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2012年6月18日
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小原篤のアニマゲ丼

俺はタイガー、フーテン・タイガー!

文:小原篤

写真:映画「愛と誠」の早乙女愛(左、武井咲)と太賀誠(妻夫木聡) (c)2012「愛と誠」製作委員会拡大映画「愛と誠」の早乙女愛(左、武井咲)と太賀誠(妻夫木聡) (c)2012「愛と誠」製作委員会

写真:監督した三池崇史さん拡大監督した三池崇史さん

写真:「暴力ではなにも解決しないわっ」拡大「暴力ではなにも解決しないわっ」

写真:かわいいフリつきで歌う早乙女愛拡大かわいいフリつきで歌う早乙女愛

写真:愛は誠の血みどろの戦いの中に飛び込む拡大愛は誠の血みどろの戦いの中に飛び込む

写真:これは講談社コミックス版の原作「愛と誠」9巻(現在は絶版)。いい絵ですねえ…拡大これは講談社コミックス版の原作「愛と誠」9巻(現在は絶版)。いい絵ですねえ…

 「やめろっといわれてもぉ〜」学ラン姿の太賀誠、歌い出しチンピラと踊る。パンチ! キック! そしてカメラ目線で「くろい ひとみの ゆううわくううう」

 「暴力ではなにも解決しないわっ!」制服姿の早乙女愛、両手を広げ立ちはだかる。

 誠「なんでも思い通りになると思うなよ、カンチガイ女ァ!!」。愛、ダレのこと?と後ろを振り返る。誠「オマエだよっ!」。「負けないわ!」ビンタ!「立ち直って!」。愛が足にしがみつき警察に捕まる誠「クソ女おぼえてろよ!」、岩清水「君のためなら死ねる!」そして歌う「あいしてる〜とてもぉ〜」、愛「あの すばーらしい あ い を もういちど〜」しかし誠に突き飛ばされドン! 岩清水は愛に突き飛ばされドン!! 「ワーオ ワーオ ワオーー」歌う不良少年軍団がやってきた! ケーン!!

 ――と、16日から公開中の映画「愛と誠」の内容を文字にしてみましたが、カオスっぷりが伝わりましたでしょうか?

 ご存じ梶原一騎・原作、ながやす巧・劇画で講談社「週刊少年マガジン」に1973〜76年連載された大ヒットマンガを、鬼才・三池崇史監督が映像化するというので、Vシネで名をはせた三池監督がぶっ飛びバイオレンスでもぶちかますのかと思いきや、日本版マサラムービーのような歌とダンスがてんこ盛りの昭和歌謡ミュージカルに。いやあ、やらかしてくれました。

 もう一つの特徴は、ヒロインの愛がボケキャラであること。武井咲さんが、純愛妄想全開で無鉄砲に突っ走るかわいいヒロインを熱演。イジられ、ツッコまれ、捕らえられ、縛られ、いたぶられ、刺され、といろいろ堪能させてくれます。対する太賀(たいが)誠の妻夫木聡さんは、「手のつけられない野獣のような不良」とはちょっと雰囲気が違うのですけれど…。

 財閥令嬢の愛が、幼いころ雪山で誠に助けられ、誠は額にキズを負う。それから11年後(原作では8年)、再会した誠は不良となり、その原因が額のキズと知った愛は誠を立ち直らせようと誓う――という筋立てはご存じの方も多いと思いますが、読み返すとこの原作、かなり変わったお話です。

 原作の誠は、不良マンガの主人公によくある「曲がったことが嫌いでコブシで筋を通す熱血漢」とかでは全然なくて、転校してきた名門高校の名誉を傷つけボスにのし上がろうとたくらむ狡猾(こうかつ)な策略家です。人望あるラグビー部の主将とボクシング部の主将にとりいり対抗心をあおって利用し、愛に校則違反のバイトをするよう仕向けそれをネタに親を脅し手に入れた金でヤクザを雇い、ケンカでは腹に剣山を巻き付け相手のコブシをザックリ。「どうしようもない卑劣漢」と愛がビンタを食らわせるのも当然です。

