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意欲作や力作があふれかえりアニメ映画狂い咲きだった2012年、いよいよ押し詰まった年の暮れに公開された3作は、至極まっとうにきれいにまとまった映画がそろいました。
28日公開の「青の祓魔師――劇場版――」は、同名マンガをアニメ化したテレビシリーズの劇場版。まずは「スチームボーイ」「鉄コン筋クリート」を手がけた木村真二・美術監督の超高密度な背景美術にウットリさせられます。舞台となる正十字学園町は、和洋中の様式が融合した壮麗なゴシック風の城砦都市で、さらに「11年に1度の祝祭」のためぼんぼりやちょうちんで華やかに飾り立てられ、祭り船が運河を埋め、カーニバルとクリスマスと春節とねぶた祭りがいっぺんに来たようなにぎわい。その豪勢な光景はちょっと押井守監督の「イノセンス」を思わせますがデジタルのギラギラ感はなく、シックな配色と繊細な光の扱いと絶妙の汚し具合によって、心浮き立つ祝祭感と居心地良さそうな生活感が共存する世界になっています。
悪魔の血を引く者でありながら祓魔師(エクソシスト)を目指す主人公の少年・燐(りん)が、倒れている小さな男の子を見つけ助けます。が、実は燐が古いほこらを壊して封印を解いてしまった悪魔の子。祭りに加えて結界の張り替えや侵入してくる悪魔退治にみな忙しいので、その間その子の監視を命じられた燐は「うさ麻呂」なんてカワイイ名前を付けた上に、風呂に入れメシを作りベッドで一緒に眠り仲間との草野球に加わらせ、と世話をするウチに当然のごとく情が移ってしまいます。
うさ麻呂は無垢(むく)で愛らしいが、その「能力」は災いをもたらすほかはない。そんなのと心が通い合ってしまったら、退治もできず一緒にもいられず、いったいどうしたら……よくあるストーリーですよね。例えばアレとか――と題名を挙げるとオチまでバレてしまうのでやめますが、言い換えればオチは読めるということです。でもこの映画、よくできてるんです。
燐と弟の雪男の育ての親・獅郎が幼い2人に絵本を読んでやる回想場面が、冒頭に提示されその後も繰り返し出てきます。そのむかし悪魔の子が村を滅ぼしてしまったという絵本の話を、この映画はなぞる形で進んでいくのですが、この回想シーンがお話の転換点に置かれ、時間軸の操作に使われ、テーマの提示もする、というワザありの巧みな構成。広げた風呂敷をたたむどんでん返しも理屈が通っているし、華やかな祭りの後に切ない雪景色を持ってくるオチも決まって、端正でウェルメード。脚本の吉田玲子さんと監督の高橋敦史さんに拍手を送ります。
もともと声優陣が豪華なアニメですが、そこにうさ麻呂役の釘宮理恵さんが加わって、映像だけでなく声もゴージャスな大饗宴(きょうえん)。ちっちゃくてかわいい男の子が好きな方は、ぜひお見逃しなく。
ティム・バートン監督の「フランケンウィニー」(公開中)は、「大将、いつもいい味出してるねえ!」と声をかけたくなる安定のバートン風味。映画作りに打ち込む内気な少年ヴィクターが、唯一の友である愛犬スパーキーを事故でなくし、フランケンシュタイン博士よろしく手術と落雷ショックで生き返らせます。それを知ったひとクセもふたクセもある級友たちが、科学コンテスト優勝を狙ってあんな死体やこんな死体に落雷を浴びせたらさあタイヘン! 級友も悪ノリですが物語も悪ノリし、怪獣や妖怪や悪鬼の群れで祭りの町を大混乱にたたき込みます。
