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2012年4月2日
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小原篤のアニマゲ丼

見せたくないものって何だろう

文:小原篤

写真:「マンガ大賞2012」ノミネート作品。大量です拡大「マンガ大賞2012」ノミネート作品。大量です

写真:「マンガ大賞2012」に決まった荒川弘さんの「銀の匙 Silver Spoon」(小学館)拡大「マンガ大賞2012」に決まった荒川弘さんの「銀の匙 Silver Spoon」(小学館)〈「銀の匙 Silver Spoon」を検索〉

写真:荒川さんによる受賞記念イラスト(マンガ大賞実行委員会提供)拡大荒川さんによる受賞記念イラスト(マンガ大賞実行委員会提供)

写真:荒川弘さんの「百姓貴族」(新書館)拡大荒川弘さんの「百姓貴族」(新書館)〈「百姓貴族」を検索〉

写真:東京国際アニメフェア「東京アニメアワード」授賞式であいさつする虚淵玄さん拡大東京国際アニメフェア「東京アニメアワード」授賞式であいさつする虚淵玄さん

 今年も参加しました「マンガ大賞」。書店員をはじめとする各界のマンガ好きの投票で、今年は荒川弘さんの「銀の匙(さじ) Silver Spoon」が受賞作に選ばれました。3月23日の授賞式には、荒川さんに加えてなんと過去4回の受賞者のうち「ちはやふる」の末次由紀さん、「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリさん、「3月のライオン」の羽海野チカさんの3人がいらっしゃったとか。ああ、行きたかったなぁ……。

 今年の1次選考には98人が参加。私の推薦作は、野村宗弘さん「とろける鉄工所」、河原和音さん「青空エール」、柳原望さん「高杉さん家のおべんとう」、石田敦子さん「球場ラヴァーズ」、荒川弘さん「銀の匙」でした。

 はて、毎度毎度選び終わって気づくのですが、またほとんど女性作家です。そんなにヤロウが嫌いなのか私は? そして挙がった216タイトルの中から2次選考に10作ほどが進む――はずだったのですが、得票数の同じ作品がいくつもあって今年のノミネートは15作! 事務局さんもムチャぶりすること。机の上にマンガの山ができました。

 花沢健吾さん「アイアムアヒーロー」、押見修造さん「悪の華」、荒川弘さん「銀の匙」、森高夕次さん・アダチケイジさん「グラゼニ」、石黒正数さん「外天楼」、新川直司さん「四月は君の嘘」、雲田はるこさん「昭和元禄 落語心中」、うめさん「大東京トイボックス」、柳原望さん「高杉さん家のおべんとう」、森繁拓真さん「となりの関くん」、平野耕太さん「ドリフターズ」、市川春子さん「25時のバカンス 市川春子作品集II」、石井あゆみさん「信長協奏曲」、榎屋克優さん「日々ロック」、江口夏実さん「鬼灯の冷徹」。

 恥ずかしながら3分の2くらいは読んだことがありません。ガシガシと山の端からカバンにつっこんで電車の中などで読み進めました。この「マンガ冬季集中講座」、「マンガ大賞」に参加するようになってほぼ恒例です。103人が参加した2次選考で私が選んだ3作と作品につけたコメントは、次の通り。

 1位「銀の匙」

 「『命をいただく』。その重みと感謝の心が作品の背骨になっていて、実にまっとうですがすがしいマンガになっている。牛や豚を『経済動物』として扱う現実と、それでは割り切れぬ人間側の思いを、ギャグに使ったりドラマに仕立てたりと、作者の柔軟で自在な語り口が光る」

2位「高杉さん家のおべんとう」

 「コミュニケーションにそれぞれ難を抱えた30男と女子中学生が、お弁当をはじめとする『食』を通じて心を通わせる展開にムフフ、逆にズレがあらわになる描写にニマニマ、と楽しませてくれる。キャラクターの間の距離感のかすかな揺れ動きを描く作者のさじ加減が絶妙」

