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2012年10月8日
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小原篤のアニマゲ丼

オッス! おらアシュラ!

小原篤

写真:映画「アシュラ」の主人公アシュラ (C)ジョージ秋山/アシュラ製作委員会拡大映画「アシュラ」の主人公アシュラ (C)ジョージ秋山/アシュラ製作委員会

写真:アシュラを演じた声優・野沢雅子さん=2006年撮影拡大アシュラを演じた声優・野沢雅子さん=2006年撮影

写真:アシュラを導く法師拡大アシュラを導く法師

写真:アシュラを優しく世話する若狭拡大アシュラを優しく世話する若狭

写真:若狭と過ごすうちにアシュラに人の心が芽生える。映画は全国公開中です拡大若狭と過ごすうちにアシュラに人の心が芽生える。映画は全国公開中です

写真:朝日新聞(東京本社版)2011年4月5日朝刊1面に載った写真。4日に岩手県山田町で撮影されました。雪の中、経を唱えているのは小原宗鑑さん。同じ方の写真を通信社も配信しましたので、さとうけいいち監督が見たのはそちらかも拡大朝日新聞(東京本社版)2011年4月5日朝刊1面に載った写真。4日に岩手県山田町で撮影されました。雪の中、経を唱えているのは小原宗鑑さん。同じ方の写真を通信社も配信しましたので、さとうけいいち監督が見たのはそちらかも

 オッス! おらアシュラ! ひでえ戦(いくさ)が続く都でおらを生んだ母ちゃんは、食うものがない日がずっと続いたせいでどうかしちまったんだな、赤ん坊のおらをたき火に放り込んだ。たまげたぜ! でも嵐の雨のおかげで焼かれも食われもしなかったおらは生き延びた。それから8年、都はカラスにつつかれた死体がゴロゴロ。どこへ行っても飢えた人間ばっかりだ。そんな中、ひとりぼっちのおらは、人の肉を食って生きてきた。おっ、橋の上に坊さんが来たな。よぉし、このマサカリで仕留めてやる! グワァァァー! なんだこのボウズ、すっげえ強いぞ!!

 いやースミマセン、公開中のアニメ映画「アシュラ」の主役アシュラを、「ドラゴンボール」の悟空や「銀河鉄道999」の鉄郎や「ゲゲゲの鬼太郎」の鬼太郎などでおなじみの声優・野沢雅子さんが演じているので、つい悪ふざけで序盤までのあらすじをこんな風に書いてしまいました。

 原作は1970年に週刊少年マガジンにジョージ秋山さんが連載したマンガ。その「人肉食」の場面が非難を浴び、有害図書指定を受けるなど社会問題に発展しました。これを受けて同誌に編集部が掲載した当時の釈明文が、映画パンフレットに再録されています。

 「主人公は、応仁の乱という、人間が人間として生きられるギリギリの環境下に誕生し、成長していく過程をとおして、宗教的世界にめざめ、人生のよりどころを確立させていくことをテーマにしたもの」と企画意図を説明し、「残虐的描写によって刺激的な効果を狙うといった意図の全くないことはもとより、今後とも広く読者のみなさんの生きる糧として、作品内容の充実向上を期してまいりたい所存であります」と力強く述べています。今回の映画もまた、この企画意図に合致した、見応えのあるものでした。

 アシュラはケモノのように育ったので言葉を知りません。前半はまさにケモノのごとく「ウウ〜」とうなったり「グワァァ!」と咆(ほ)えたりするばかり。なので冒頭のようなナレーションはありません(当たり前ですね)。ホホウ、野沢さんがケモノ声、といえば「あらいぐまラスカル」ですな、なんてことをつい考えてしまいますが、それは余計なことです。

 この畜生道をはいずる餓鬼に「アシュラ」という名を与え、念仏を教えるのが法師(声は北大路欣也さん)。そして地頭の息子をかみ殺したために追われるアシュラをかくまうのが百姓の娘・若狭(声は林原めぐみさん)。この、父と母のような存在の男女に導かれ、アシュラは成長していきます。

 いやしかし、人肉食こそ間接的な描写にとどめていますが、石を投げてきたガキ(地頭の息子)ののど笛をガブリとかみちぎり血がブッシュワァ〜!という描写はインパクトありました。作り手が、このテーマから逃げていない証しです。

 ドラマの軸は、若狭の美しさ(水浴びシーンあり)と優しさに触れ、人間らしい心を持ち始めたアシュラに生じる葛藤です。その「心」ゆえに、若狭と青年・七郎(声は平田広明さん)の恋を許せず、逆上してマサカリを手にすることに……。山場は、飢えて死にかけている若狭にアシュラが肉を差し出す場面。それまで少々「美少女」過ぎた若狭が、ここではいい具合にやせこけてます。愛している相手に信じてもらえない悲しみ、救ってやれない苦しみ。アシュラの「ウギャアアア!」という慟哭(どうこく)が胸をつきます。

 スペクタクルのクライマックスは、怒りに燃える地頭(声は玄田哲章さん)に率いられ山狩りをする人々とアシュラとのアクション。マサカリ無双が見ものです。そして燃え上がるつり橋を駆けるアシュラの最後の咆哮(ほうこう)! ダイナミックに回り込むカメラワークが決まって、迫力あるシーンになっていました。この映画、物語のポイントには橋が登場します。それは、境界に架けられた細くもろい道筋であり、アシュラの行く道の厳しさ危うさを象徴しているようです。

 さて、スチルを見ても分かりづらいと思いますが、これはフル3DCG映画です。立体感を強調せず手書きの味わいがある水彩画調の映像は破綻(はたん)なく、表情、演技ともこなれていました。制作したのは東映アニメーション。プリキュアダンスの蓄積でしょうか。今後、この手法の映画を継続して作るのだとしたら、とても楽しみです。

 不満を言えば、ラストに復興と救済をもってきたのが少々甘いように感じました。アシュラが泣きうめきあがき、のたうつようにこの世の修羅をゆく方がいいんじゃないか、という気がしましたが、さとうけいいち監督が「いろんな痛みや哀しみを感じてきた彼が、最終的にはそれを人に伝えていく人生を選びました……っていうことにしたかった」「形は変わっても人々は前へ進んでいくということを、説教臭くなく伝えられたらいいなと思いました」(パンフより)と語っているように、制作途中に東日本大震災を経験した作り手は、希望と再生の物語にしたかったのでしょう。

 ちなみにパンフの監督インタビューで、作品の方向性を変えるきっかけとなったのが「(被災地で)吹雪の中で若いお坊さんがお経を唱えて」いる写真を見たこと、とあるのですが、これはもしや弊紙が2011年4月5日朝刊1面に掲載した写真かも知れません。改めてその写真を見ると、作中の法師のきびしいたたずまいと重なってくるような気がします。

 ケモノ、というかバケモノじみた少年が徐々に人間になっていく様を見事に演じきった野沢さんについて、さとう監督は「さすが妖怪から超人まで演じてこられた方はこう捉えるのか」(パンフ)と語って賛辞を送っています。心を持ったがゆえの苦しみを味わい、この世の悲惨に気づいてしまったアシュラの「うまれてこないほうがよかったギャアアア!!」という血を吐くような絶叫は、しばらく耳に残るでしょう。名優のパワーと、表現の幅の広さに圧倒されました。

 しかし、聞くところによるとお客さんの入りはなかなか厳しいようで……よーし、ではここでもう一発!

 オッス! おらアシュラ! みんな、おらの戦いを劇場で見てくれよな! 約束だぜ!(←こりてない)

プロフィール

写真

小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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