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2012年8月6日
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小原篤のアニマゲ丼

ダークなあなた ナイトなわたし

文:小原篤

写真:映画「ダークナイト・ライジング」から、ウェイン(クリスチャン・ベール)とバットスーツ (C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND LEGENDARY PICTURES FUNDING,LLC拡大映画「ダークナイト・ライジング」から、ウェイン(クリスチャン・ベール)とバットスーツ (C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.AND LEGENDARY PICTURES FUNDING,LLC

写真:ゴッサム・シティーを乗っ取り、アジるベイン(トム・ハーディー)拡大ゴッサム・シティーを乗っ取り、アジるベイン(トム・ハーディー)

写真:バットポッドを駆る女怪盗セリーナ(アン・ハサウェイ)拡大バットポッドを駆る女怪盗セリーナ(アン・ハサウェイ)

写真:「ダークナイト・ライジング」は全国公開中拡大「ダークナイト・ライジング」は全国公開中

 「映画『ダークナイト・ライジング』見たよ。ブッ飛んだお話だったよ!」

 「ノーラン監督のバットマン3部作の完結編ね。筋肉ムキムキのベインって悪役がゴッサム・シティーに派手なテロを仕掛けるんでしょ」

 「街のあちこちに大穴が開いて橋は1本除いて崩落。そんだけの爆弾を一度に仕掛けるって、手下は何人いるの?なんで従ってるの?警備はザルなの? とか考えちゃうんだけど、それは前作『ダークナイト』も同じだったなー。ノーラン版バットマンは、ムードが『ど』のつくシリアスさなので、犯行の荒唐無稽ぶりが浮いちゃう。でも毒をもって毒を制す。ベインが『革命』を起こして、さらにそれが『無意味』だった、という驚きの超展開に、そんなチマチマした疑念は吹っ飛ばされるから」

 「えー、またネタバレなの? この欄で『グスコーブドリの伝記』でも『おおかみこどもの雨と雪』でもネタバレ評やったばっかじゃない!」

 「いやー、でも知っといた方がいいんじゃない? ツッコミながら見た方が楽しいよ。主人公の富豪ウェインはバットマンをやめて隠棲(いんせい)中なんだけど、広大な下水道を根城に孤児院出身者らを手下にしてるベインという男がゴードン市警本部長を襲う。沈黙を破りバットマン降臨! でもベインとつるんだウェイン産業の役員のワナにはまってウェインは破産。美貌(びぼう)の投資家ミランダに社の再建を頼み、ひそかに開発していた核融合炉も託し、さらに愛の一夜を過ごして、ベインにタイマン勝負を挑むも惨敗。ベインによって某国の深い穴の底の刑務所に放り込まれる。ベインは、爆弾テロによってゴッサムを外界から遮断すると同時に、警官3千人を地下に閉じ込める。融合炉から取り出した炉心を中性子爆弾に仕立てて軍の手出しを封じ、『孤島』と化したゴッサムを乗っ取る」

 「面白そうじゃないの。でもただの犯罪で、革命じゃないじゃん?」

 「ベインは『街を市民の手に取り戻しに来た』『市民よ立ち上がれ!』とアジり、人々は金持ちの財産を没収してキャッホー! 警官狩りが行われ、エグゼクティブたちは人民裁判にかけられ河にボチャン」

 「うわー……確かに『革命』だ。『ウォール街を占拠せよ』なんてもんじゃないね」

 「さあ、こっからが超展開の連発! そんな革命下のゴッサムにも季節は巡り雪景色――」

 「えっ、ゴッサムってウン百万人以上住んでるんでしょ。その間の生活物資やエネルギーは?」

 「市民を人質に取られた政府が供給してるんじゃない? それより驚きは、崩落した地下トンネル内に閉じ込められた警官たちが健在なこと」

 「ええっ、水や食料は?」

 「いやぁ『ある』ってセリフで言ってたから、あるんじゃないの。で、中性子爆弾は融合炉に戻してやらないとあと18時間で爆発しちゃうので、ウェインは穴の底で筋トレに励んでど根性で穴から這(は)い上がって、ゴッサムにバットマン降臨! ふさがってたトンネルの出口を吹き飛ばすと警官隊がザックザックと行進してきて、大通りでベイン軍団と大乱闘スマッシュブラザーズ! その真ん中でベインと再びタイマン勝負してバットマン勝利!!」