 3位「昭和元禄 落語心中」

 「主人公が弟子入りする名人・有楽亭八雲の、品、艶、すごみに参りました。狷介孤高(けんかいここう)な感じもグー。人によってイメージする落語家は違うかも知れませんが、以前よく聴いていた円生を聴き返したくてたまらなくなりました」

 いやあ、円生はいいですよ、「バカウマ」ですよ。「文七元結」とか「包丁」とか「火事息子」とか「掛取万歳(かけとりまんざい)」とか。「中村仲蔵」が大好きで大学の同人誌ではずっと「仲蔵」というペンネームを使っていましたが、仲間はみんな「ちゅうぞう」と読むもんだと思ってた――なんて話はまたいつか書くといたしまして、私としては1位に推したマンガが3年連続で大賞を射止めたというのがウレシイです。

 「銀の匙」は、都会のサラリーマン家庭に生まれた主人公・八軒が、大自然に囲まれた全寮制の農業高校に進学し、ハードな実習に泣き、子ブタ(食用)のかわいさにズキューンとなり(でも食用)、それぞれの夢に向かって進んでいく級友たちをまぶしく思い……という食&農&進路問題がテーマ。八軒君、得意な勉強のことでなにやら挫折と屈辱を味わったらしく、それが理由で家族と連絡を絶っているのですが、その「過去」が明かされる前に葛藤なんて雲散霧消しちゃうだろ、というくらい本人の性格も周りの環境も健全すぎて、そこは少々気がかりではありますが、2巻のピザ作りの祝祭感、鹿の解体体験の重さ、などなどストーリーは快調に展開しております。農家に生まれた荒川さんが自らの体験をつづったエッセーマンガ「百姓貴族」も合わせてぜひどうぞ。

 ちょうどその「百姓貴族」に触れた2010年6月28日の本欄「かわいくて、おいしい」でも書きましたが、ニワトリもブタもウシもかわいいものです。同じ「命」、心が通い合うその相手を、ツブしてバラしておいしくいただくのも人間です。目を背けたがる人がいるその「現実」を、荒川さんがどんな手さばきで物語にするのか、とても期待しています。

 「マンガ大賞2012」授賞式の翌日、今度は東京国際アニメフェアの第11回東京アニメアワード授賞式があり、こちらには駆けつけることができました。最大のお目当ては、「魔法少女まどか☆マギカ」で脚本賞に選ばれた虚淵玄(うろぶち・げん)さんのコメント。これまた本欄でもたびたび触れている東京都の青少年健全育成条例改正を巡り、そこに盛られた性表現への新たな規制に反発した出版社などが、都知事が実行委員長を務める同フェアから離反したのはご存じの通りですが、まさそのフェアの晴れの舞台で、アダルトゲームで活躍してきた脚本家が何を話すのか。

 まずは、事前に用意された(アニメアワードのパンフレットにもしっかり書いてあった)受賞者コメントを、司会の方が読み上げました。

 「潔癖を是とする社会からは汚泥とも映るであろうアダルトゲーム業界ですが、そこで培った感性があってこそ、本作の脚本は成立しました。私を評価して頂いた皆様には、泥沼の養分があってはじめて蓮(はす)の花も咲くのだとご理解頂けたものと、喜びを新たにしています。憲法に保障された表現の自由が盤石であると信じるすべての表現者が、はばかることなく創作の翼を広げられる社会の実現を願ってやみません」

 そしてトロフィーを受け取った虚淵さんがあいさつ。「これから自由な創作表現をめぐる環境はますます過酷になるかもしれませんが、この度の私の受賞が、私と同じ苦悩を抱えるすべてのクリエーターにとって励ましとなれば幸いです」

 食と命、性と表現、ともにデリケートな問題をイロイロはらんで同列に論じることはできませんが、「見せたくない」なら「遠ざけてしまえばいい」というのは、真摯(しんし)さを欠く安易な態度じゃないかな、と思いましてココに書きとどめておくことにいたします。まずは、困難なテーマに真摯に取り組み、ステキな作品に昇華させた受賞者の方々に、心からの感謝を。

かわいくて、おいしい(2010年6月28日)

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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