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2012年10月1日
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小原篤のアニマゲ丼

Zガンダム桃色吐息

文:小原篤

写真:劇場版第1作「機動戦士Zガンダム 星を継ぐ者」DVD(バンダイビジュアル)。左からアムロ、カミーユ、クワトロ(シャア)拡大劇場版第1作「機動戦士Zガンダム 星を継ぐ者」DVD(バンダイビジュアル)。左からアムロ、カミーユ、クワトロ(シャア)

写真:劇場版第2作「機動戦士Zガンダム 恋人たち」DVD(バンダイビジュアル)。フォウ(左)とカミーユ拡大劇場版第2作「機動戦士Zガンダム 恋人たち」DVD(バンダイビジュアル)。フォウ(左)とカミーユ

写真:劇場版第3作「機動戦士Zガンダム 星の鼓動は愛」DVD(バンダイビジュアル)拡大劇場版第3作「機動戦士Zガンダム 星の鼓動は愛」DVD(バンダイビジュアル)

写真:富野由悠季監督。2009年にロカルノ映画祭で名誉豹賞を受けた時に撮影しました拡大富野由悠季監督。2009年にロカルノ映画祭で名誉豹賞を受けた時に撮影しました

写真:小津安二郎監督「秋日和」(1960年)DVD(松竹)。半世紀以上前の作品ですが色あせることはありません拡大小津安二郎監督「秋日和」(1960年)DVD(松竹)。半世紀以上前の作品ですが色あせることはありません

 「機動戦士Zガンダム」と言えば、放映期間が主に私の高校3年生の1年間にかぶっていて、河合塾に行く前に渋谷のビックカメラ(だったかな?)のテレビで見ていたけれど、内容がアレなんで受験を控えた鬱屈(うっくつ)と重圧にさらにモヤモヤが加わったなぁ……とか、そんなことを思い出します。

 なぜ今「Z」かというと、本欄でおなじみアニメ評論家の藤津亮太さんの講座「アニメ映画を読む」で先日、「劇場版Z3部作」(2005〜6年公開)を取り上げたから。改めてじっくり見直すと、青かった高校生の自分には聞き取れなかった桃色な吐息が「ハァア……」とあちこちから聞こえてくるようです。つまり登場人物たちの行動原理に「性愛」が組み込まれている、言い換えますと「下半身方面に妄想を膨らませないとコイツらの言動は理解できないよ!」ってことなのですが。

 「Z」は、ファーストガンダムから7、8年後の世界を舞台に、地球連邦軍内部のエリート組織ティターンズ、反連邦組織エウーゴ、そしてジオンの残党アクシズの三つどもえの抗争を描く物語で、政治的な駆け引きやら合従連衡の成り行きが分かりにくく、登場人物の離反や裏切りが唐突で、嫌な後味を残す人死に(ひとじに)が頻発し、主人公は少々精神の安定を欠く友達の少なそうな少年で、それが最後に狂って終わる、というなかなかお付き合いするには難儀な作品でした。

 「性愛の原理」は、もともとテレビ版にも仕込まれていましたが(けっこう忘れちゃってるけど)潤いが乏しくギスギスしてました。放映から20年を経て富野由悠季総監督が新シーンを加えてまとめたこの劇場版3部作で、「性愛の原理」はぐっとツヤめいて官能的な方向へ強調されているように感じます。それは、私がオトナになったのと、付け加えた新シーンにそんなニュアンスのセリフや描写が目立つから。男と女がいたらそこにセックスの匂いがするべきだ、というのが「富野イズム」なんだろうなぁ、それを突き進めたんだなぁ、と思います。

 例えば、レコアさんの翻心。エウーゴのパイロットのレコアはクワトロ大尉(正体はシャア)にモーションをかけ、人前で「大尉にお尻を触られていたの」と言ったり(←新シーン)、クワトロの作戦に協力する条件としてキスを求めたりします。クワトロも、食堂でレコアと手が触れた後「私だって独り身だ」とつぶやくなど(←新シーン)その気はなくはないようですが、キスの最中にサングラスを外してくれないクワトロの素っ気なさ(つまりソレ以上には深入りしてくれない)に欲求不満なレコアは、戦場でビビビと来たらしく「私を呼んだのはあなた?」とティターンズのパイロットのヤザンにいきなり身を預け、次の登場シーンではティターンズの軍服を着てシロッコ(ティターンズ内でのし上がってゆく「木星帰りの男」)の抱擁を受け、次の登場シーンでは新鋭モビルスーツを与えてくれたシロッコについて「今は私の男になってくれてるけど、権力を手に入れたら女なんて要らなくなる男なんだよな」とつぶやき(←新シーン)、どうやらこのシーンの前にシロッコとデキたらしいことを示唆します。

 レコアはシロッコのためにかつての仲間と戦うことをためらわず、エウーゴのパイロットのエマと「男たちって戦いばかりで女を道具にしか使わないんだから!」「男ってそうだけど、だからって!」といった言葉を交わしつつ殺し合いをします。この世界では「性愛の原理」がとても強力なのだ、という前提をのみ込まないと、少々のみ込めない展開です。