 「待って待って待って! そんな炉心ていうか中性子爆弾てアリ? 封鎖されてるゴッサムにウェインはどうやって入り込めたの? ゴッサムの警官って全員が、チリ落盤事故の奇跡の作業員も真っ青、みたいなタフガイなの?」

 「ね、楽しいでしょ。警官の制服はキレイだし無精ひげボーボーでもないし、元気ハツラツで殴り合い撃ち合いだよ、燃えるよ!」

 「アタマのどこかで何かが炎上しそうだよ。だいたい『警官いなくなったぜヒャッハー!』してたっていう市民たちは何してんの? 『人民の敵』である警官隊の前に立ちはだからないと! それにベインもベインだよ。相手は穴の底で筋トレしただけの人なんでしょ?」

 「ベインは口にはめてるマスクが弱点らしくて、パンチくらってチューブが1本ポロッて外れたら苦しみだしたんだ」

 「うそー、かみつくとか、武器になるんじゃないの? だったらもっと頑丈に作っとけよ!」

 「でも、ここでまだ終わらないのがこの映画のスゴイところ。ベインを倒して『さあ炉心の回収だ!』と思ったら、背後からミランダにブスリと刺されるバットマン。なんと、ベインにとらわれていた愛するミランダこそがベインを操る首謀者。彼女の目的は、中性子爆弾でゴッサムを消滅させることだった!」

 「ないわー、革命の意味ないわー。だったらウェインから融合炉を託された時にポチッとしちゃえばよかったじゃない」

 「そうねえ、金持ちがいたぶられるところを富豪のウェインに見せつけてイヤな気分にさせたかったんじゃないのかな? わざわざ穴の底にテレビを置いてウェインにニュースチャンネルとか見せてあげてたから」

 「考えてみれば、ウェインって悪の親玉に会社あげて融合炉もあげて愛もあげて、刺されて初めて気づくってかなりのウカツさだね」

 「そうそう。しかも、孤児たちがベインのもとで犯罪集団と化したのも、ウェインが融合炉開発に金をつぎ込み過ぎたために孤児院への援助が打ち切られたからなんだ」

 「その融合炉はテロに利用されるし。みんなウェインが悪いんだね」

 「前作で『自分の存在が悪を引き寄せるんじゃないか』とか悩んでたけど、そんなレベルじゃない罪悪感にさいなまれて当然なんだけどねえ。いっそのこと思い切りダークにしちゃえばよかったかな。例えば、ゴードン本部長や執事のアルフレッドら大切な人たちが残虐な『市民』によってなぶり殺しにされ怒り狂ったバットマンが『お前たちは人間じゃない!』とゴッサムを業火にたたき込む!なんて展開はどう? 恐ろしい恐ろしい、まさに暗黒の騎士!」

 「それバットマンじゃないから。永井豪的な何かだから」

 「あ、映画はこのあと炉心の争奪戦がたっぷりあって、バットマンが炉心を×で××させて×××と思いきや、実は……と驚きの大どんでん返しがまだまだありますよー」

 「こんだけネタをバラしといて今さら伏せ字にしても意味ないでしょ!」

 「いやー、でもラストのどこかで『革命』した市民たちのリアクションが欲しかったのに、スルーだったのは残念。せめて、橋の上のスクールバスからバットマンを見送った子供たちの声が聞きたかった。『あ〜あ、貧乏から抜け出せると思ったのになぁ…』とか『やったね、これでオレ上流キープ!』とか」

 「そこまで踏み込めばある意味あっぱれだけどね」

 「というわけで、アン・ハサウェイ演じる怪盗が超キュートで、カッコいいメカが陸に空に躍るド派手な戦闘を腹に響く大音響で堪能できる『ダークナイト・ライジング』、ぜひ劇場でお楽しみください」

 「そんな話、今までしてないよ!」

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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