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2012年11月12日
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小原篤のアニマゲ丼

ハートってとても弾力性のある筋肉なんだね

小原篤

写真:「映画と恋とウディ・アレン」から、仕事机の前でインタビューに応じるアレン (C)2011 B Plus Productions,LLC.All rights reserved.拡大「映画と恋とウディ・アレン」から、仕事机の前でインタビューに応じるアレン (C)2011 B Plus Productions,LLC.All rights reserved.

写真:「恋のロンドン狂騒曲」撮影現場でナオミ・ワッツに指示をするアレン拡大「恋のロンドン狂騒曲」撮影現場でナオミ・ワッツに指示をするアレン

写真:テレビ番組でも人気者だったアレン拡大テレビ番組でも人気者だったアレン

写真:「恋のロンドン狂騒曲」から、アルフィ(アンソニー・ホプキンス)と娘のサリー(ナオミ・ワッツ) (C)2010 Mediapro,Versatil Cinema & Gravier Production,Inc.拡大「恋のロンドン狂騒曲」から、アルフィ(アンソニー・ホプキンス)と娘のサリー(ナオミ・ワッツ) (C)2010 Mediapro,Versatil Cinema & Gravier Production,Inc.

写真:サリー(ナオミ・ワッツ)と夫のロイ(ジョシュ・ブローリン)。「恋のロンドン狂騒曲」は12月1日公開拡大サリー(ナオミ・ワッツ)と夫のロイ(ジョシュ・ブローリン)。「恋のロンドン狂騒曲」は12月1日公開

 公開中の映画「映画と恋とウディ・アレン」(ロバート・B・ウィード監督)を見ました。名匠の人生と創作過程を追った見応えたっぷりのドキュメンタリーです。何より、ここのところ自作に登場しなくなったウディ・アレン本人の語りを楽しめるのがうれしいです。

 簡素な机にはアレンが16歳から使い続けるドイツ製タイプライター。「僕はこれ一筋だ」。カット&ペーストができませんけど?と聞かれ、ハサミで切ってホチキスでとめた紙を見せるアレン。ベッド脇の引き出しには、アイデアを記した大量のメモが無造作に放り込んであります。「アイデアを文章にしている時はどれも『市民ケーン』のような傑作に感じられる。でも撮影を始めると、現実が見えてくる」

 映画は、10代でジョーク作家として稼ぎ始め、スタンダップ・コメディアンとなり、タレントとしてテレビで人気を得、1965年に最初の映画脚本を書き、それをズタズタにされた経験から監督業に進出、そして40年以上にわたって年1本のペースで映画を監督している生涯を追いかけます。

 TVショーでアドリブギャグをかます姿やカンガルーとボクシングする珍映像などもありますが、大きな見どころは二つ。まずは自虐と韜晦(とうかい)をまぶしたアレン節です。

 「僕の目標はいい映画を撮ることだ。この数十年達成できてないけど」「(出来上がった「マンハッタン」を見て)ユナイテッド・アーチスツ社に申し出た。公開しないでくれたら次の作品は無料で撮る、とね」「映画監督になれ、世界中のオペラハウスやコンサートホールで演奏もした(アレンはジャズ・クラリネット奏者)。(中略)こんなにも運がよかったのに、人生の落伍(らくご)者の気分なのはなぜだろう」

 最後のは、ちょっと「ウディ・アレン」を演じすぎているのでは?という気もしますが、こんな率直な物言いもあります。

 「なぜ人は存在し、苦しみながら生きるのか。人間は自分の存在や孤独とどう向き合っていくのか。答えの出ない問題をいつも考えてる。だから僕の映画にはそのテーマが忍び込む」

 ものすごく分かりやすくて、こんなに分かりやすくていいんだろうか?というくらい自分を解説しています。

 もう一つの見どころは、アレンを語る豪華な証言者たち。共演もし、恋人でもあったダイアン・キートンは、まるでアレンみたいな黒縁の眼鏡をかけて登場。「初めて会った時は、小柄な人ねと思ったわ。そしてとってもキュート! 一目見た瞬間、大好きになっちゃったの。何とかして彼を落とそうと思ったわ」。アレン映画の中の彼女とそのままつながるような、スカッとしてカラッとした空気を変わらずにまとっています。