モノクロの人形アニメで3D(立体視)という酔狂でマニアックな企画ですが、映像は実に丁寧に作り込まれ、お話はキチンとまとまっています。逆に新味がないのが物足りないところで、その点は、ヒネリに乏しく淡泊な印象だった同監督の前作「ダーク・シャドウ」と共通します。この「フランケンウィニー」も、「キモカワ」なキャラクターデザインから、丘の風車小屋が案の定あんなことになるクライマックスまで、これまでのバートン・ワールドからはみ出すことがありません。怪物たちが誕生する描写のホラーチックなグロさやバカバカしさは、ファミリー向けアニメの枠をちょっとはみ出してそこは「鬼才」らしいのですが、もっと機知やユーモアや、切ない夢に身を浸すセンチメンタリズムの方向でバートン流をぐっと踏み込んでくれたらなあ、と思いました。
ツギハギでよみがえったスパーキーが、首の裂け目から出てきたハエにたかられるという描写が序盤にあって「ウヒョー、悪趣味!」とゾクゾクしたのですが、いっそのことあのテーストをつきつめたらカルトな映画になったのに(ディズニーじゃ無理ですね)。ま、バートン監督にしてみたら、愛犬との大切な思い出を若き日の短編に続いて再度映画化するくらい、これは愛着のある題材なので、屈折や憂いやアイロニーは遠ざけ、ピュアで甘く幸せなムードにとどめておきたい思いがあったのかも知れません。
東映アニメーションの「ONE PIECE FILM Z」(公開中)は、大ヒットした前作「STRONG WORLD」で「製作総指揮」を務めた原作者尾田栄一郎さんを、「総合プロデューサー」という形でまたも巻き込み、観客動員が前作の1.4倍という上々の滑り出しとなったそうです。いやメデタイ。
お話は、あれこれ盛り込んで華やかだけど散漫な感じもした前作よりぐっとシャープにスリムにシンプルに。「新世界」ごと全海賊を消滅させようとする元海軍大将Z(ゼット)という、ものすごく強い新キャラとルフィの対決に絞っています。ルフィの仲間であるゾロとサンジとZの手下2人との対決は、スピーディーでキレのあるアクションをダイナミックなカメラワークでとらえて見応えあり。ルフィとZの殴り合いは、応酬がストレートすぎてもうちょっと殺陣なりワザなりおおっと驚く展開があってもよかったと思いますが、「あしたのジョー」ばりの荒々しい線とデフォルメで力押し。ルフィ田中真弓さん、Z大塚芳忠さんの雄たけび対決を堪能しました。
そうそう、敵の能力者によってナミさんが幼女化しちゃうので、バトンをふるって戦う姿がまるで魔女っ子、という東映アニメーションらしい(?)お楽しみもあります。
元「3大将」の1人である青キジが、赤犬との決闘に敗れた後どうしたんだろうと思っていたらこんな姿で再登場!といううれしい展開は、原作者を巻き込んだからこそ。ルフィたちを導き、決闘のお膳立てをし、Zに対し自分はどうすべきか葛藤するドラマも引き受けて(ルフィに葛藤はないので)いい役どころです。
考えてみれば東映は今年、プリキュア映画2本に加えて「虹色ほたる」という冒険作と「アシュラ」という異色作を放ち、特撮は「ゴーカイジャーvsギャバン」「仮面ライダー×スーパー戦隊 スーパーヒーロー大戦」「仮面ライダーフォーゼ&ゴーバスターズ」「ギャバン THE MOVIE」「仮面ライダーウィザード&フォーゼ」とつるべ打ち、そして「ONE PIECE」が今年の邦画興行収入No.1をうかがう大ヒット。おまけにグループ会社のティ・ジョイが配給する「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」も大当たり。これじゃ一年中「東映まんがまつり」ですよ!
年明け早々「ゴーバスターズvsゴーカイジャー」があり、3月にはプリキュアと「DRAGON BALL Z」がやってきます。21世紀の東映まんがまつりは、終わりそうにありません。
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1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。単行本「1面トップはロボットアニメ 小原篤のアニマゲ丼」(日本評論社)発売中。