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2012年5月14日
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小原篤のアニマゲ丼

田舎の夏は何が起こるか分からない

文:小原篤

写真:「虹色ほたる〜永遠の夏休み〜」は5月19日公開。どうです、かなり「すごい」絵でしょ?拡大「虹色ほたる〜永遠の夏休み〜」は5月19日公開。どうです、かなり「すごい」絵でしょ?

写真:でも動くとそんなにヘンでもないんです。劇場でお確かめください拡大でも動くとそんなにヘンでもないんです。劇場でお確かめください

写真:これなんかは割と絵が整っているカットですね拡大これなんかは割と絵が整っているカットですね

写真:声優・俳優の大塚周夫さん。2004年にインタビューした時の写真です。初代の五ヱ門やねずみ男、ブラック魔王などでおなじみ拡大声優・俳優の大塚周夫さん。2004年にインタビューした時の写真です。初代の五ヱ門やねずみ男、ブラック魔王などでおなじみ

 都会の子が田舎の家で夏を過ごす映画がブームです。何しろ4/21公開の「ももへの手紙」、4/28の「HOME 愛しの座敷わらし」、そして5/19の「虹色ほたる〜永遠の夏休み〜」と続くんですから。まだ見てませんが、7/21の「おおかみこどもの雨と雪」も都会から田舎に移り住むらしいです。

 野山を駆け回り、素朴な暮らしの中で心と体の元気を取り戻す子供たち、なんてお話は昔からある一種の定番ではありますが、新聞記者的なスケベ心と色眼鏡でこの「ブーム」を時代に当てはめて読み解くと、「親の世代より豊かになれそうもない雲行きのこの国で、子供たちは物質的に不自由な環境でこそ生き生きと育つんだと思いたい、そんな大人たちの願望を映し出しているのだ」などとモットモらしい説を振り回すこともできますが、まあそんなこと書いてる本人も信じちゃいませんので、みなさんも信じちゃいけません。

 予告編を見てその超ザックリした外見のキャラクターに驚き「イマドキこんな手抜きみたいな絵で大丈夫なの?」と「虹色ほたる」の試写をこわごわ見に行ったら、ヘンテコと思ってたキャラクターは意外と自然で、むしろお話の方が超ヘンテコでした。いや、この映画、好きなんですけどね。

 1年前に父を交通事故でなくした小6のユウタが、父と来た思い出のダム湖畔の森に一人で来て、不思議な老人に飲み物をあげる。突然の豪雨で足を滑らせ意識を失ったユウタが目覚めてみると、そこはダムの底に沈んだはずの村で、30年以上前の昭和52年(1977年)にタイムスリップしたらしい。ユウタを見つけた小さな女の子はさえ子といい、ユウタを「いとこ」として家に招き入れる。ユウタは村の子と虫取りや川遊びを満喫し、沈む村の最後の祭りのために灯籠(とうろう)を作る――というのが前半のあらすじです。

 ちみつに描き込んだ背景の上で、ざっくりキャラがびょんびょん動き回り、くねくねと全身芝居を展開します。手足のバランスや顔の輪郭が軟体動物のごとく変化し、細部をよく見ると「そんないい加減な書き方でいいのかよ」と心配なほどラフな絵ですが、そういうもんだと割り切ってしまうと「元気があって、おおらかでいいじゃない」と思えてきます。背景とかなりのギャップがあるはずなのに、カットによっては「別人では?」というくらい顔が違うのに、こんな作画もアリかな、と受け入れてしまえるのが不思議です(「ないわー」という人もいるかも知れませんが)。

 私がこの映画を気に入った一番の理由は、子供のころの夏をありありと思い起こさせてくれるから。肌を刺す日差し、濃い草の匂い、泳いだ後のアイスバーの味……。田舎の家の廊下の暗がりや、寝床に入ってくる夜風など、いろいろなものを思い出します。神社の社務所の広間で、子供たちがワイワイ灯籠(とうろう)作りをしたり夕食会をしたりするのも、いかにも夏休みだな〜と懐かしさがこみあげて来ますが、「青天狗(てんぐ)」のあだ名で恐れられているこわーい神主が、集まった子供たちにしみじみと語りかける言葉にグッと来ました。

 「どこへ行こうと、この村と仲間のことを忘れずに、しっかり生きてくれ。いいな」

 なんてことないセリフですが、これを語るのが名優・大塚周夫さん。ずしんと響く味わいがあります。このシーンの後にもユウタに語るいいセリフがあり、この役とこのセリフを大塚さんがやっているというだけで、私にとってこの映画は見る価値がありました。

 そして後半、物語の方が大暴れ。以前に本欄で「ももへの手紙」を「素晴らしくよく出来ているけど定石通りばかりでオドロキがない」などとぜいたくな不満を申しましたが、「虹色ほたる」は定石をあり得ないほど豪快にすっ飛ばします。だってどう見てもファンタジー風味の児童文学だったのに、ピュアでスピリチュアルな大人のラブストーリーに着地させるんですから。

 いわば、「ずっとわすれない! ぼくの大切ななつやすみ」的な世界から、「愛は永遠だ! 何度生まれ変わっても君と必ず結ばれる。愛の奇跡を信じるんだ」的な世界へジャンプです(注:本当に生まれ変わるわけじゃありません)。第一、あんなちっちゃな子が恋愛対象で、しかもその子の方が恋愛モードへ先に突き進んで「運命のラヴ」を語りだしちゃうって、そんな……。原作は、もともと作者が自身のホームページで発表した小説だそうで、なるほどそれで、こうした対象年齢やジャンルを「固定しない」作品になったんでしょうかねえ。それをそのままアニメ化した東映アニメーション、豪気だなあ。

 宣伝は「子供向け」「ファミリー向け」としているようですが、昭和50年あたりに子供時代を過ごしたアラフォーな大人の方が楽しめるんじゃないかと思えてきます。ばっちり定石通りの「子供が田舎で夏休み」映画もう2本見たから今度はオドロキが欲しいなーと思ってて、アニメの作画に興味があって、大塚周夫さんラヴな人ならさらにオススメです。それでもやっぱり、ラストにゃキョトンとするかも知れませんけど。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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