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2012年9月24日
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小原篤のアニマゲ丼

見るも見ないも「のぼうの城」

文:小原篤

写真:映画「のぼうの城」主人公の成田長親(野村萬斎)
(C)2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ拡大映画「のぼうの城」主人公の成田長親(野村萬斎) (C)2011「のぼうの城」フィルムパートナーズ

写真:長親を支える和泉(左端、山口智充)と丹波(右端、佐藤浩市)拡大長親を支える和泉(左端、山口智充)と丹波(右端、佐藤浩市)

写真:甲斐姫(榮倉奈々)と長親。映画は11月2日から公開です拡大甲斐姫(榮倉奈々)と長親。映画は11月2日から公開です

写真:ヒット祈願をした大光院の前でポーズを取る犬童一心監督(左から2人目)と樋口真嗣監督(同3人目)=名古屋・大須拡大ヒット祈願をした大光院の前でポーズを取る犬童一心監督(左から2人目)と樋口真嗣監督(同3人目)=名古屋・大須

写真:大光院での会見で「エイエイオー!」拡大大光院での会見で「エイエイオー!」

写真:インタビューを終え、再びカブトをかぶりツーショット。左が犬童一心監督、右が樋口真嗣監督拡大インタビューを終え、再びカブトをかぶりツーショット。左が犬童一心監督、右が樋口真嗣監督

 映画は先入観なしに見に行くのが良し、とは思いますが中にはお知らせしておいた方がいいこともあります。11月2日公開の映画「のぼうの城」のことです。あ、ネタバレじゃありませんよ。

 武州・忍城(おしじょう)を石田三成が水攻めにした史実を基に和田竜さんが書いた脚本(後に小説化してベストセラーに)を、犬童一心さん&樋口真嗣さんのW監督が映像化、昨秋公開の予定でしたが、東日本大震災の津波被害を想起させる映像があるとして公開が延期となっていました。「樋口さんの特撮、見たいなあ」と思っていたので、無事公開の運びとなりヨカッタヨカッタ。

 領民から「のぼう様」(でくのぼう)と呼ばれ慕われる成田長親が、たった500人の軍勢で2万人の三成軍に挑む物語。三成は、ナメてかかった初戦で忍城軍の騎馬鉄砲や火攻めにより思わぬ敗北を喫し、秀吉の兵法にならい水攻めを選択。忍城の周辺に全長28キロの堤を築いて水をためます。

 「決壊させよー!!」という三成のかけ声、やがて轟音(ごうおん)と共に濁流が押し寄せます。家々を押し流し、真っ黒い水が膨れあがるように田んぼをのみ込んでいく――。夜、高台にある本丸のみが水面から顔を出し、ポツン、ポツンと遠くに火事の炎が見え、城の中には着の身着のままで避難してきた人々が暗い顔でひしめきあって……。

 あぁこういう光景、見たよなあ……と、私の心はザワつきました。と同時に、この迫真の(まさに、真に迫る)特撮映像を震災前に撮っていたことに対する感嘆もわき上がります。ニュース映像を見ながら「まるで映画みたいだ」という感想を漏らした、その逆のことが起こったわけです。「今は、そういう映像は見たくない」という方もいらっしゃるでしょう。なので、予告編にも入っていないらしい水攻めシーンをご紹介した次第です。

 私たち人類は――なんて話をデカくしなくてもいいんですが――様々な戦争や災害の前にも後にも、戦争や災害の出てくる映画を作って、そんな映画を見てきました。ラブストーリーだって子どもの成長物語だって、ある展開が個人的な心の古傷をグサリと刺すこともあります。個人的には、そうした痛みや心のザワつきも、「映画を見る」ことの中に含まれると思っています。いやまあ、見事な特撮を純粋にスペクタクルとして楽しんでも、それはそれで構わない気がしますけど。

 映画そのものは、そのほかに二つの特徴を持っています。クッキリと濃いキャラクター造形と、お祭りか運動会みたいな戦(いくさ)のムード。野村萬斎さん演じる主人公の長親は、あっさり開城するはずだったのに相手のゴーマンな態度にブチきれて「イヤなものはイヤなのじゃ!」と開戦を言い出す「ワガママなガキ」であり、劣勢をはね返す奇策として敵の2万の兵の前でヒワイなケツ出し白塗り踊りをかます奇人です。榮倉奈々さん演じるヒロインの甲斐姫は、好きな長親にくってかかりつかみかかり更にはのしかかるという男勝りの姫。極めつきは山口智充さん演じる剛腕の家臣・和泉。大音声と共に大軍に突っ込み馬上からヤリで敵を串刺しにし、それを頭上高く掲げてガッハッハと大笑い。ヨロイには毛皮をあしらい、カブトにはウルトラマンタロウみたいな2本のツノというこしらえ。

