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2012年6月11日
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小原篤のアニマゲ丼

挿絵が僕らにくれたもの

文:小原篤

写真:三鷹の森ジブリ美術館「挿絵が僕らにくれたもの」ポスター (c)Nibariki (c)Museo d‘Arte Ghibli拡大三鷹の森ジブリ美術館「挿絵が僕らにくれたもの」ポスター (c)Nibariki (c)Museo d‘Arte Ghibli

写真:たくさんの挿絵が拡大されて展示してあります。黄色のポップに宮崎駿監督のコメントが (c)Museo d‘Arte Ghibli (c)Studio Ghibli拡大たくさんの挿絵が拡大されて展示してあります。黄色のポップに宮崎駿監督のコメントが (c)Museo d‘Arte Ghibli (c)Studio Ghibli

写真:こんなドラゴンも迎えてくれます (c)Museo d‘Arte Ghibli (c)Studio Ghibli拡大こんなドラゴンも迎えてくれます (c)Museo d‘Arte Ghibli (c)Studio Ghibli

写真:宮崎駿監督。本欄でこの写真使うの何度目かなー拡大宮崎駿監督。本欄でこの写真使うの何度目かなー

写真:こちらが「ぼくの妄想史」パネル。右の方に「沙漠の魔王」の展示があります (c)Museo d‘Arte Ghibli (c)Studio Ghibli拡大こちらが「ぼくの妄想史」パネル。右の方に「沙漠の魔王」の展示があります (c)Museo d‘Arte Ghibli (c)Studio Ghibli

写真:長く入手困難だった「沙漠の魔王」、なんと完全復刻版が秋田書店から8月に発売。17850円、予約限定販売(7月5日締め切り)だそうです拡大長く入手困難だった「沙漠の魔王」、なんと完全復刻版が秋田書店から8月に発売。17850円、予約限定販売(7月5日締め切り)だそうです〈この商品をアマゾンで検索〉

 子供のころ読んだ本の記憶は、挿絵とセットになっているものです。「ムーミン」と「ドリトル先生」シリーズは作者本人による挿絵、「大どろぼうホッツェンプロッツ」のトリップ、「くまのプーさん」のシェパード、「海底二万海里」のド・ヌヴィル……。

 一番長くお付き合いしたのは「ホームズ」シリーズのシドニー・パジェット。連載誌「ストランド・マガジン」に載っていた絵を、ホームズ関係の様々な本からコピーして収集して、なんていうことを大学生になってもやっていましたが(同人誌に描くイラストの資料にもしていたので)、卒業旅行でロンドンへ「聖地巡礼」に行ったら、ストランドの誌面をそのまま写した全集本(全1巻)などというありがたーいモノがあるじゃありませんか。これでコレクションはコンプリート。重くて高い本でしたけど、抱きかかえて喜々として書店を出ました。

 さてそんなことを思い出したのは、三鷹の森ジブリ美術館(入場は日時指定の予約制)で開催中の「挿絵が僕らにくれたもの」展を見たから。約100年前にアンドルー・ラングという人が世界各地の童話を編纂(へんさん)して英国で出版された「ラングの童話集」の挿絵を中心に、約200点がパネル展示されています。ヘンリー・ジャスティス・フォードという画家のものが多いのですが、ラファエル前派の影響が濃いという繊細で神秘的な雰囲気のその絵は、印刷のため版画となったことでさらに、クラシカルで典雅な趣を放っています。線の連なり重なりだけで描き出される、ドラゴンのざらざらした肌、魔法使いの厚いローブのしわ、凝った刺繡(ししゅう)模様、美しい甲冑(かっちゅう)の装飾に鎖かたびら、日に透けたお姫様のドレス、湿った森のくらがり、霧立ちこめる湖面のさざなみ……。

 中には「かちかち山」の挿絵なんてのもあって、たぬきが毛むくじゃらのゴブリンみたいな不気味な怪物になっています。チンパンジーとゴリラの中間みたいな体に、犬と猿の中間みたいな頭、とがった耳にツノ。フォードにとって「TANUKI」は未知の生物だったんですね。宮崎駿監督も「どんな姿のいきものなのかもわからないまま、とにかく絵にしてしまうところがすごいです」と、挿絵につけたコメントで感心しています。

 挿絵と並んで見もの(読みもの)なのが、この展覧会の企画発案者である宮崎監督が挿絵につけたたくさんのコメント。いやコレがおもしろい!

