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2012年8月13日
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小原篤のアニマゲ丼

ミニチュアと妖星と放浪と

文:小原篤

写真:「特撮仕事人 特撮監督 佛田洋の世界」拡大「特撮仕事人 特撮監督 佛田洋の世界」この本を検索する

写真:「女優 水野久美 怪獣・アクション・メロドラマの妖星」拡大「女優 水野久美 怪獣・アクション・メロドラマの妖星」この本を検索する

写真:若き日の水野久美さん。ブロマイド用に撮られたものという拡大若き日の水野久美さん。ブロマイド用に撮られたものという

写真:「アニメと生命と放浪と」拡大「アニメと生命と放浪と」この本を検索する

写真:「凍りの掌 シベリア抑留記」拡大「凍りの掌 シベリア抑留記」この本を検索する

写真:おざわゆきさん(右)とお父さんの小澤昌一(まさかず)さん。名古屋のご実家でインタビューしました拡大おざわゆきさん(右)とお父さんの小澤昌一(まさかず)さん。名古屋のご実家でインタビューしました

 夏休みは読書の季節。最近刊行されたオススメの3冊をご紹介しましょう。

 まずは「特撮仕事人 特撮監督 佛田洋の世界」(マーブルブックス)。東映の仮面ライダーとスーパー戦隊シリーズ、そして「北京原人 Who are you?」「男たちの大和/YAMATO」といった映画でも特撮を手がける佛田(ぶつだ)さんが、仕事についての思いや裏話をたっぷり語っているのですが、読んでて楽しいのはその率直な、というよりぶっちゃけた物言い。

 「でも、やってる側は当初、まさかあれが当たるとは思ってなかったわけですよ。なにしろ『電車』だから」。やはりそうですよねえ。電車が当たるとはねえ。

 「電王」以降、ライダー映画の公開がやたら増えたことについては「白倉プロデューサーが言ってました。『柳の下にいつも泥鰌(どじょう)はいないと言うけど、東映の場合は柳の下に泥鰌の養殖場があった』って」

 東映作品を浴びるように見て育ち、「東映まんがまつり」のすぐ後にヤクザ映画やポルノをかけちゃう東映の「そのプログラム通りに育つボンクラのDNA」があるという佛田さんは、1961年生まれ。九州大学工学部を卒業後、一般企業の内定を蹴って、幼なじみの三池敏夫さん(特撮の美術監督として活躍)と一緒に上京、特撮研究所の矢島信男さんに弟子入りしてこの道に入りました。

 幼い頃「サンダーバード」にハマって以来のミニチュア愛は、CG時代の今もみじんも揺るがず。操演、照明、撮影など様々なセクションの動きがかみ合い、爆発の具合などの不確定要素がうまく働いた時、狙った以上の絵が撮れるところが楽しいのだそうです。2011年の映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実」で五十六が死ぬ場面、おちてゆく戦闘機を後ろからとらえたシーンで、佛田さんはミニチュアが爆発した後もカメラを回し続け、絶妙の壊れ具合を撮ることができました。佛田さんが強調するのは、技術よりも、アングルの選択や爆発のタイミングといった演出力。

 「僕の撮る特撮は、矢島監督から言われた『ミニチュアを役者と思って撮りなさい』という考えが基本にあるから(中略)ミニチュアの撮影が上手くいったときは、その残骸に感謝したい気持ちです。ああ、こんなに見事に散ってくれたか、ってね」

 お次は「女優 水野久美 怪獣・アクション・メロドラマの妖星」(水野久美・樋口尚文著、洋泉社)。映画批評家の樋口さんを聞き手に、水野さんが生い立ちからデビューの経緯、出演作の裏話、そして私生活までをこれまたたっぷり語っていますが、それに加えて映画のスチルや撮影現場の一コマ、グラビア写真などが豊富で、特撮ファンにはうれしい1冊です。

 東宝と契約するもお家芸のサラリーマンものは性に会わず柄にも合わず、アクションものの毒婦や特撮映画のヒロインで輝きを放った水野さん。とりわけ、無人島に遭難した男女7人が次々と怪物に変貌(へんぼう)していくSF怪奇映画の傑作「マタンゴ」(1963年)は、仲のいい役者仲間との大島長期ロケが楽しく、自身もノリにノッて演じたお気に入りの1作といいます。水野さん演じるクラブシンガーの麻美が妖艶(ようえん)な表情で「おいしいわよ〜」とキノコをほおばるシーンがトラウマになった方も多いかと思いますが、食べてるキノコは着色した餅菓子でたいへんおいしかったそうです。

