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2011年9月19日
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小原篤のアニマゲ丼

宮崎あおいは良い妻だ

文:小原篤

写真:映画「ツレがうつになりまして。」から (C)2011「ツレがうつになりまして。」製作委員会拡大映画「ツレがうつになりまして。」から (C)2011「ツレがうつになりまして。」製作委員会

写真:ツレのひざにいるのはペットのイグアナ「イグちゃん」拡大ツレのひざにいるのはペットのイグアナ「イグちゃん」

写真:原作シリーズの最新刊「7年目のツレがうつになりまして。」(幻冬舎)が9月10日に出た拡大原作シリーズの最新刊「7年目のツレがうつになりまして。」(幻冬舎)が9月10日に出た〈「7年目のツレがうつになりまして。」を商品検索〉

写真:名古屋で会見した佐々部清監督拡大名古屋で会見した佐々部清監督

写真:映画「神様のカルテ」から (C)2011「神様のカルテ」製作委員会 (C)2009夏川草介/小学館文庫拡大映画「神様のカルテ」から (C)2011「神様のカルテ」製作委員会 (C)2009夏川草介/小学館文庫

写真:名古屋駅前の映画館には「ツレうつ」と「神カル」が仲よく並んでいた拡大名古屋駅前の映画館には「ツレうつ」と「神カル」が仲よく並んでいた

 「良妻・宮崎あおいに二つの顔!」とか書きますと、どこかの週刊誌の見出しみたいですが、いえいえそういう話(どういう話だ?)ではありません。宮崎さんが妻を演じている「ツレがうつになりまして。」(10月8日公開)と「神様のカルテ」(公開中)を見比べたらいろいろ面白かった、というお話です。前者は「奮闘する良妻」、後者は「鎮座する良妻」といったところでしょうか。

 ご存じ細川貂々(てんてん)さんのコミックエッセーを、宮崎あおい・堺雅人の「篤姫」コンビで映画化した「ツレうつ」は、掛け値なしの秀作。「売れてる本を売れてる2人で映画化したのね」くらいな軽い気持ちで見に行った私は、深く不明を恥じました。2人とも、演技については折り紙付きの超本格派ですものね。

 売れないマンガ家「ハル」(原作ではてんさん)と、外資系IT企業で働く夫「ツレ」。きまじめなツレは過労とストレスからうつ病になり、会社を辞め、布団をかぶって泣き暮らす日々から、料理や掃除で体を動かすことで徐々に立ち直っていきます。「どうせ私なんか」的なネガティブ思考でくすぶっていたハルは、夫の病気を機に「ダラダラしてちゃいかん」と仕事に向き合い、「ダラダラしてていいからね」と夫に笑顔で寄り添う。連載打ち切りやら自殺未遂やら、山を乗り越え谷をやり過ごしてちょっとずつ成長していく夫婦の物語は終盤、教会の結婚講座同窓会でピークを迎えます。宮崎さんが「健やかなるときも、病めるときも」と言ってスピーチの最後にぐっと言葉を飲み込む様は、泣けます。

 テンパった状況を一歩引いて客観視し、例えばシクシク泣くツレを「申しわけない病」とか「宇宙カゼみたいなものだ」と表現して、ユーモアにくるんで描き出すのが原作の味わい。映画は生身の役者が演じる分、よりドラマチックで、そしてどうしても重くはなりますが、繊細でリアルな演技をしつつもどこか超俗的な雰囲気があるこの2人が絶妙で、ジメついたところがありません。宮崎さんは天真爛漫な女の子の風情をまとい、家事全般が苦手のぐうたら同居人から頼もしきパートナーへの成長をナチュラルに演じています。堺雅人さんも7キロ減量して「貧相」な外見となり、気弱な子どものようにメソメソ愚痴をこぼす様は、堺雅人史上最高に情けなくて最高に好感の持てる演技です。

 ツレが料理を作った場面、「(病気のせいで)味が全然わからなくて塩を入れすぎた」と落ち込むツレを「私よりおいしいよ」とハルがなぐさめると、「ハルさんに言われてもうれしくないよー」と言って泣き出す(ハルはムッとする)。当の本人が真剣であるほど傍目にはおかしくてならない、という喜劇の典型ですが、笑いながらも胸をつかれる印象的なシーンでした。

 「ツレうつ」は一度テレビドラマ化されましたが、映画の佐々部清監督はその前から原作に惚れ込んで早々に脚本化(脚本は青島武)、4年をかけてようやく公開にこぎ着けました。ここ10年の間に奥さんのいとこと高校時代の友人がうつ病で自らの命を絶つ、という経験をした監督は「うつ病をこんなに大らかで力強く表現しているこの原作を、このテーストのまま映画にできたら、苦しんでいる人たちに『がんばらなくていいんですよ』というメッセージを送れると思った」と話しています。この作り手の確信は、映画からしっかり伝わってきます。

 宮崎さん起用はプロデューサーが、堺さん起用は監督が提案したそうです。「奇跡のようなカップリングで、2人の演技について私が演出したところはほとんどない」。原作の2人はマンション住まいでしたが、それを古い日本家屋に替えたのは監督のナイスアイデア。たたみに寝そべり、縁側に腰掛け、庭を眺めて和む。映画全体に心地いいぬくもりをもたらしました。

 さて「神様のカルテ」の方ですが、私が見たのはコッチが後でした。「泣ける」と評判の夏川草介さんの小説を深川栄洋監督が映画化。地方病院で忙しく働く医師を「嵐」の櫻井翔さんが、写真家であるその妻を宮崎あおいさんが演じていますが、ハードでストレス過多な日々を送る夫をクリエーター妻が支える構図が「ツレうつ」と同じじゃないか、と興味をひかれて見に行ったのです。

 列をなす患者をさばく病院勤務に疲れた主人公は、大学で最先端医療の研究をしないかという誘いに迷う。その時、大学病院に見放された末期ガン患者が主人公を頼ってやって来て――と言う物語(なんとなくオチが読めますね)。丸めた背中とボサボサの頭と目の下のクマ、背負った重責とため込んだストレスがマイナスなオーラとなって全身からにじみ出す櫻井さんは、見事ななりきりっぷりです。アイドル臭などまったくありません。

 翻って宮崎さん演じる妻は、春風のようなほほえみとおっとりした「ですます」調のしゃべりで、終始「いやし」のオーラ。旅館だった建物に暮らし(こちらも和風で古風な家!)、ほかの住人からは「姫」と呼ばれます。これもまあ、宮崎さんの魅力を生かした役ではありますが、精神的な振れ幅が小さいので「ツレうつ」の後では正直、物足りなく感じました。ラストも、「ツレうつ」の「人生これからも晴れたり曇ったり」という結論に比べれば、「神様のカルテ」は口当たりはいいけれど少々甘いと言わざるを得ません。しかし考えてみれば、うつ病増加とか地域医療の疲弊とか、両作とも重い社会問題が背景になっているんですね。

 佐々部監督は自作「日輪の遺産」(堺雅人主演)と「ツレうつ」の公開時期が近いのをボヤいていましたが、私が「神様のカルテ」を見た名古屋の映画館では「ツレうつ」と「神カル」のでかい垂れ幕が仲よく入り口で並んでいて、「これはなんの宮崎あおい良妻まつり?」といった感じ。しかも「神カル」も、妻は「ハル」っていうんだよ!(原作がそうなってるからなんだけど)

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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