 「挿絵の王子さまやお姫さま達はみんな大人です。王子さまにヒゲがあったり、お姫さま達は胸高く、すらりとたおやかです。日本では、かならず少年少女で描かれるのに、イギリスの子供達は大人が描かれた本を読んでいたんですね」

 そうですね。お姫様、というかヒロインは少女ですよね。私たちはすり込まれてしまっていますよね。

 「7つの頭を持つ大蛇は“首のつけ根”が描いてあり、いたく感心しました。(中略)西欧の人は物事をあいまいに、ごまかして描くということをしません。(中略)怪物の描き方ひとつとっても、国民性の違いを感じます」

 コレはアレですね、東映動画の「わんぱく王子の大蛇退治」(1963年)で宮崎監督の師匠である名アニメーター大塚康生さんを悩ませたという、「ヤマタノオロチの胴体はどうなっておるのか」問題に通じますね。

 「木の枝が手になり、根が足となり、幹には口があり、血まで吐く。擬人化された木は、どこかで見たような描かれ方ですね」

 「デズニー」って書いてよ! 「デズニー」って!!

 そのほか、トカゲの皮でできているような姫の靴、腰から剣を提げる道具やその仕組み、扉の桟(さん)など、ディテールに目をつけた言及が多いのも宮崎監督らしいところです。

 「普通の人間に対して巨人がいるという構図は、現代の人間と巨大ロボットが登場するお話の元祖なのです」「H・J・フォードもスピード(←挿絵画家の1人)も、新考案の挿絵を描いていません。当時の西欧で、ごく一般化された“物語世界のイメージ”をふまえて、いわばその集大成のようにこれらの絵を描きました」とある通り、「通俗文化の源流」という副題のついたこの展覧会の眼目は、挿絵の中の怪物や巨人や王子や姫や妖精や魔法使いのイメージに、現代のアニメやマンガの源流があることをくみとり、フォードより前の時代ともつながる大きな流れの中に私たちも(宮崎監督も)いるのだ、と感じてもらおうというものです。

 そして会場の出口近くにある「ぼくの妄想史――自分は何処から来たか――」というパネル展示が、この展覧会の目玉。宮崎監督が少年時代に愛読した福島鉄次の絵物語の名作「沙漠の魔王」の絵が数点紹介されていて、「うわー、これは『未来少年コナン』のフライングマシーンじゃないか!」なんてコマがあったりしてファンにはたまりません。宮崎監督自身のコメントもまた、たまらないものがあるのですが、ここでは一つだけご紹介しましょう。

 「女の子は捕らえられ、縛られて、猿轡(さるぐつわ)をかまされる。『あなたのお話にもよく出てくるけれど、この本の影響ね』と家内に言われました。僕はそんなに縛っているつもりはありませんが…」

 いやー、影響はメカばかりではなかったんですね。でも、いたいけな少女が捕らわれ縛られいたぶられ、なんてよくある描写ですよ。太古から続く通俗文化の太い太い流れなんですよ。宮崎監督はしめくくりのコメントで、自分はリレーのバトンを受けとったのだと振り返り「ぼくは、弟子の弟子の、又弟子だったのです」とおっしゃっていますから、昔々の中国とかインドとかペルシャに、その道の師匠の師匠の大師匠がいたに違いありません。

 というわけで、見どころいっぱいの「挿絵が僕らにくれたもの」展、来年5月までやっているそうなので、ご興味のある方はぜひどうぞ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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