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2011年10月10日
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小原篤のアニマゲ丼

あの帰ってきたウルトラマン

文:小原篤

写真:「彼氏彼女の事情」のころ取材した庵野秀明監督=1999年撮影拡大「彼氏彼女の事情」のころ取材した庵野秀明監督=1999年撮影

写真:ダイコンフィルム版「帰ってきたウルトラマン」DVDジャケット表拡大ダイコンフィルム版「帰ってきたウルトラマン」DVDジャケット表

写真:こちらはジャケット裏。映画は80人のスタッフが約半年かけて制作。本編は26分拡大こちらはジャケット裏。映画は80人のスタッフが約半年かけて制作。本編は26分

 小4の息子は3、4歳の頃「帰ってきたウルトラマン」にハマりました。私の書棚からDVDを取り出してヘビーローテーション。しかしそれは、誰もが知る円谷プロの「帰ってきたウルトラマン」ではなく、ダイコンフィルム版「帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令」(1983年、庵野秀明総監督)。「新世紀エヴァンゲリオン」の庵野さんがまだ学生だったころ素顔のままウルトラマンを演じた、知る人ぞ知る自主制作映画です。

 2001年に山賀博之監督(「王立宇宙軍 オネアミスの翼」など)インタビューのためGAINAXに赴いたら、あの「帰ってきたウルトラマン」が円谷プロのまさかの特別許諾により期間限定でGAINAXからDVD化されたというので、「すいません、1枚下さい」と買ってきたのですが、これはもちろん自分のため。そしたら何と、息子は我が家に本当の「ウルトラマン」(初代)のDVDもあるのにそちらには興味を示さず(後に見るようになりますが)庵野版をヘビロテ。なぜ?! かつて本欄に書きましたが、宮崎アニメにしても「となりのトトロ」に関心を示さず「ルパン三世カリオストロの城」にハマったりして、ナゾの多い子です。

 なので息子にとって初めてのウルトラマンは、ボサボサ頭でメガネかけてヤッケ着た庵野さん。初めて覚えたウルトラマンの歌は、「胸につけてる マークは流星〜」でも「君にも見える ウルトラの星〜」でもなく「ビルを壊すぞ 地響き立てて〜」。これ、本家「帰ってきたウルトラマン」で主題歌候補(次点)だった歌だそうですね。同じころ息子は英国製SF人形劇「サンダーバード」も大好きだったので、おそらく庵野版の念入りに作られたミニチュア発進シーンが気に入ったのでしょう。

 さてその庵野版「帰ってきたウルトラマン」が今月、名古屋のアートシアターで上映されるというので見に行きました。庵野さんがプロデュースした映画「監督失格」(平野勝之監督)公開を記念した庵野&平野監督作品特集の一環です。スクリーンで見るのは初めてだなあ(ウキウキ)などと思いながら席に着いたら、何のことはない、フィルムではなく私も持っているDVDによる上映でした(まあ、当たり前か)。

 でもやっぱり面白い! わが息子をとりこにした戦闘機発進シーンは、あおり構図で巧みに巨大感を演出。たたみかけるカットをつないで「ナゾの隕石落下」から「正体は怪獣か!」と緊迫感を盛り上げ、司令室のアラート表示のみを撮したカットの挿み方は「エヴァ」を思い起こさせます。電話機本体と受話器の隙間から奥の人物をとらえるような、お約束の「実相寺アングル」もバッチリ。暗闇のなか怪獣の体を部分的にちょっとずつ見せて想像をかき立てるのもセオリー通り。そして破壊される街の見事なミニチュア特撮。街にまだ生存者がいるのに怪獣へ核攻撃せよと命令が下る!といったあたりから、話にのめり込んでアマチュアの自主映画であることを忘れていきます。

 そんな高揚を突然カオスへたたき込むのが、基地の建物をぶち破って「巨体」を現す庵野ウルトラマンです。ウルトラマンの体の模様を塗ったヤッケ。ファスナーを開いた胸元のカラータイマー(爪楊枝入れのフタだそうですが)。下半身はジーパンにスニーカー。度の強いメガネがまなざしを隠し、真剣なのか無表情なのかイマイチよくわからない顔。

 「こんだけ手をかけて怪獣の着ぐるみだってちゃんとしたモノなのにウルトラマンがコレってどう考えてもおかしいだろ イヤ普通の人間なのに巨大に見えるってのがシュール おいそのウルトラブレスレットただの腕時計じゃねーか ああ奥へ飛び出していく庵野マンを足下のカメラから広角で撮った絵がイカス!」と、いろんなツッコミや感嘆が頭の中を駆けめぐって独り炎上状態。これがニコニコ動画ならコメントが画面を埋め尽くすでしょう。

 力いっぱいくだらない。バカバカしさがかっこいい。でっかいことをやってやろうという未来に向けた冒険心と、徹底的なパロディーというどこか後ろ向きな遊び心の奇妙な結合体。大まじめにバカをやる若者の特権を視覚化し、わきあがる情熱と才能を「無駄使い」の方向へ暴走させたこんな規格外の熱いフィルムは、手軽で便利な映像ツールがいろいろできた現在ではもう生まれないでしょう。

 最後まで見たのは久しぶりなので興奮しました。家ではいつも、庵野ウルトラマンが出てくるあたりで息子が停止ボタンをブチッと押して鑑賞を終了してしまうものですから。ミニチュアも着ぐるみ怪獣もお気に入りなのですが、庵野マンのあの奇妙な味わいは幼児にはチョット早すぎたようです。さて、今ならどうかな?

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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