだ主人公は、かつてのように妻と再び舞台に立つことを決心しますが、さてその結末やいかに……。

 演目「六千両後日文章(ろくせんりょうごじつのぶんしょう)重忠館(しげただやかた)の段」と、善と妻のドラマが重なっていく構成の妙にはうならされます(脚本は荒井晴彦と監督阪本順治の共同)。終盤、善がしみじみとつぶやく歌舞伎のセリフ「仇(あだ)も恨みもこれまでこれまで」は、心のわだかまりを溶かす呪文のように霊験あらたか。マネをしてつぶやけば、ザワついた心もスッと静まりますよ。

 というわけで、「カンフーパンダ2」もいいですが、夏の一番のおすすめはこの「大鹿村騒動記」。今週金曜で終了という映画館も多いようなので、お早めにどうぞ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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