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2011年9月12日
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小原篤のアニマゲ丼

1997年 あの時なにかが変わった

文:小原篤

写真:「もののけ姫」DVD(ウォルト・ディズニー・ジャパン)拡大「もののけ姫」DVD(ウォルト・ディズニー・ジャパン)

写真:鳳来町(当時)の森と加藤隆雄さんの奥さんふみ子さん。伊藤道広さんが森の音を録音した場所です=1997年8月撮影拡大鳳来町(当時)の森と加藤隆雄さんの奥さんふみ子さん。伊藤道広さんが森の音を録音した場所です=1997年8月撮影

写真:記事は1997年8月22日朝刊(名古屋本社版)社会面に載りました拡大記事は1997年8月22日朝刊(名古屋本社版)社会面に載りました

 先日の本欄に私が女子中学生にインタビューされた話を書きました。彼女には「私が新聞社に入ったころは、アニメが新聞の記事になることなんてほとんどなくて、なので自分自身がアニメの記事をたくさん書くことになるなんて、なんだか不思議な気がします」なんて話もしたのですが、ふとふり返って「あの記事が私の転機、そしてあの頃が時代の分かれ目だったのかも…」と思い出したことがあります。今回はそのお話。あの時も、私は名古屋にいました。

 1997年夏、宮崎駿監督の「もののけ姫」が大ヒットしていました。名古屋の社会部に当時在籍していた私は、映画のエンドクレジットに「効果音取材協力 愛知県鳳来町 加藤隆雄」とあるのに気づきました。クレジットに目をこらすのはオタクの習性。「もののけと愛知県鳳来町に何のかかわりが? これは記事になるかも」 

 さっそく東宝の宣伝部に電話すると、スタジオジブリの広報担当者につないでくれ、ジブリから音響監督の若林和弘さんの連絡先を教えてもらい、若林さんに問い合わせて、効果音担当の伊藤道広さんにたどりつきました。そして伊藤さんが、こんな話をしてくださいました。

 劇中、森を見下ろす岩の上で主人公アシタカと山犬モロが言葉を交わします。このシーンのために「かすかに木々のざわめきが聞こえ、夜の森の空気が感じられるような、音にならぬ音」がほしかった伊藤さんは、96年11月、機材を抱えて鳳来町に向かいました。「子どものとき、ものすごく静かだったのを思い出したんです」 

 伊藤さんの両親は空襲で東京の家を失い、終戦直後に3人の子どもを連れて鳳来町にあった知人の空き家に移り住み、そこで4番目の子として伊藤さんが生まれました。そのとき、畑の野菜を分けてくれるなど親切にしてくれたのが近所に住む加藤隆雄さん。伊藤さんが小学校4年の時に一家で東京に戻った後も、つきあいが続いたそうです。

 「静かな森の音を録音したいんだけど」と言う伊藤さんを、加藤さんは「あそこがいいよ」と車で5分ほどの森まで案内し、伊藤さんはそこにテントを張って録音しました。クレジットに加藤さんの名を入れ、映画が完成した97年6月に礼状と前売り券を送り、電話をしたところ、加藤さんは2月に腹膜炎で亡くなっていたのです。

 「分校で教わった先生のお墓に連れていってくれたり、軽トラックで録音場所まで送ってくれたりと、昔と変わらず親切にしてくれた。ヒットした作品を見てもらえなくて残念です」

 1行のクレジットに、思わぬドラマが隠されていました。私も鳳来町へ行き、加藤さんの奥さんに録音場所まで案内してもらって写真を撮りました。記事は8月22日の朝刊社会面(名古屋本社版)に、堂々たる大きさで載りました。見出しは「『もののけ』誘う鳳来の音 森の静けさアニメ映画に生きた」。記事を見た鳳来町役場が、同じ構図の写真を撮って広報に載せた、とあとで知りました。興行記録を塗り替える国民的大ヒット映画とのかかわりを、「わが町の名誉」と喜んだのでしょう。

 「アニメは記事になる!」。手応えをつかんだ私は、この年の12月にロボットアニメの記事で記者人生初の1面トップを飾るのですが(2009年4月6日の本欄「1面トップはロボットアニメ」参照)、この1997年という年は、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版」も公開されて社会現象と言えるブームが巻き起こり、「時の人」となった庵野秀明監督は「AERA」の表紙を飾りました。

 そして、いいニュースではありませんが、12月にはテレビを見た子供たちが倒れる「ポケモン・ショック」事件があり、私も社会面に記事を書きました。社会にとって、新聞などのマスメディアにとって、アニメがいろんな意味で存在感を増していくのを感じた年でした。翌年4月に私が東京の学芸部(当時)に移ってアニメの記事を書き出すのも、そうした時代の流れに乗ったものだったと思います。

 愛知県鳳来町は2005年、「平成の大合併」で新城市の一部となりました。時代は流れていきますが、森の静けさは今も変わっていないでしょう。伊藤道広さんは、最近もどこかでお名前を拝見したはず、と思って調べたら「侵略!イカ娘」じゃなイカ!

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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