 そのエマを巡るエピソードも面白いです。エマにホレたヘンケン艦長は、彼女を自分の艦の所属にしてくれとブライト(エウーゴで別の艦の艦長をやってます)とクワトロに申し入れます。「まったく…」とあきれるブライトも、自分だってさっきまで会議中にこっそりパソコンで妻と子の動画を見ていたんですから、情実人事だセクハラだなんてエラそうなことは言えません。「脈は保証できないのだぞ」と言うクワトロに、ヘンケンは「脈をつけるのが男の甲斐性(かいしょう)ってもんだ。いいな!?」と言って去ります。残ったブライトはクワトロに向き直り「いいな」(意味「アイツ、みなぎってていいなあ。なあ?」)。クワトロはため息を吐くように独りごち「ああ、いいな」(意味「うむ、うらやましいものだな」)。

 これは劇場版第2作「恋人たち」の一場面ですが、劇場版で加わったシーンの中で、一番笑えて一番好きなところです。これを見て、小津安二郎監督の「秋日和」を思い出しました。

 原節子演じる未亡人を再婚させようと、亡夫の親友3人(佐分利信、中村伸郎、北竜二)が画策。相手はどうする?オマエどうだ?イヤだよそんな不道徳な、なんてやりとりがあって、後日その花婿候補を断ったはずの北が佐分利のもとへ来て、「その気」になったことを伝えます。

 「(家政婦がいても)独りでいると何かにつけて不便でね」

 「つまり、かゆいところに手が届かないってわけか」

 「まあ、そうなんだ」

 「すると、急にどこかかゆいところができたってわけか」

 「まあ、そうなんだ」

 「どこがかゆいか知らないけど。…で、どうしようってんだ?」

 中村が再婚話を持っていったが、いまだに亡夫を愛する相手に脈はなし。中村はバーで落ち合った佐分利に「ま、かゆいところにはメンソレータムでも塗っといてもらうんだね」。と、そこへ北が現れて――とお話は続きますが、重厚な面構えの俳優たちが軽妙に交わす猥談(わいだん)めいたやりとり、ユーモアがあふれ中年の哀愁がにじみ出ます。ブライトとクワトロの「いいな」にも、これに似たおかしみがあります。同じ言葉を繰り返すがニュアンスが微妙に違っている、という「反復とずれ」も小津的ですね。

 エマとヘンケンですが、第3作「星の鼓動は愛」の中の大勢でケーキを食べるシーンで、ヘンケンはエマに「それやめて下さい、スプーンなめたまましゃべるの」と行儀の悪さをたしなめられます(←新シーン)。この性癖を注意するのは一度や二度ではない、という親密さを匂わせることで、「あ、デキたな」と観客に悟らせる心憎い演出です。

 さてこのほかにも、カミーユ君はロマンチックなキスを交わしたフォウが自分を助けるために命を落としたというのにケロリとして無邪気に幼なじみのファにキスしようとするし、アムロは美人のベルトーチカのキスで元気づけられモビルスーツに再び乗る気になって「女の尻を追いかけてるだけかも」と自虐ゼリフを吐きます。「Z」のキャラクターたちはかなり「色恋」の重力に魂を引かれた人間たちのようです。ブライトはこう言い放ちます。「そういう気分を持ってなけりゃ、誰が戦争なんてやれる?」

 そしてこの桃色に染め上がった3部作を締めくくるのが、テレビ版から大きく改変したラスト。最大の敵シロッコを倒したカミーユは精神崩壊せず、宇宙空間で大好きなファと抱き合い、ベタベタした甘い言葉で互いの無事を喜びます。富野監督の「機動戦士ガンダムF91」と似たラストですが、違うのは抱き合う2人の体位――じゃなかったポーズ、ポーズ。わざわざ密着した2人の股間を捉えたショットを用意しているところから、性愛を礼賛するメッセージを込めた意図的なもの、と受け止めました。

 というところで今回はオシマイ、なのですが、以下は余談です。蛇足とも言います。

 富野監督は以前、細田守監督の「時をかける少女」に対し「(登場人物たちの)つきあいたい、という言葉がセックスしたいとしか聞こえない」「ラストシーンのあとあの2人は××××」という類いのことを文化庁メディア芸術祭のシンポジウムで述べて不満を表明したと聞きました。そのお言葉は文字通りに受け取るものではなく、「セックス(色恋)抜きに男女が仲良くしてる話なんて納得いかん!」という憤りのとてもとても屈折した表現だったのでは?と思いました。とするなら、序盤でセックスシーン(しかも少女の柔肌にケモノが爪を立てる、みたいなゾクッと来る絵)のある細田監督の最新作「おおかみこどもの雨と雪」を富野監督が大絶賛した、というのも大いに納得できる話で……。

 え? そんなムチャな解釈は「色恋」の重力に縛られたアンタの桃色な脳ミソの妄想だって? うーん、Zガンダムのキャラクターたちにアテられちゃったかなぁ……。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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