 アレン作品でオスカーを獲得したダイアン・ウィースト、ミラ・ソルビーノ、ペネロペ・クルス、近作でヒロインを演じているスカーレット・ヨハンソンやナオミ・ワッツ、そのほか「アニー・ホール」や「マンハッタン」の撮影監督ゴードン・ウィリス、ずっとマネジャーを務めるジャック・ロリンズとチャールズ・H・ジョフィ(アレン作品を見たらクレジットでおなじみの名前)も登場、様々にアレンを語りますが、ただ、いちばん話を聞いてみたいあのヒトは出ません。ミア・ファローです。

 アレンとファローが公私にわたるパートナーとして傑作を連発していたさなかの92年、ファローの養女スン・イー・プレビンとアレンの愛人関係が明らかとなり、このスキャンダルは2人の間の子供たちの親権を巡る泥沼の訴訟沙汰と共に世をにぎわせました。

 このドキュメンタリーでは、脚本について話し合っている最中に弁護士から電話がかかってきて「探偵をつけろ」「サンプルを採れ」とかアレンがヒソヒソ話すのが聞こえた、といった生々しい証言もありますが、ファローについてのアレンの論評は、きちっと相手を持ち上げる教科書的なもので、スキャンダルについても「私生活について何を言われようと構わなかった。それは自由だからね」とあっさり。アレンの隣で妻スン・イーがにこやかに立っているカンヌ映画祭の様子が映りますが、彼女へのインタビューもなし。まあ、仕方がないんでしょうね。

 12月1日に公開されるアレンの新作「恋のロンドン狂騒曲」は、離婚した老夫婦とその娘夫婦の恋の右往左往を描くのですが、アレンの手さばきはおおらかで力が抜けていて軽やか。まさに軽妙洒脱(しゃだつ)です。夢をかなえるべく決断し行動した3人がのっぴきならない状況に陥り、他人任せに流れる者が幸せをつかむという展開に、老匠の諦念(ていねん)を感じました。

 しかし枯れてはいてもウディ・アレン。娘夫婦に母が占師のご託宣をペラペラしゃべると、それが究極の無神経発言となり娘夫婦がブチ切れます。悪意がないだけに猛毒、という描写が実に意地悪でイイ! 金髪ムチムチのコールガールにコロッと参って結婚した父(アンソニー・ホプキンス!)が、「今ここでヤリましょ」と迫る妻に隠れてバイアグラを飲み「あと3分待ってくれ」と言うほほえみの、あわれを誘うおかしみ! ホプキンスにあんなことさせるなんてねえ。

 実はこれ2010年の映画で、今年5月に日本で公開された「ミッドナイト・イン・パリ」の方が2011年の最新作です。あの中でも、ダリとブニュエルとマン・レイに漫才みたいなセリフを言わせたりして、歴史上の巨匠や文豪で好きなように遊んでましたね。

 「ミッドナイト・イン・パリ」では、処女小説の執筆に悪戦苦闘する主人公のオーウェン・ウィルソンが若き日のアレンのコピーのように神経質キャラを演じて、けっこうサマになってはいましたけど、言うまでもなくアレンの味には及ばず。来年日本公開予定の「To Rome with Love」では久々にアレンが出演もしているらしいのですが、ドキュメンタリーを見ても、イラッとさせながらキュートでユーモラスな、往年の才気走った演技はもう望めないようだし……。いや、ひょっとしたら思いもよらない役かも知れないので、期待して待ちましょう。

 私にとってウディ・アレンは、映画をたくさん見始めた大学時代にちょうどミア・ファローとの黄金期があり、カミさんとのデートの定番でした。名画座ではダイアン・キートンとの黄金期の作品がしょっちゅうかかり、「面白いなあ」「かっこいいなあ」「そうか、才能があればこんな風采の上がらぬ人でもモテるのか。才能ってスゴイなあ」なんて思っていました。

 というわけで、映画にまつわる美しくロマンチックな思い出と共にあるウディ・アレン作品ですが、カミさんの好きな作品は「カイロの紫のバラ」、私は「ハンナとその姉妹」。そのラストにとっても好きなセリフがあるので、それをご紹介して今回はオシマイです。

 いろいろ大変なことがあったけど今は君と結ばれ幸せさ、とウディ・アレンがダイアン・ウィーストにいう言葉。

 「ハートって、とても弾力性のある筋肉なんだね」

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。12月20日に日本評論社から「1面トップはロボットアニメ 小原篤のアニマゲ丼」刊行予定。

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