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おひとり様物語(谷川史子)

2008年11月7日

  • 筆者 松尾慈子

写真おひとり様物語[作]谷川史子

 今でもそうかは分からないが、昭和40年代、私たち女子小学生は「りぼん」派と「なかよし」派に分かれていた、と思う。漫画雑誌を読む女子小学生はこの2派に分かれており、双方はえてして相容れず私は「なかよし」派であった。そのためか、90年代に「りぼん」で乙女チック路線の一翼をになった谷川史子にふれる機会は私になかなか訪れず、ようやく最近めぐりあった。いまでは谷川は活躍の場を青年誌やレディース誌に移し、りぼんらしい乙女チックさは残しつつ、大人の共感を得られるような静かな孤独と幸せを描いている。

 表題作は、「おひとり様」の女性たちの物語。名実ともにおひとり様、遠距離恋愛で物理的に離れているなど、様々な立場の30前後の女性たちが、堅実に、だけれども必死に日々を生きている様子を、1話完結16ページでつづっている。

 物語には、どこにでもありそうな、自分も「そうそう」と頷いてしまいたくなるようなエピソードが山ほど盛り込まれている。第3話の主人公は、同棲中の彼氏と仕事ですれ違いの生活が続いている。友人たちと話していてつい、彼の浮気を疑って彼の携帯を盗み見ようとしてしまう。ハッと我に返って彼女は思う。「こわいの はずかしいの 浮気してるの? なんでロックなんかしてんの? なんであたしこそこそ人のものいじってんの? なんですきなひとのことうたがってんの?」

 そう、きれい事だけではすまないのが恋愛。相手を好きなはずなのに、自分の心の暗い部分をのぞいてしまってびっくりということもある。

 第5話のOL百合子の話にも共感する。31歳という大台にのった年齢もいいが、冷静な自己分析も好ましい。お見合い結婚を決めてこう思う。「結婚しなければと思った ただ安定を望み 独立心も 愛人でいるタフさもない私のような女は たぶん結婚をしたほうがいい」。それでも昔からの趣味だった漫画を描くことを「区切りをつけよう」と投稿してみる。思いがけず編集者から連絡をもらい、「お嫁さん」ではない自分の未来を想像して、婚約者には「私じゃなくてもいいんですよね? 私もそう思ってました」と別れを告げる。初めて選択した自分の人生に、いつか後悔するのかもとおびえながらも、うれしさを感じる百合子。30を超えてなお自分の人生を切り開く楽しさを描いてくれたことが、私はなんだかうれしい。

 ところでもう40目前になった私が気になったのは、第8話の27歳の雛子。結婚願望の強い雛子だが、彼氏いない歴3年。ちょっと気になっていた同僚からお茶に誘われてその気になるのだが、初デートで相手のセンスの悪いTシャツに引いてしまって。結局「どんなにみっともなくても この人でなくちゃと心から思える人と」結婚したいと思ってお断りしてしまう。

 ちが〜う! 私に言わせてもらえば、それは多分違うんだよ。一目会って燃えるような恋に落ちることもあるかもしれないけど、たいていは、もう少し相手のことを知ってみて、さらには「もういい、別れる」と思うくらいのことがあってようやく相手のこと分かってきて、ついでにいうと、「自分だって、そんな相手ばっかり責められる身分じゃないよな」と思えるくらいになって、それでようやく恋愛ってやつになるんじゃないのかなあ。

 ところで、独身女性の心情を描いた作品は多々あるが、独身男性の心情をテーマにした作品は少ないような気がする。独身女性が多ければ、それだけ独身男性も多いはずなのに。男は語らずだからなのか、独身男の日常が漫画にならないほど平凡だからなのか、男性は独身であることにそれほど意味を感じていないからなのか。ぜひ独身男性の心が知ってみたいと思うのだが、どうだろう。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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