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坂道のアポロン(小玉ユキ)

2008年7月4日

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表紙坂道のアポロン 1
小玉 ユキ
 (小学館  ¥ 420)

 時は60年代後半、長崎を舞台にメガネ少年と札付き不良少年、純朴少女の3人が繰り広げる青春物語。70年生まれの私にはほのかに懐かしく、少年少女たちの純情さがほほえましい。

 横須賀から転校してきたメガネ少年・西見にとって学校はストレスの場だった。逃げ場として訪れた屋上で不良少年と噂される千太郎と出会う。やがて西見は千太郎の趣味であるジャズに触れ、これまで習ってきたクラシックピアノから一転、ジャズにのめり込む。

 西見はまじめな秀才少年。千太郎は不良少年ながら昨今のキレる若者とは違って、自分の正義を貫き弱きを助けるためにケンカをする。性格の異なる二人が、親しくなるうちにどう変わってくるのか。今時の、お互いの空気を必死で読みあうような繊細さから遠く離れて、直球な青春物語を読めるのはうれしい。千太郎の幼なじみ・律子との淡い恋も気になる。

 難を言えば、もう少し60年代のにおいみたいなものが感じられたらなあ、と希望する。雑多な風景や小物の描き方に作者の努力は感じるのだが、もう一歩60年代の温度というか、ちょっと土ぼこり混じりの空気があったらなあ思う。おそらく私よりはるかに若いのだろう作者には少々大変かもしれないが。

 小玉は本来「短編の名手」といわれるとおり、同時収録の短編「種男」も完成度が高い。表題作は初めての長期連載とのことで、今後に注目したい。

 小玉は『CUTiE comic』(宝島社)でデビューし、同誌と『Vanilla』(講談社)で活躍していたところ、2誌が相次いで休刊となりアルバイトで糊口をしのいでいた時期もあるとか。華やかとはいえない絵柄で、穏やかにつむがれる物語。彼女の持ち味が生かされる場がまた見つけられてよかったと思う。

 ところで2誌が休刊したように漫画雑誌は売れなくなってきていて、創刊すれば休刊、という状況が続いている。最近も小学館は青年誌「ヤングサンデー」とレディース誌「Judy」の休刊を発表した。漫画雑誌が減っていけば、既存の漫画家が困るだけでなく、新人が発掘できないし、コミックスを出す前の若手が成長する場がない。雑誌を買わない派の私が書くのも何だが、漫画雑誌が売れないと、漫画の将来がどんどん危うくなる。ぜひ雑誌編集者にはがんばっていただきたい。

 とはいいながら、私の頭を占めている不安は、「Judyに連載されていた水城せとなの『窮鼠はチーズの夢を見る』の続きはどうなるの〜〜?」だったりする。「窮鼠…」はボーイズラブなのに、なぜかレディコミのJudyに不定期で掲載されており、コミックスの続きが載っている号は必ず完売するのだそうだ。好きな作家の作品が掲載されていて、休刊が予想される雑誌は必ず買って切り抜きしている私だが、まさかJudyがするとは予想もしなかった。ああ〜、別の雑誌で連載を続けて欲しい、と身勝手なことばかり考えている。でも実際は「鉄腕バーディー」(ヤングサンデー連載・ゆうきまさみ)を心配する人の方が多いんだろうなあ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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