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2012年11月19日
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小原篤のアニマゲ丼

ねらわれすぎた学園

小原篤

写真:「ねらわれた学園」の涼浦ナツキ(声・渡辺麻友さん)。レンズフレアがキラキラ! (C)眉村卓・講談社/ねらわれた学園製作委員会拡大「ねらわれた学園」の涼浦ナツキ(声・渡辺麻友さん)。レンズフレアがキラキラ! (C)眉村卓・講談社/ねらわれた学園製作委員会

写真:関ケンジ(声・本城雄太郎さん)。カホリに見とれています。花びらがヒラヒラ!拡大関ケンジ(声・本城雄太郎さん)。カホリに見とれています。花びらがヒラヒラ!

写真:春河カホリ(声・花澤香菜さん)。リョウイチに見とれています拡大春河カホリ(声・花澤香菜さん)。リョウイチに見とれています

写真:京極リョウイチ(声・小野大輔さん)。リョウイチの父母とケンジの祖父には過去の因縁があります拡大京極リョウイチ(声・小野大輔さん)。リョウイチの父母とケンジの祖父には過去の因縁があります

写真:突堤に寝そべり、ケンジの隣でまどろむナツキ。キラキラまぶしいですね拡大突堤に寝そべり、ケンジの隣でまどろむナツキ。キラキラまぶしいですね

 光があふれかえり花びらがあふれかえりあこがれとときめきとせつなさがあふれかえり、主人公のにぶさとヒロインの怒りがあふれかえる、もう何もかもあふれかえる全てが過剰なフィルム、それが公開中のアニメ映画「ねらわれた学園」です。あふれかえるのが青春だ!という作り手の思いがあふれかえった映画です。

 この秋はほぼ毎週新作が公開されるアニメ映画ラッシュであふれかえっているのに、「009 RE:CYBORG」と「ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:Q」の谷間に、こんな冒険的な意欲作をぶつけてくるとは。原作は何度も映像化されたジュブナイルSFの名作とは言え、大林宣彦監督・薬師丸ひろ子さん主演の「怪作」は31年前、最後の映像化は15年前。アニメ映画としては、実質「オリジナル」と言っていい企画です。監督・脚本(内藤裕子さんと共同)は中村亮介さんです。

 映画は、原作を土台にしてその子/孫世代を描く物語。鎌倉の中学を舞台に、幼なじみのケンジへの恋心を胸に秘めるナツキ、クラスメートの美少女カホリに恋するケンジ、ある目的のために学園に来た謎の転校生リョウイチ、そしてリョウイチにひかれるカホリの4人を中心としたドラマが展開されます。不思議な力を使って学園を乗っ取ろうとするリョウイチの計画に、ケンジらは巻き込まれ、抵抗しようとします。

 本作のあふれかえりっぷりは冒頭から全編で全開です。桜の花びらが盛大にヒラヒラヒラヒラ、レンズフレアがこれでもかとキラキラキラキラ。リョウイチが謎のカプセル「砂時計」の秘めた力を使うと光の筋と粒と渦が画面いっぱいに乱舞、そして夜空に巨大な光の柱がドーン!! 使徒でも死んだのか?と思いましたよ。夕焼けは空も海も山もキャラもみんな鮮烈なオレンジ色に染め上げ、目が痛いほどです。

 ナツキの気持ちに気づかないケンジの鈍感ぶりもかなりのものですが、それに怒るナツキがまたすさまじい。強烈ビンタでケンジを地面にたたきつけケンジはその勢いで3メートルくらい地面をズズズ。さらに「侍ジャイアンツ」のハイジャンプ&大回転魔球のようにクルクルとぉ!とゴミ箱を投げつけケンジを吹っ飛ばします。

 ケンジにしたって、隣家のナツキの部屋の窓にドングリを投げてナツキを呼ぶのですが、応答がないと空気ポンプ(?)を使って弾丸のようにドングリを撃ち込み、ガラスにヒビ! そして窓を開けたナツキのムネに命中! もんどりうって倒れたナツキは「バカ!死んじゃえ!」とマクラを投げ返す!

