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2012年9月3日
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小原篤のアニマゲ丼

路面電車と布団のエロス

文:小原篤

写真:「ネコを埋葬するネズミを見た」。ネコがやけに巨大です拡大「ネコを埋葬するネズミを見た」。ネコがやけに巨大です

写真:「ボディ メモリー」。貨車で運ばれる糸玉人形たち拡大「ボディ メモリー」。貨車で運ばれる糸玉人形たち

写真:「トラム」。このおばちゃん運転士がトンデモないことに拡大「トラム」。このおばちゃん運転士がトンデモないことに

写真:「布団」。女体とスシも重要なモチーフです拡大「布団」。女体とスシも重要なモチーフです

写真:表彰式後の会見で話す「布団」の水尻自子監督=8月27日、広島市拡大表彰式後の会見で話す「布団」の水尻自子監督=8月27日、広島市

写真:会場入り口に置かれたボードに絵を描く久里洋二さん=南正時さん撮影拡大会場入り口に置かれたボードに絵を描く久里洋二さん=南正時さん撮影

 本欄も長く続いたもので、2年に1度開かれる広島国際アニメーションフェスティバルのリポートも今回が3度目となります。8月23〜27日のフェスに2日目から参加しました。短編が対象のコンペティションには過去最多の2110本の応募作から選ばれた66本が上映されましたが、9・11をギャグにしたり結合性双生児の誕生をオチにしたりニキビやカサブタをこれでもかと見せつけたりした作品があった前回ほどの衝撃作はなく、全体に小粒でおとなしいものが多い印象を受けました。

 「サテ、これでは最新作『マイブリッジの糸』をひっさげてやってきた山村浩二監督が『頭山』『カフカ 田舎医者』に続き3度目のグランプリを取ってしまうのか?」と思ったら、ロシア生まれのドミトリー・ゲラーという人が監督した中国作品「ネコを埋葬するネズミを見た」がかっさらっていきました。私も周囲の知り合いもみんなノーマークで、表彰式で小野耕世・国際審査委員長が作品名を読み上げた瞬間、「え?」という不意を突かれたどよめきが……。

 闇夜の中、ぼんやり光るひつぎのような物にネコを乗せ、ネズミたちが運んでいくが急な坂道でスッテンコロリン。特に物語らしい物語はありませんが、ネコの横たわるカゴをゆらーりゆらりとネズミが揺らす幻想的なラストは不思議な余韻を残します。素材をコンピューターに取り込んで切り紙アニメのような動きをつけるという手法で、光を抑えた影絵のような画面はノスタルジックなムードがあり、ネズミたちのユーモラスな動きもそれなりに面白かったのですが、まさかグランプリとは。

 私のイチ押しは、エストニアのウロ・ピコフ監督の「ボディ メモリー」という人形アニメでした。おびえた男女らがギュウ詰めになっている貨物列車の車内で進行する物語。人形は、頭が糸玉になっていて全身が1本の糸で出来ているというのがミソ。突然、そのうちの1人が壁の板の隙間からすごい力で糸を引っ張られてシュルシュルと頭も体も消えてしまう。パニックとなった人々は狭い車内でもだえ苦しみ絡み合うが、1人また1人と、1本の糸となって車外へ……。

 明らかにホロコーストがモチーフで、容赦なく、不条理で、残酷な暴力が「糸玉人形」という素材を使って見事に視覚化されています。霧の中へ消えていく列車がまがまがしい大蛇に変容し、あとには線路もない荒野が残るというラストも、アニメらしい映像表現で、寒々とした印象を刻んで終わります。「この作品をグランプリにしたら、ヒロシマらしくていいんじゃない?」と何人かの知り合いに聞いてみましたが、残念ながら賛同者はなし。受賞もなし。う〜む、残念。

 冒頭で「全体に小粒でおとなしい」と書きましたが、もちろん例外もあってその筆頭がチェコ生まれのミカエラ・パブラトバ監督によるフランス作品「トラム」。路面電車のおばちゃん運転士が、ガタコンガタコンとリズム良く巨乳を揺すられ腰にいい感じの振動が来るせいなのか、性的妄想を暴走させます。握るレバーはいつしか別のレバーになり、乗客の男たちがズッコンズッコンと切符をさし入れする刻印器はいつしか女性の股間へと変わり、胸をはだけ脚を広げついに終着駅に達したおばちゃんの嬌声(きょうせい)が車内にコダマする!!

 とんだ桃色電鉄のエロ電車でGO!ですが、さすが世界の映画祭でたくさんの賞に輝いたパブラトバ監督、リズムに乗ったアニメートがうまいのなんの。特に刻印器が切符を差し込まれたときキュッとすぼまるところなんかもう――ええと、これ以上はやめときます。なんとこの作品、世界で最も権威があるとされるアヌシー国際アニメーションフェスティバルで、今年のグランプリを取ったそうです。いやー、面白いけど、コレが「グランプリ」でいいのかなぁ? ヒロシマでは国際審査委員特別賞(5本)の1本に入りました。

 「官能」表現でこの作品と対照的なのが、日本の水尻自子監督の「布団」。布団にくるまる女性の裸体がくにゃりと変形し、その上を「鼻」がスーッと滑っていくとか、歩いているつま先が床から離れるとその先からクリームが絞り出され、画面上方から赤いイチゴがポトリ。胸もおしりも出てきませんが、象徴的で間接的な表現が実にエロチック。小野審査委員長も「とても官能的でありながら上品で洗練されている。賞を与えることは満場一致で決まった」と絶賛、「木下蓮三賞」に選ばれました。主要4賞のうち、ただ1人の日本人受賞者です。

 表彰式後の会見で、水尻さんに質問しました。「半分寝ていて半分目覚めているときの不思議な感覚が映像化されていると感じたが、あのような不思議なイマジネーションはどこから?」

 「布団に入った瞬間が一番、リラックスして自由に考えが浮かぶ。今が夢の中なのか現実なのか、過去なのか未来なのか分からない、そんな思いに浸りながら眠りに入っていくのをイメージして作った。見た人にとっては不思議なイメージかも知れないが、私にとっては、日常の中で経験してきた感覚がちりばめられているので、日常を描いたといってもいい作品です」

 というわけで、思い切りロコツな官能と、奥ゆかしい官能を楽しませてもらったヒロシマでした。ちなみにフェスティバル期間中、会場内の一室で昼間から酒盛りをし、裏の河で魚を釣り、あちこちにオッパイの絵を描きまくった我らが巨匠・久里洋二先生84歳は、どっちの作品も大好きだそうです。さすが!

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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