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2012年3月26日
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小原篤のアニマゲ丼

2度あることは3度ある

文:小原篤

写真:「ONE PIECE展」入り口近くのサウザンド・サニー号マスト。左下には東京タワーが拡大「ONE PIECE展」入り口近くのサウザンド・サニー号マスト。左下には東京タワーが

写真:「マリンフォード頂上戦争」の展示拡大「マリンフォード頂上戦争」の展示

写真:インタラクティブアート(奥のスクリーン)コーナーにある大きく引き延ばされたイラスト拡大インタラクティブアート(奥のスクリーン)コーナーにある大きく引き延ばされたイラスト

写真:61巻の表紙を再現した麦わらの一味の等身大フィギュア拡大61巻の表紙を再現した麦わらの一味の等身大フィギュア

写真:尾田さんの仕事机の再現と原画が展示されている拡大尾田さんの仕事机の再現と原画が展示されている

写真:出口に置かれている朝日新聞の会場限定記念号外。インタビューと仕事場の写真が載っています拡大出口に置かれている朝日新聞の会場限定記念号外。インタビューと仕事場の写真が載っています

 エッセーとは自慢話のことである、とエラい方がおっしゃったそうですが、今回はまさにその自慢話であります。

 「ONE PIECE」作者・尾田栄一郎さんに最初にお会いしたのは1999年秋。アニメ化されるのを機にインタビューしました。その時は単行本10巻で累計1650万部。時は流れて2009年秋、尾田さんが「製作総指揮」を務めた映画「STRONG WORLD」公開を控え、10年ぶりにインタビューしました。「よろしくお願いします」「前にお会いしてません?」というやりとりで始まった取材のことは、09年11月23日の本欄「ジョーダンじゃなーいわよーう尾田栄一郎さん」で書きました。連載13年目、55巻で累計1億7千万部でした。

 その折の別れ際、「じゃあ、次は20年後に」「ええ?!」「じゃあ連載20周年のときに」「そうですね、そのときはぜひ取材させて下さい」なんて会話があったのですが、思いのほか早く3度目の機会がやってきました。

 弊社と集英社などの主催による「尾田栄一郎監修 ONE PIECE展 原画×映像×体感のワンピース」(6月17日まで東京・六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで開催中)を前に、特集紙面用のインタビューをひとつよろしく、とお呼びがかかって今年2月に仕事場にお邪魔することに。

 ところが弊社の展覧会担当者によると、当日はマンガの締め切り日らしく他の予定も入っているので「取材は夜の9時半の予定ですが、午前1時半になるかも」「ええっ……まあ、仕方ないです。待ちます」。当日になって「あ、1時半じゃなくて、2時半でした」「えええっ?!」。

 マンガ家ってタイヘンだなぁと思いつつ徹夜も覚悟していたのですが、さすが尾田さん、華麗に原稿を上げて(見てませんけどたぶん華麗に)、取材はほぼ予定通りにスタート。

 「いやあ、ずいぶんと早くまたお会いできましたね」「本当に! 10年後とかでなくてうれしいです」なんてごあいさつをし、尾田さんがついでくれたコーヒーをすすりながらインタビューを始めました。

 展覧会はフィギュアもシアターもすごいよとか、マンガにメッセージを込めたいわけではなくテーマにケジメをつけたいんですとか、被災地の仙台で100人以上の子が1冊しかないジャンプを立ち読みした話には元気づけられたとか、聞きたかったアレやコレやをいろいろうかがい、来場者へのメッセージ入りサインを書いてもらって私のミッションは終了。「ワンピ」は今や65巻で累計2億6千万部の超モンスタータイトルとなり関連商品は数知れず、一つの「産業」と言ってもいいような広がりを見せていますが、「僕は出発点から何も変わってない。今週分のページを仕上げて、来週はまた来週考える。それを続けてきただけ」という言葉が印象的でした。「支配なんかしねェよ この海で一番自由な奴が海賊王だ!」という主人公ルフィのさわやかな笑顔が思い浮かびました。

 金銀財宝の代わりに面白雑貨やフィギュアが詰まった海賊船の船室みたいな尾田さんの仕事場をカメラマンが激写している間、特にすることがないので、尾田さんがバーナーであぶってハサミで切ってくれたサケの干物の皮(身の方は食べちゃったらしい)をかじりつつ雑談。「何か酒のつまみっぽいスね」「そうスね」

 おっといけない! 尾田さんに三度もお会いできたよって自慢話を書いてるうちに、肝心の「ONE PIECE展」ルポを書くスペースが……。じゃあ駆け足で行きましょう! 会場に入るとまず展望台、東京の大パノラマをバックにそびえ立つのはサウザンド・サニー号のマスト(7.5m)。指名手配書がたくさん貼られた路地を抜けると、半円状の巨大スクリーン「冒険パノラマシアター」があり、マンガのコマから飛び出した絵の中にスッポリ包み込まれてルフィと一緒に大海原を進めば気分は3D映画(2Dだけど)。スリラーバークを抜けハンコックのメロメロを浴び牢獄のエースの苦悶(くもん)の表情をしゃがんでのぞき込んだら、大きな展示室に海軍本部マリンフォードの頂上戦争がコマを引き伸ばしたパネルで大展開。次の原画コーナーはいきなりエースの「愛してくれて……ありがとう!!!」の絵。深い濃いスミの黒が生々しく目にしみます。再び大型スクリーン「仲間シアター」では絶望から再起へ向かうルフィのドラマ「仲間がいるよ!!!!」を堪能。次の原画コーナーは、雪つもる麦わら帽をつかみ上げるルフィの「2年後」の姿でスタート――と、シアター→展示→原画が一つの流れとなって壮大な物語を体験できる配置です。

 ルフィたちに触ろうとするとよけるインタラクティブアートも楽しいのですが、実はそのコーナーの柱のカラーイラスト(魚人島の海中探検を楽しむルフィたち)に驚愕(きょうがく)しました。連載の見開き扉絵用に描いたイラストを引き延ばしたものですが、カラー原画コーナーにあった元の絵を見るとB4判よりちょっと大きい程度。それをタテ4m超(?)に引き延ばしてもまったく粗さを感じさせない線の力と、恐るべき密度の描き込み!

 「マリンフォード頂上戦争のあたりから絵の密度がどんどん上がっている。スゴイけれど悲しいかな老眼の私はメガネを外さないと細部まで堪能できないんです」と、2度目のインタビューの時に半ば賛嘆し半ばボヤき、魚人島編ではさらに密度が上がっているのを体感していたのですが「まさかこれほどとは」と巨大パネルを見てアゼンとしました。

 続く等身大フィギュアコーナーは、とりわけナミさんの後ろ姿がタイヘンなことに。こんなにローライズだったっけ? そして尾田さんの机を再現した最後の原画コーナーを抜けると、出口には私の書いた尾田さんインタビューの載っている記念号外がどっさり積まれていますのでご鑑賞の記念にぜひどうぞ(これが最後の自慢)。

 しかしいけませんね、人間もっと奥ゆかしくあらねば。そんな自分を戒めたい時は「ONE PIECE」62巻と63巻のカバーを外してみましょう。そこに現れる尾田さんからの力強いメッセージ。今回の記事には書ききれませんでしたが、インタビューではカバーの下に隠したメッセージのことも聞きました。

 尾田さん「表立ってはやらずに、ささやかにやっておこうと思って」

 私「あくまで、ささやかに、なんですね?」

 尾田さん「日本人ですから」

 次回からは、本欄もグッと慎み深く――できるかなぁ?

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。※ツイッターでもつぶやいています。

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