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2011年10月31日
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小原篤のアニマゲ丼

油断ならない世の中だから

文:小原篤

写真:トークをする沖浦啓之さん(右)と西尾鉄也さん=杉並アニメーションミュージアムで拡大トークをする沖浦啓之さん(右)と西尾鉄也さん=杉並アニメーションミュージアムで

写真:「人狼 JIN−ROH」セル画展は11月20日まで拡大「人狼 JIN−ROH」セル画展は11月20日まで

写真:「赤ずきんちゃんお絵かき展示コーナー」拡大「赤ずきんちゃんお絵かき展示コーナー」

写真:来館記念に西尾さんが描いたオシイヌ(壁の中央上端)。オシイヌとは押井守監督をイヌ化したキャラクター拡大来館記念に西尾さんが描いたオシイヌ(壁の中央上端)。オシイヌとは押井守監督をイヌ化したキャラクター

写真:「ももへの手紙」は来年ゴールデンウイークに全国公開 (C)2012「ももへの手紙」製作委員会拡大「ももへの手紙」は来年ゴールデンウイークに全国公開 (C)2012「ももへの手紙」製作委員会

 コラムは読まれてこそ、ですが、読まれちゃ気まずい人もおりまして……。

 東京の杉並アニメーションミュージアムで23日にアニメ映画「人狼 JIN−ROH」監督の沖浦啓之さんと作画監督の西尾鉄也さんのトークショーがあり、終了後に控え室にお邪魔して「ご無沙汰しております」とごあいさつしたら、沖浦さんが「いま名古屋にいらっしゃるんですよね?」。

 驚いて「あれ、どうしてご存じなんですか?」と聞くと「検索してたらブログを見つけて」。

 やっほう!あ、でもヤバい。「すみません!『人狼』について好き勝手な妄想を書き連ねまして」。

 どうやら「人狼」について書いた6月27日の本欄「オトコはオオカミなのよ〜」をご覧になったようで(沖浦さんは新作「ももへの手紙」で検索したのかな?)、思い返せば「これは童貞卒業の物語だ」とか「主人公の伏は不能じゃないか?」とか、監督とヒロイン役の声優の御結婚について「ニヤニヤ」とかいろいろ失礼なことを書いているので、「読んで下さったとは!」という喜びは一瞬にして冷や汗に変わり、怖くて感想は聞けませんでした(聞かれても困ったでしょうけど)。

 コラムには「『人狼』ファンの方、怒らないでね」と、張ってもしょうがない予防線を張っておいたのですが、監督ご本人に読まれてしまうとは、いやいや油断のならない世の中です。でもこんなたわけた内容のコラムは多少ウカツなくらいでないと続けられないので、適当に油断して今回も書きましょう。

 トークショーは、同館で11月20日まで開催中の「人狼」セル画展のイベントでした。セル画最後の時代を飾る究極のアナログアニメーションとされる同作の原画やセル画は、展示点数こそ少ないですが見応えがあります。でももっぱら子ども向けの企画展を開催してきた同館としては異例のチョイス。会場にはなんと、来館者による「赤ずきんちゃんお絵かき展示コーナー」があって、余りに作品内容とかけ離れたすがすがしさがシュールな笑いを誘います。「人狼」の赤ずきんが、地下水道で自爆しちゃうテロリストだと知って描いた子はいたのかな?

 さて、2000年に公開された「人狼」は、押井守監督が映画「紅い眼鏡」やマンガ「犬狼伝説」で展開してきた「ケルベロス・サーガ」に連なる作品で、反政府組織に重武装で立ち向かう特機隊隊員と彼に差し向けられた公安の女スパイ(元テロリスト)との恋と裏切りを描いた映画です。原作・脚本は押井さん、制作はプロダクションI.G。すご腕アニメーターとして鳴らしていた沖浦さんは本作で監督デビューしましたが、その経緯をトークでこんな風に語ってくれました。

 「最初は『犬狼伝説』を6本くらいのOVA(オリジナルビデオアニメ)にするからそのうちの1本演出やれと言われ、『そんなのイヤだ』とか言ってるうちにいつの間にか劇場作品になって『オマエが監督しろ』と言われて『エッ!』。興味もなかったし原作読んでもサッパリわからんし、それで、もしやるなら群像劇でなく主人公を1人にしたい、ヒロインも出してほしい、と要望を出したら押井さんが丸飲みした脚本を書いてきたので、引くに引けなくなっちゃった」

