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2012年7月2日
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小原篤のアニマゲ丼

ゆけゆけエリカ どんとゆけ

文:小原篤

写真:映画「ヘルタースケルター」ポスター (C)2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会拡大映画「ヘルタースケルター」ポスター (C)2012映画『ヘルタースケルター』製作委員会

写真:主人公りりこを演じる沢尻エリカさん拡大主人公りりこを演じる沢尻エリカさん

写真:岡崎京子さんの原作マンガ「ヘルタースケルター」(祥伝社)拡大岡崎京子さんの原作マンガ「ヘルタースケルター」(祥伝社)

写真:りりこはトップアイドル拡大りりこはトップアイドル

写真:寺島しのぶさん演じるマネジャー(左)をアゴで使い、破滅の道へ誘う拡大寺島しのぶさん演じるマネジャー(左)をアゴで使い、破滅の道へ誘う

写真:大森南朋さん演じる検事(左)は、違法医療を暴く切り札にしようとりりこに近づく拡大大森南朋さん演じる検事(左)は、違法医療を暴く切り札にしようとりりこに近づく

 沢尻エリカさん主演の映画「ヘルタースケルター」(公開は7月14日から)を見ました。いやぁすごい。何がすごいって、開巻冒頭から美しいバストトップをあらわにし、ちょいとアブノーマル入った濡れ場もガンガンこなし、ヘア以外はだいたい見せちゃって、ボン!キュッ!ボン!のプロポーションがそれはもう見事だけれど、一番すごいのは共演の水原希子さんと並んだ場面で水原さんより小顔だったこと! 劇中の女子高生の口調を借りれば「マジ? ウソ! ありえない!!」ですよ。

 さて、原作はご存じ岡崎京子さんの同名マンガ。雑誌連載終了直後の1996年5月、岡崎さんは散歩中に車にはねられ重傷を負い、長い療養生活に入りました。本作は事故以前の最後の連載作品で、2003年に初めて単行本化され、第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞しました。同賞の担当記者だった私にとって印象的だったのは、贈呈式で岡崎さんの友人である手塚眞さんがあいさつし、「この作品の受賞は自分にとってもうれしい」と涙されたことです。

 主人公は、グラビア、CM、ドラマに引っ張りだこのトップアイドル「りりこ」。その完璧な美貌(びぼう)は全身を造りかえるほどの違法な美容整形によるもので、後遺症の悪化により肉体も内面も崩壊していく、というお話。傲慢(ごうまん)に周囲を従え平然と人を破滅に導く「女王さま」の内奥に、不安におびえ幸せを願う小さな「女の子」がふるえている、というドラマを、岡崎さんは流麗で力強い筆致で描き出しています。単行本の帯には「いつも一人の女の子のことを書こうと思っている。いつも。たった一人の。一人ぼっちの。一人の女の子の落ちかたというものを」という岡崎さんの言葉が載っています。

 マンガのりりこは、完璧な美人というよりファニーフェース(岡崎さんの絵柄の特徴でもあるのですが)。美しくも見え、人工的にも見え、ゆがんでも見え、醜くも見え、マンガのキャラクターは自在です。ペンが引いた1本の輪郭線が、つややかでみずみずしい肌となり、あるいは腐った果肉を覆って今にも破れそうな皮にもなり。

 しかし現実の、生身の役者が演じるとそうは行きません。沢尻さんはまさに体当たりの熱演で、蜷川実花監督が作り出すゴージャスでガーリーな世界の中で美しさがはじけていますが、いくら表情をゆがめても、柔肌に醜いシミを描いても、素の若さと美しさが邪魔をして、マンガほどのインパクトはなし、虚飾の皮の下に隠れた腐肉のリアルが感じられない………はずなのですが、ここにこの映画ならではの詐術、といっては悪いのでたくらみ、仕掛けが、作用します。

 りりこは、テレビ番組での奇行が原因で仕事が激減、そこへ「全身整形」&「元風俗」という過去が明るみに出て、「りりこはみなさんに再び愛されるようになる ある種のセレブリティとして スキャンダルとゴシップの女王として」(原作より)。この展開から、どうしたって観客は「りりこ」と「エリカ」を重ね合わせます。世間に流布する沢尻さんのイメージという別の「リアル」と接続させることで、りりこに血肉が与えられるとは!(ご本人が実際にどんな方かは存じませんよ)。というわけで、下世話な私たちは「沢尻エリカもホントにこんな風なんじゃ…」とか「こんな役を堂々とやっちゃう沢尻エリカってすげえな」などとドキドキしながら、スクリーンの傲慢(ごうまん)美人に見入ることになります。

 転落を逆手にとって復活を遂げる「りりこ」同様、「エリカ」も好奇の目をもって自分を見に来た観客からラストで喝采をもぎ取る。見事な大逆転の大勝利の大団円。……というのを期待していたのですが、試写を見た直後に、沢尻さんは「医師の判断で静養が必要」との理由で映画のPR活動を休止。そして週刊誌による薬物疑惑報道。まあ、映画との「地続き感」が続いている、と解釈すればいいんでしょうかね。スクリーンの前で観客に勝ち誇ってみせる沢尻さん、見たかったのですが。

 そうそう、言い忘れましたがこの映画、ちょっとつまずきそうな石があるのでご注意を。「ポエム検事」です。

 無精ひげで憂い顔の大森南朋さん演じる検事が「いいね朝のコーヒーは カップの中に漆黒の闇がとけこんでいるようだ」とかつぶやき、その後も詩のような箴言(しんげん)のようなキザなセリフを連発します。りりこに向かって「やっと会えたね、タイガー・リリィ」と言っちゃうような気取ったキャラは、原作では違和感なくおさまっていますが、現実の、生身の役者が演じるとそうは行かなかったみたいで、映画の中で鈴木杏さん演じる部下に「ポエムですか?」と突っ込まれていますけれど、セリフが陳腐で浮いちゃってます。どうやったらこのポエム検事に「リアル」を持ち込むことができたのか? あるいは思い切り奇人風に造形すべきだったのか? いろいろ考えてしまいました。

 というわけで、スクリーンからりりこ様が下世話上等!スキャンダル上等!と指をクイクイ立てて誘っておりますので、好奇心いっぱいで映画館にお越しください。ポエム検事にだけは、気をつけて。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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