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2012年12月10日
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小原篤のアニマゲ丼

史上最高齢のボンドガール

小原篤

写真:「007 スカイフォール」のボンド(ダニエル・クレイグ)と愛車アストン・マーチン (C)2012 Danjaq,LLC,United Artists Corporation,Columbia Pictures Industries,Inc.All rights reserved.拡大「007 スカイフォール」のボンド(ダニエル・クレイグ)と愛車アストン・マーチン (C)2012 Danjaq,LLC,United Artists Corporation,Columbia Pictures Industries,Inc.All rights reserved.

写真:上司「M」(ジュディ・デンチ)。本作のヒロインです拡大上司「M」(ジュディ・デンチ)。本作のヒロインです

写真:「ノーカントリー」でおかっぱの殺し屋を演じたハビエル・バルデムが金髪テロリストに(ちょっとオネエとヘンタイが入ってます)拡大「ノーカントリー」でおかっぱの殺し屋を演じたハビエル・バルデムが金髪テロリストに(ちょっとオネエとヘンタイが入ってます)

写真:若返ったらオタクになってたQ(ベン・ウィショー)拡大若返ったらオタクになってたQ(ベン・ウィショー)

写真:この3人の三角関係のお話「007 スカイフォール」は全国公開中拡大この3人の三角関係のお話「007 スカイフォール」は全国公開中

 公開中の映画「007 スカイフォール」は、007のダニエル・クレイグが上司「M」のジュディ・デンチを敵役ハビエル・バルデムと取り合う三角関係のお話だ、と毎日新聞の映画評に書いてあったので、ホンマかいなネタちゃうんかい?と思って見に行ったら、ガチでした。ボンドとベッドインする美女も出てきますが哀れなくらいザコキャラ扱いなので、本作のヒロインはどう見てもデンチです。御年78歳、「デイム」の称号を持つ史上最高齢のボンドガール! クライマックスではボンドがチューだよホントだよ!

 御同類も多いと思いますがショーン・コネリー版ボンドが大好きなので、クレイグを見る度に「あなたは『ロシアより愛をこめて』のロバート・ショーのポジションでしょ!」とツッコみたくなります。その「殺し屋ヅラ」にも、3作目にしてようやく慣れてきました。顔のデカさと濃さなら誰にも負けないバルデムが相手なのでなおさらです。

 冒頭は、MI6の極秘データを盗んだ男を追ってイスタンブールのバザールの屋根をバイクで激走! さらに列車の屋根で殴り合い。お約束通り、絶妙のタイミングでトンネルに入ったり出たりしてハラハラさせます。

 前作「慰めの報酬」も、冒頭のカーチェースがアクションの一番の見どころだった記憶がありますが、本作もそう。しかしボンドは、相方が敵を狙って撃った弾に当たって橋の上から河にドボン! ここでオープニングタイトルが始まりますが、流れる歌が「これで終わり〜」という不穏な歌詞で、流れる映像は銃やナイフが墓標のように墓地に刺さる不吉なもの。ああ今回も暗い話か、と予感させます。

 もちろんボンドは生きていますが、やさぐれて酒浸り。所属するMI6がテロに遭ったのをテレビで見ても無表情。ロンドンに戻ったら戻ったで、Mにトゲトゲしい言葉をぶつけます。何でこう妙につっかかるかなあ、とボンドの心理がつかめなかったのですが、敵のバルデムが現れて分かりました。2人ともMが好きすぎて、職務優先でMが自分を見捨てたことにハラを立ててるのです。もちろんMにとっては「それが仕事でしょ」なんですけど。愛憎の果てに「Mを殺す」か「Mを守る」かに分かれますが、2人はコインの裏表なんですね。

 後半、ボンドはMを秘蔵の愛車アストン・マーチンに乗せ、半ば強引に連れ出します。向かった先は生まれ育ったスコットランドのスカイフォール荘。自分の故郷に連れて行くなんて、Mが「本命の彼女」である証拠です。荒れ野に立ち「両親が亡くなったのはいつ?」「ご存じでしょう」なんて会話をかわす2人。旅行前のギスギスしていた雰囲気はしっとりセンチメンタルな匂いを帯びてきます。そしてこの古い館で、Mを賭けた派手な決闘が行われるわけですが、クレイグ版ボンドらしくハードで泥臭い戦いでした。

 でも中盤のマカオのカジノのシーンは、これまでになくしゃれっ気とユーモアがありました。タキシードで決めたボンドが、花火と灯籠(とうろう)の光が乱舞する中を颯爽(さっそう)と舟で海上カジノに入ると、スケスケドレスのワケアリ美女が「1杯おごってくださる?」と来て、「ドレスの下にベレッタを隠してる」「あらあなたもタキシードの下にワルサーを」なんて会話を交わしたちまち籠絡(ろうらく)。襲ってくる用心棒たちを撃退し、哀れ大トカゲに食われる用心棒の悲鳴を背中に聞きながら一言「サークル・オブ・ライフ」(字幕は「食物連鎖だな」)とニヤリ。その足で美女の待つクルーザーに向かいシャワールームで熱い抱擁、もちろん船が向かうのは敵の根城、というムダを省いた美しいご都合主義です。ちゃんと兵器担当の「Q」がくれた指紋認証機能付きピストルも役に立ったし、その後のアストン・マーチン登場と同時にボンドのテーマを流すシーンはオールドファンのツボをつくし、クレイグ版もサマになってきたな、という印象でした。あのムードで全編作れないかなあ。

 ただ脚本で残念なのは、「スパイなんて時代遅れ」というネタを前半からさんざん振っておきながら回収しないこと。いかにもコンピューターオタクな若造のQは「パソコンさえあればパジャマ姿で諜報(ちょうほう)員に勝てます」とボンドに言い放ち、Mの査問会で大臣が「いまどき、人で情報を集める? ハン!」と鼻で笑い、敵のバルデムも「金もうけもテロもクリック一つよ」と誇ってみせます。

 ここまでするなら、ネットもハイテクもお手上げの状況でボンドがアナクロなローテクで大勝利、という決着を持ってくるべきでした。それが荒野の古城で銃撃戦とはねえ。ハイテクは使ってませんがいま一つ納得が行かずモヤモヤ感が残ります。

 もっと納得できないのは、Mを巻き込んだボンドの強引な作戦は明らかに失敗したのに、劇中じゃ「成功」扱いなこと。あれは良くてクビ、悪くて刑務所レベルでは? 考えてみれば本作のボンドは、3度の作戦を3度とも失敗しています(少なくとも成功はしてない)。そんな部下にチューされて、あれでよかったんですかMさん?

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。12月20日に日本評論社から「1面トップはロボットアニメ 小原篤のアニマゲ丼」刊行予定。

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