 ケンジには過剰に粗暴なナツキですがカホリには過剰にベタベタ。何度も後ろから抱きつき、どう見ても巨乳を触ってます。カホリとおしゃべりしながら、オリンピックの床運動みたいに連続宙返りや片手倒立でピョンピョンと池の飛び石を渡っていく。アンタ何者?

 そのカホリに過剰なのが「ときめき」。夕日の差し込む音楽室で「月の光」を弾くリョウイチに見とれクネクネ、隠れていたのがバレてワナワナ、「好きなんだ……」というリョウイチの言葉にビクン! 続く「……月が」というセリフにハァ…、「いつかピアノを聴かせて」と言われモジモジ、帰りの電車で彼の言葉を反芻(はんすう)しながら目はトロン、ホホは紅潮し、半開きの唇から熱い吐息が……。「ときめき」を通り越した別の何かにいっちゃってるように見えます。でも、このあふれる「ときめき」が後のシーンで効いてくるんですけど。

 リョウイチに過剰なのは「ナルシシズム」でしょうか。日本のアニメ・マンガに伝統のツンツンした「エスパー・ヘア」をなびかせ「わかるんだよ、君の心の声が」とか「(僕は)自分の魔法にかかったのかな」といったキザなセリフを連発しますが、演じているのが小野大輔さんなのでこれがまあニクいほどカッコよく決まること! ちなみにナツキ役のAKB48渡辺麻友さんも好演です。

 中学生とは思えぬエロ度も過剰。ナツキの短いスカートがヒラヒラと翻り、お尻まで見えそう。そこまでは健康的ですが、プールから生徒会の査問に引っ立てられた時はスクール水着にセーラー服の上だけ羽織るという姿。物語上は自然(?)でもあまりにマニアック…。別のキャラは、ミニスカの裾からガーターベルトをのぞかせてますし、どんな中学生? セーターに優しく包まれたカホリの豊かなバストが腕を組むポーズによって微妙に形を変える、その描き込みの念入りなこと!

 これらの描写が、いわゆる「萌えアニメ」の記号化されたこれ見よがしなお色気と違って、ニュアンスに富む日常的なしぐさの延長線上に用意されているので、独特の生々しさとなまめかしさが感じられます。突堤で、夕日を浴びながらケンジの隣でまどろむナツキ。そのくったりとして無防備なポーズがかき立てる甘く切ない感覚は、感情もエネルギーも若さも肉体も「過剰」に描いた末に生まれたものだと思います。マラソン大会で完走した後のけだるい心地よさ、みたいなものでしょうか。

 そしてテーマとメッセージが明快で力強い。作り手のマジメさも過剰です。いや、いいことですけど。

 テーマはコミュニケーション。携帯電話持ち込み禁止を打ち出す学校&生徒会との対立を発端として、SF的設定である「テレパシー」が「携帯電話」「糸電話」「手をつなぐ」といったモチーフの意味をあぶり出していき、相手と向き合い思いをぶつけ合うのが生きたコミュニケーションであり、伝えたい知りたいとあがくことこそ生きる喜びだ、というメッセージが浮かび上がります。「相手と向き合おう」は「自分の生まれた世界であがこう」という考えにつながっていき、物語を貫く背骨になります。

 主人公らの上の世代で起きた過去の因縁や、「力」や「砂時計」にまつわる複雑な約束事、そして対決の成り行きが少々込み入り過ぎていて、しかも説明もそんなに親切ではないので展開についていきにくいのは難点。ここをもう少し整理して刈り込めば、4人の恋の行方によりフォーカスされて、明快でさらに感動的になったと思うのですけど。

 というわけで、いろんなことが「やり過ぎ」で少々風変わりですがとてもチャーミングなこの映画を、サイボーグと人造人間の間に埋もれさせちゃもったいない、との思いから今回のコラムを書いてみました。そうそう、ネタバレは本欄の名物ですが、この映画だけはできません。込み入った筋はすっ飛ばしても堪能、感動できるラストなので、いいですか皆さん、エンドタイトルが始まったからって席を立っちゃあいけませんよ。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。12月20日に日本評論社から「1面トップはロボットアニメ 小原篤のアニマゲ丼」刊行予定。

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