 愛はプライドを砕かれ誇りを汚されても我が身を犠牲にして(例えばつぶてを投げ合うケンカのど真ん中に飛び込んでボロボロに)誠のたくらみを阻止しようとするが、やがて誠への愛が自分をそうさせているのだと気づく、というちょっとサドマゾ風味の入ったピカレスクロマンなのですが、4巻の序盤あたりで学園のボスになる計画が失敗し、不良の巣窟「花園実業」へ転入(追って愛も転入)すると、硫酸で襲いかかるスケ番とか、ナイフ投げの大番長とか、そのバックにいる「影の校長」とか、ムチの名手の「ヤング・マフィア」団長とか、政財界の黒幕である右翼の大ボスとか、次々と現れる強敵と戦いを繰り広げる「普通の」番長マンガになってしまいます。しかし愛がいたぶられる展開は変わらず、ついには国を揺るがす疑獄事件に巻き込まれ「国民の敵」になった愛を救うべく、誠がジェームズ・ボンドか鞍馬天狗かという鮮やかな活躍を見せ、浜辺で口づけをかわすラストシーンに。

 「ものずきにもほどがあるぜ」とか「ほっといてくれ」とずっと冷たいそぶりを見せていた誠は、最終巻で「早乙女愛に対してずっと悪役を演じ続けてきた」と愛に告白します。なんでそんなことを?などと聞いてもせんないことですが、ま、壮大なツンデレヒーロー物語ということですな。いよいよどっちかが死ぬ!という対決のクライマックスに必ず助けが来たりジャマが入ったりとか、強引で都合よすぎる展開なのですが、次週も読みたいと思わせるヒキの強さはさすが梶原一騎。ながやす巧さんのホレボレする絵により、愛の美しさと誠のカッコよさが、ウムを言わさぬ魅力を放ちます。

 ちなみに原作でも、愛は真顔でボケをかましてくれます(いま読むとそうとしか見えません)。例えば、誠をあまやかし増長させている!と忠告し去っていく岩清水の背中に語りかける愛のモノローグ。

 「中立の立場からきびしく忠告してくれる岩清水くん りっぱだわ メガネをかけていて青白くても男らしい男だわ!」

 ……岩清水くん、かわいそう。

 誠に大量輸血し床に伏せる愛のため、ビーフシチューを作って帰った岩清水くん。目が覚めて手紙を読んだ愛は「わざとシチューは八分目だけにこんである 目がさめて火をとおすとパーフェクト」というくだりに涙を流し

 「こ…この地味ないたわり しずかな心づかい…」

 地味て…そんな。

 しかし、誠も1巻冒頭でメガトン級のボケをかましてくれます(いま読むとそうとしか見えません)。

 目の前の少女が早乙女愛だとは知らずカツアゲする誠。夢見た「白馬の騎士」像が崩れた愛は、金はやらない、代わりに私の額にキズをつけろ、それであいこだ、と言う。意味の分からぬ申し出に、俺をなめてるのか!と逆上した誠が言うセリフ。

 「この太賀誠! ここいら地元じゃフーテン・タイガーと異名をとるバカのなかの大バカだけには あいにくと通用しねえ思い上がりだったぜ!」

 それじゃフーテンの寅さんだろ! と当時ツッコんだ読者はどのくらいいたのでしょうか?

 そして真顔でこのボケを受け止める愛。

 「太賀誠…たしかにタイガー…トラだった」とモノローグ。そして言います。

 「私は…早乙女愛 そ…そして雄々しかったトラの子を フーテンにかえた責任はわたし…」

 ああ、このやりとり、映画でも見てみたかったなあ…。

 というわけで、映画に負けない魅力たっぷりの原作マンガ、映画公開を機にコンビニ向けの廉価版で復刊したそうなので、見かけたらぜひ読んでみてください。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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