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ちはやふる(末次由紀)

2008年10月24日

  • 筆者 松尾慈子

写真ちはやふる[作]末次由紀

 もう10年以上前になるが、競技かるたの取材に行ったことがある。約束の時間だからと会場のドアを開けると、「うるさい!」と言わんばかりの殺気に満ちた視線が一斉に私に向けられた。競技かるたにとって静寂は必須。「ちはやふる」の冒頭でも、試合中の主人公・千早の願いは「お願い だれも 息をしないで」。そう、競技かるたは発声の最初の子音を聞き取れる耳の良さと反射神経を競う、ばりばりの文化系スポーツなんですよ。

 表題作は、競技かるたに情熱を傾ける千早と、全国レベルの実力の持ち主・新(あらた)、そして負けず嫌いの太一、3人の成長と友情の物語。小学6年の千早は、何においても平凡で趣味もなかったが、転校生の新と出会い、競技としてのかるたの魅力を知る。千早がかるたにどんどん目覚めていくようすは、とうに情熱というものから遠く離れてしまった私にはうらやましくさえ見える。新に連れて行かれたかるた会。千早は初めて大人が競技する様子を見て腰がひけるものの、真剣勝負の中で自分の名前にちなんだ「ちはやふる」の札をとれてうれしがる。遠い昔の自分の情熱を思い出させてくれるようで、読んでいて胸が熱くなる。そう、何かを好きになるのはほんの小さなきっかけから。そこから自分で扉を開いて、努力して、それで自分のものにしていくんだよね、趣味でも何でも。千早がお風呂やトイレで百首を覚えていくのも、決してつらいことではなくて、それをやりたいからやるんだ、そうそう、好きになるってそういうことだよねえ〜。

 天性の耳の良さを武器に、千早は日々研鑽してかるたの道に踏み込んでいく。太一も巻き込んで「ずっと三人でかるたやろう」と強く願う千早だが、卒業で離ればなれになってしまう。2巻は3人の高校生編。千早は相変わらずかるた馬鹿で、同じ高校に進んだ太一とともに仲間づくりに精を出す。新は不幸な出来事のためにかるたから離れていたのだが、千早の情熱が新を突き動かす。千早の性格が単純すぎる気もするが、本当に実直な青春モノ、しかも純粋スポーツでないあたりが、文化系オタクの私にもなじみやすい。

 しかし、かるたって、本当に「スポーツ」だったのね。1日の大会で多いと7試合、脳が糖分を消費し尽くして体重が3キロ減るという。そうなのか。頭使うとめちゃめちゃお腹へるもんねえ。かるたダイエット、アリなのかもしれない。

 ところでどうでもいいことだが、今回のコラムを書くために読み直していたら、二巻の表紙の下からひょろっと「作者からのメッセージペーパー」が出てきた。ふつう入れるなら裏表紙の帯の下とかでしょう。シュリンク(例の透明なフィルムのことね)かかってるんだし、紀X国屋さん。危うく見逃すところだったよ。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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