 領民はというと、初めは無謀な戦にかり出されるなどイヤじゃと迷惑顔だったのが、戦うと言い出したのが長親と知るや「のぼう様じゃあ助けてやらにゃしょうがねえ」と楽しげに城に参じ、初戦では「勝った勝った」と笑って帰ってきます。実に能天気。500対20000というからさぞ悲壮な闘いだろうと勝手に想像してましたが、大違いでした。この陽性の物語を引っ張るのは、家臣も姫も領民も敵兵もみなとりこにする魅力の持ち主、長親。その長親というキャラを成り立たせているのは、野村萬斎という役者の特異な存在感です。

 ちょうど今月、犬童・樋口のW監督が名古屋・大須にある大光院という寺でヒット祈願をするというので、取材に行きました。劇中で夏八木勲さんが演じていた老僧が後に尾張に移り住んで創建した寺なのだそうです。本堂で「怨敵退散怨敵退散〜」とご祈禱(きとう)があった後、犬童さんは三成の、樋口さんは長親のカブトをかぶって会見に臨みました。

 犬童「樋口さんが『ガメラ』で見せてくれた特撮がすごくて、大ファンになった。いつか一緒に面白い映画を作れたらと思っていた」

 樋口「怪獣好きを親に卒業させられ、深海魚好きを経て、次に好きになったのが城。忍城は、私の好きな城の三大要素の石垣も天守閣もしゃちほこもないけど、小学3年の頃の城好きの血が騒いだ」

 犬童「全編を二人で撮る、と決めていた。漫才の掛け合いのように、一人がアイデアを出し、もう一人が膨らませていく。例えば、ぐっさんの和泉のいでたちは野蛮な感じが欲しくて、毛皮をつけようと言ったら、樋口さんがツノもつけようって」

 樋口「どのカットもどのシーンも、演出的なこだわりが二人分入っている。現場的にはものすごく効率が悪いけど、映画的には良かった」

 犬童「長親は『イヤなものはイヤなのじゃ!』と正直なところが魅力。百姓たちが集まった時も、勇ましいことなど言わず『戦になってゴメン!』と泣く。そこがいい」

 樋口「それを演じているのが、萬斎さんという稀有(けう)な人で、あの人は何というかこの世ならざるもの――ってそれは言い過ぎか」

 犬童「ひとり宙に浮いてるというか、ズレてて、そこがかっこいい。田楽踊りを10分間踊れる人というのも、ほかにいないしね」

 とまあ、会見でもW監督は息の合ったところを見せてくれました。会見後、インタビューの時間もいただいたので濃いキャラとお祭りムードについてさっそく質問。

 私「造形が少年マンガ的で、『本宮ひろ志か!』って思いました」

 樋口「戦国武将ってヤンキーっぽいよね、と思ったんです。ツノとか自己顕示欲の表れ」

 犬童「ヨロイカブトが奇抜で派手なのは改造車のような感覚。そんなのが、仲間を集めて全国制覇だ!とか言ってる」

 私「やっぱり本宮ひろ志の番長マンガですね」

 樋口「戦国時代について調べたら、ルールがきちんとあって殲滅(せんめつ)戦にはならない。運動会っぽい。実用性をまるで無視した甲冑(かっちゅう)で、背中に羽根飾りつけて、名乗りを上げる。全体がショーっぽい」

 犬童「そもそもこの話は、主人公が踊るところがクライマックス。しかも踊りのテーマが『わいせつでくだらない』。敵の下っ端の兵たちを引きつけるには、彼らの欲している笑いとセックスしかないから。田楽踊りの歌詞と振りは、萬斎さんと3人で作りましたけど、あの人はどんどん行き過ぎちゃう人なので楽だった。自分から『やはりお尻は出しましょう』とか言うし。見せる自信があるんでしょうね」

 私「グラグラする小舟の上で踊っていましたけど、あれは支えは?」

 樋口「ありません。『ない方がいい』と言うんで本当に舟の上で踊ってもらいました」

 私「水攻めシーンのために、三成と同じように実際に堤を築いたそうですね」

 樋口「土木工事しながら映画を撮ってた。普通の現場ならユンボ(パワーショベル)は1台。でもこの映画は3台常備」

 犬童「監督がユンボに乗って地形変えてるなんて『黒沢明よりスゴイじゃないか!』なんて思った。でも余りに大変なんで、これはアニメにした方がよかったんじゃないかって、半分本気で考えたけど、アニメの世界に萬斎さんはいないから。こぢんまりまとまる人じゃないので、安心して遊べた。周りのテンションを思いっ切り上げました」

 というわけで、楽しいお話が尽きないW監督でした。いろいろと見どころ語りどころのある映画「のぼうの城」、ご興味ある方は劇場へどうぞ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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