 母親が妊娠中に階段から落ちて(飛び降りて)生まれたとか、デビューをめぐってマスコミから義理人情を知らぬ「超ドライ娘」とバッシングされたとか、豊富なエピソードの中で何といっても面白いのが、「フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)」「怪獣大戦争」(共に1965年)で共演したニック・アダムスさんから受けた猛アタック。奥さんと2人の子どもと一緒に来日していながら、しかも水野さんには婚約者(俳優の山本學さん)がいるのに、プレゼント攻勢をかけて「私の方が、あなたのフィアンセよりもお金があるよ」って、スゴイなぁ…。

 特撮映画のアイコンとなった水野さんは、それらを見て育った世代の監督から出演のオファーを受けますが、そこでアダムスさんとのゴシップが「蒸し返される」ことに。大森一樹監督からは衣装合わせの時に「ニック・アダムスさんからいっぱいラブレターもらったんでしょう? それにはどう答えたの?」と聞かれ、金子修介監督からは撮影の合間に「ニック・アダムスさんとどこまでいったんですか?」と言われ…。ちなみに金子監督はカメラマンに「時間ないですからそのへんでやめてください」と制止されたそうです。

 映画からテレビドラマまで該博な知識を基にした樋口さんの「かゆいところに手が届く」ロングインタビューの後、「僕の初恋の人は水野久美さんでした」という副題のついたあとがきで、樋口さん自身と「水野久美さん」との驚くべき因縁が明かされたりして、最後まで読みどころの詰まった本でした。

 ちょうどこの2冊、東京都現代美術館で開催中の「館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」とリンクしていてこの夏には好適。そして、アニメ映画「グスコーブドリの伝記」とドキュメンタリー「アニメ師 杉井ギサブロー」が公開中の今、あわせて読んでいただきたいのが杉井監督の語りおろし「アニメと生命と放浪と」(ワニブックス)です。

 東映動画(現・東映アニメーション)から虫プロに移って「鉄腕アトム」の作画・演出で力を発揮し、テレビでは「悟空の大冒険」「どろろ」「タッチ」など、映画では「銀河鉄道の夜」「あらしのよるに」、そして最新作「ブドリ」などを監督した杉井さんが、来し方を振り返りつつアニメ作りの核となる自らの美学や哲学の変遷を語ってますが、私が興味を引かれたポイントは二つ。30代後半から10年近くに及んだ「放浪」と、「ブドリ」の改変。ドキュメンタリー「アニメ師〜」では余り深くツッコんでいないところです。

 放浪中、鬼の子の絵を描いて売り歩き、表札を見ればこの家は絵を買ってくれるかどうか分かるようになったという体験や、1年近くを山で共に過ごした「仙人」の印象的な言葉などを読むと、ドキュメンタリーにも表れていた杉井さんの独特な雰囲気――穏やかだが常に覚めていて、全てに距離をおいて客観的に見つめているような――は、この放浪が培ったものでは、と思えてきます。

 「ブドリ」の改変とは、宮沢賢治の原作からの改変、そして当初の構想からのラストの改変の二つがあるのですが、その両方について「やっぱり!」とひざを打つ解説というか裏話が記されており、あの映画を見てモヤモヤを抱いた方はぜひお読み下さい。ここでは、監督のこの言葉をご紹介しておきましょう。

 「『死と隣り合わせの美しさ』と『生きている時間にこそ価値がある』。僕の中に人生の早い段階で刻み込まれたこの二つの価値観は、『グスコーブドリの伝記』にもはっきりと反映されている」

 おしまいに追加でもう1冊。8月はやはりあの戦争を思う季節。おざわゆきさんが父のシベリア抑留体験を聞き取りマンガ化した「凍りの掌 シベリア抑留記」(小池書院)です。この世の地獄を生き延びた体験は過酷でズシンと重いのですが、やさしい絵柄と淡々とした語り口のおかげで、読後感はさわやか。子どもにも読ませたい1冊です。

 さて、ワタクシも夏休み。本欄も1週お休みをいただきます。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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