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雨無村役場産業課兼観光係(岩本ナオ)

2008年8月29日

  • 筆者 松尾慈子

表紙「雨無村役場産業課兼観光係」[作]岩本ナオ

 ちょっと前に人気を集めた小説「県庁の星」ならぬ「村役場の星」である。舞台は架空の山岡県だが、作者の出身が岡山県で、「知ってる? ヌートリアって山岡の人しか知らないんだよ」、「白十字のワッフルでも買って」というせりふなどから、モデルは岡山とわかる。ちなみにヌートリアとは野生化が問題になっている外来種の大型ネズミで特に岡山に多く、白十字とは岡山が本社の菓子メーカーである。少しばかり岡山に縁のある私としては物語の端々でにやりとさせられる。もちろん、新卒で村役場に就職した主人公・銀一郎の恋と成長の物語としても秀作だ。

 東京の大学を出て地元・山岡県の雨無村役場に就職することになった銀一郎。高齢化が進む村では、高校生以上の若者は、幼なじみのメグミと、イケメンフリーターの澄緒の計3人しかいない。それぞれの片思いが交錯する一方で、銀一郎は村の良さに目覚め、桜の巨木を目玉にした観光地化を提案する。

 作者が地方出身者というだけあって、田舎の描き方がリアルで違和感がない。銀一郎が元彼女から結婚式の招待状をもらって落ち込んでいることや、澄緒がバイト先のコンビニでの発注業務を銀一郎に教えてもらったことも、半日後には村の全員が知っている。16歳でできちゃった結婚をして高校中退をしたメグミの弟が非難されるどころか喜ばれるほどの少子化ぶり。車は一家に一台ではなく一人に一台。田舎ってそうなのよ〜。前日の行動が翌日には近所中に知れ渡ってるのよね〜。

 銀一郎はまっすぐで実直な性格のメグミにひかれていくのだが、彼女がちゃんとぽっちゃり体型に描かれていることも好ましい。太ってる子をかわいく描く、作者のその姿勢が◎。メグミが思いを寄せる澄緒は、銀一郎に片思いをしているのだが、私としては「なんか唐突だなあ」という感を抱いていたら、後書きを読んで納得。編集者からの提案が「おじいちゃんが主役の話か、おばちゃんが主役の話か、BL(ボーイズラブ)っぽいやつを。どれがいいですか?」だったのだ。そこで作者の叫びは「できんの!!?」。いや、いくらいまBLがはやっているからって、無理にBL要素を求めなくても・・とBL好きの私でさえ思うよ。

 掲載は年3回発行のflowers増刊「凛花」で、雑誌の掲載にあわせた時間軸で物語は動いているので、コミックスの1巻は連載4回分で1年ちょい分の銀一郎の成長が描かれている。就職最初はがちがちだった銀一郎が、翌年春には桜での村おこしを提案して奔走するようになるとは、若者の成長って著しいのよねえ、とおばさんとしてはしみじみしてしまう。

 続刊が1年ちょい先になるのがもどかしくはあるが、銀一郎の成長をゆっくりと見守りたくなる作品なのである。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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