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2011年11月7日
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小原篤のアニマゲ丼

飛んでも8分

文:小原篤

写真:「ミッション:8ミニッツ」は全国公開中。コルター(右、ジェイク・ギレンホール)とクリスティーナ(ミシェル・モナハン)拡大「ミッション:8ミニッツ」は全国公開中。コルター(右、ジェイク・ギレンホール)とクリスティーナ(ミシェル・モナハン)

写真:爆弾を発見するコルター拡大爆弾を発見するコルター

写真:(C)2011 Summit Entertainment,LLC.All Rights Reserved.拡大(C)2011 Summit Entertainment,LLC.All Rights Reserved.

写真:ダンカン・ジョーンズ監督の前作「月に囚われた男」ブルーレイ(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)ダンカン・ジョーンズ監督の前作「月に囚われた男」ブルーレイ(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)〈ダンカン・ジョーンズ監督「月に囚われた男」を商品検索〉

 歩いて10分、滑って転んで18分――だったっけ? 古いギャグでスミマセン。列車爆破テロで死ぬ乗客の「最後の8分間」に何度も潜入するというSFサスペンス映画「ミッション:8ミニッツ」(公開中)を見てきたら面白いけどアタマがこんぐらがっちゃったので、ほぐすために原稿にしてみたよ、というのが今回の内容です。ネタバレです。

 主人公が目覚めるとそこは列車の中。自分の名はコルターなのに向かいの女性は「ショーン」と呼んでくる。トイレの鏡を見たら別人の顔! エエ〜ッと驚いてるうちに列車はドカンと大爆発。ハッと目覚めると今度は暗いカプセルの中。軍服の女性がモニターから「報告して」と言う。一体なんのこと?

 という悪夢的不条理SFっぽい出だしから徐々に明らかにされる設定はこうです。コルターは軍務中に重傷を負い脳の一部だけが活動している状態であり、シカゴ行きの通勤列車で死んだショーンの脳と特殊な装置でつながっている。死んで間もない人間の脳には「死の前の最後の8分間」が記憶されており、「量子力学に基づく複雑なプログラム」でその「最後の8分」の世界を再現し、そこにコルターの意識を送り込むことができるという。コルターの使命は、ショーンの体に入り込み爆弾犯人をつきとめること。同じ犯人がシカゴ中心部で次のテロを計画しているらしいのだ――。

 なるほど、列車というのは一種の密室でサスペンスには格好の場。さらに「リミットは8分」というタイムサスペンス、そしてそれを繰り返させる「ループもの」の要素を組み込んだ、複雑で念入りな構成です。脚本はベン・リプリー、監督は「月に囚われた男」のダンカン・ジョーンズ。

 モニターの向こうの博士が「これは時間旅行ではない」とか「君の脳がショーンの脳と適合した」とか言ってるので、これはあくまでショーンの脳内に潜り込んでるだけなのかと思いましたが、それならショーンの8分間の言動は(ビデオを繰り返し再生するように)毎回同じでコルターは目に映るものや耳に入る音から手がかりを探し出す、というシブい展開になるはずなのに、コルターは好き勝手に動き回ってトイレの天井裏で爆弾見つけるわ、乗客のカバンをひったくってぶちまけるわ、途中下車して怪しいヤツをつけるわ、ハデにやりたい放題。どうやらショーンの脳内データを基にプログラムが完璧な過去世界を再現しちゃってるらしい。量子力学ってすげえ!(違う?)

 コルターは、向かいの女性クリスティーナに次第に心が傾き、彼女を救おうとあがき、過去は変えられないという絶望をかみしめます。「ジョニーは戦場へ行った」状態の我が身を知り「これが終わったら死なせてくれ」と嘆願し、もう一つの世界で何度も死を経験しながら現実の自分は死を選ぶ自由もないという皮肉。こういったドラマにはグッと引き込まれます。爆死しちゃあやり直してまた爆死しちゃあやり直して、ついに犯人をつきとめミッション・コンプリート。

 そしてコルターはモニターの向こうの軍服の女性グッドウィンに「最後のミッション」を頼みます。「もう一度あそこへ戻して、そして8分経ったら僕の生命維持装置を切ってくれ」。コルターが実は、一連のショーン潜入ミッション以前にも何度かミッションを課せられてきたらしい(そしてその辛い記憶は消去されている)ことが、博士らのセリフからうかがえます。モニターのグッドウィンがコルターをあわれむような表情を浮かべていたのも、それが理由でしょう。

 グッドウィンは願いを聞き入れ、そしてコルターもまた自分の願いをすべて成就させるべく、爆弾を解体し犯人を捕らえ、グッドウィンに感謝のメールを送り、クリスティーナとキス。その瞬間、8分が終了し世界が静止します。生命維持装置を切ったグッドウィンが見下ろす視線の先には哀れなコルターの亡骸……。いろいろ誤魔化された気もするけれど、悲しくて切なくていいラストじゃないかウムウム、ちょっと「100万回生きたねこ」っぽい気もするし、なんて思ってたら何と続きがあったのです!

 列車内の世界が動き出し、コルターとクリスティーナはラブラブでシカゴを散策。グッドウィンには「僕と君とでテロを阻止したことを、やがて君は知るだろう」といったメールが届く。けげんな顔のグッドウィンの前で、博士と軍人が「コルター使ったあの計画がんばろうぜ云々(←このへんうろ覚え)」と話している。さらにメールは「その基地のどこかにいる僕の力になってくれ」。確かにグッドウィンの見つめる先には、ちゃんとコルターが装置につながって生きている。

 ハテ、これはどういうこと??

 ボケラッタな私は映画館から帰る電車の中でようやく「あ、そうか!」と思い当たりました。私と同じSFに疎い方も、もう一度このコラムを頭から読み直したら分かるかも知れません。つまりあれはプログラム内の完璧な仮想現実ではなくパラレルワールドだったというオチなのね。SFに通じた方なら「量子力学って言葉で気づけよ、バレバレだろ」といったところなのでしょうけど。

 A世界(オリジナルの現実)のコルターがB世界のショーンに入り込み、次にC世界、そしてD、E、F…といくつものパラレルワールドに行っては戻って、「最後のミッション」でX世界へ行き、A世界の肉体が滅びたのでもうA世界には戻れず(戻されず)X世界のショーンの体で生き続ける。で、X世界のコルター(メールを受け取ったグッドウィンが見ているコルター)は、これからY世界の誰か(またショーンだったりして)に入り込む、と。ああヤヤコシイ。

 パラレルワールドが8分たっても終了せずに「その先」があるなら「死ぬ前の8分間の記憶が脳内に」とか言ってたアレは何だったの? X世界のショーンは死んじゃいないんだけど、そのショーンの意識はどこへ消えたの? とか、考え出すとまた頭がこんぐらがるので、そういうのはSF脳な人に任せておきましょう。

 しかし、バッドエンドが何度来ても最後はパラレルワールドでハッピーエンド!でOKとなると、「過去は変えられない」「人生は一度きり」「人生最後の8分間、あなたは何をする?」といったテーマが全部ご破算になっちゃう気もします。まあ、お話の中で何度も何度も「ハイご破算でやり直し!」とやっている映画ですから、それでいいのかな?

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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