 西尾さんは「沖浦さんが監督すると聞いて、I.Gと仕事したこともないし沖浦さんとも面識ないけど、原画やりたいなくらいに思ってたら電話がかかってきて『ぜひ作監(作画監督)で』と言われて『エッ!』。約束の日を間違えて1日早くI.Gに行っちゃって、『ヤル気まんまんじゃんオレ!』でしたね」

 沖浦さん「そうそう、『西尾さんもう来てます』って言われてビックリした」

 西尾さん「劇場作品の作監なんて初めてで、やることなすこと新鮮だったけど、沖浦さんがまずレイアウト用紙を作り直させたり(セルに塗る)絵の具の会社に人を送ってふだん使ってない色を探させたりするところから始めたんで、さすがにこれはフツーじゃないな、と思った」

 沖浦さん「それまでI.Gで使ってたレイアウト用紙は何描いてもヘタに見えて。それでジブリの用紙を拝借して『ジブリ』(の文字)を消してそれをベースに……」

 とまあ、いろいろぶっちゃけ気味の楽しいお話が聞けたのですが、質疑応答の時間があったので私も音楽について質問してみました。

 沖浦さん「当時リュック・ベッソンの映画が好きで、日本的でもハリウッド的でもない(ベッソン作品を数多く担当している)エリック・セラみたいなイメージで行きたいと相談したら溝口肇さんを薦められ、デモを作ってもらったらピッタリだった」。なるほど、「エリック・セラのイメージで」という話は、初めて聞いたような気がします。

 トーク会場は満員。入りきれずに外のモニターで見ていた人を含めれば約80人が集まりましたが、沖浦さん西尾さんとも驚いていたのが、女性の多さ(約4割)。

 西尾さん「公開時に見に来たのは迷彩服着たような人ばっかりだった。『もも』はぜんぜん毛色が違うから、宣伝が難しいよね」

 確かに来春公開の沖浦監督待望の新作「ももへの手紙」は、11歳の少女が主人公の「家族の愛の物語」。装甲服と機関銃で「カ・イ・カ・ン」な迷彩服の兄ちゃんとは狙う客層が違い、小学生から一般向けなのです(西尾さんも作画に参加してます)。

 西尾さん「あの『人狼』の沖浦監督の新作!って宣伝してさぁ」

 沖浦さん「迷彩の兄ちゃん集めてもねぇ。来るなとは言えないけど」

 西尾さん「見たら怒り出したりして。『日和ってる!』とか」

 沖浦さん「先に謝っときます」

 会場の女性客はアニメーターかアニメーター志望の方もいらっしゃるようでしたが、私としては今「人狼」に女性ファンがついても不思議ではない気がします。公開から11年、装甲服と機関銃のミリタリー趣味的な「ケルベロス・サーガ」の磁波は相対的に弱まり、代わりに浮かび上がってくるのはストイックなハードボイルド、男の閉じた世界とそこに届かぬ女の愛のドラマ、そして全編に薫る上品なリリシズム(溝口さんの音楽の貢献大)。この映画の持つ色気は女性を十分ひきつけるはずです。まあでもやっぱり、「もも」の狙う客層とは違うかも……。

 展示会場にはI.Gの石川光久社長のインタビュー映像が流されていますが、それを聞くとなかなかスゴイことをおっしゃっています。

 「沖浦に『人狼』を作らせるのは迷わなかったが、『もも』は迷った。沖浦と映画を作るということは会社が傾くくらいのことを覚悟しないとできない。だが、できたものはそれだけのインパクトがある。沖浦は1年に1作とか3年に1作とかコンスタントには作れない。それは沖浦の宿題であり、逆にすごさでもある」

 瀬戸内の島が舞台の女の子の物語が、装甲服と機関銃の物騒な世界より何やら恐ろしげなことになっているようで、いったいどんな中身の詰まった映像になっているのか、いやいやまったく油断できません。

オトコはオオカミなのよ〜(2011年6月27日)

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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