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猫と薔薇の日々(松苗あけみ)

2008年11月21日

  • 筆者 松尾慈子

写真猫と薔薇の日々[作]松苗あけみ

 最近、ネコをめぐるエッセー漫画がすごく増えているような気がする。ネコを飼いたい人が多いのか、それともすでに飼っている人が共感したいからなのか。根っからの掃除嫌いとアレルギー性鼻炎のためにネコを飼いたくても飼えない私だが、好きな漫画家さんたちも描いていたので、何冊か読んでみた。その結果「漫画家様も、愛猫の前ではただの飼い主になってしまうのね」と軽い失望を覚えることが多かった。松苗もそうかなあ、と警戒しつつ買ってみると、これがなかなか。何度も読み返す、トイレ常駐漫画になってしまった。

 第一にその美しい絵柄に目を奪われる。松苗らしい華やかさと繊細さを備えた扉絵が、ネコの愛らしさとネコとの生活の楽しさを伝えている。そして、松苗がきちんと「私ってネコ馬鹿ね」と自分でツッコミを入れながら描いているところが、読者の腰をひかせないのだと思う。何しろ松苗宅には12匹ものネコがいるのだ。これがただの愛情だだもれのネコ自慢だったら、読者は「ごちそうさま」で終わってしまうだろう。同居する夫に「何匹まで増やすんだ」と叱責されながらも、ネコ愛を貫き通す松苗は潔い。

 とにかく、本書は17年で12匹(里子に出したりした子を入れるともっと多い)ものネコとつきあってきた松苗の壮大な記録である。闘病あり、家出あり、出産あり。とにかく盛りだくさんで、そのすべてに徹頭徹尾、愛情もって接する松苗にはただただおそれいる。

 なかでもパフェの育児話が私は好きだ。パフェは耳折れのスコティッシュフォールドのロングヘアーの女の子。発情期になり、去勢された雄ネコしかいない松苗家を飛び出して2晩のアバンチュールを楽しむ。野良猫の子供3匹を宿し、いざ出産にいどんだパフェは、最初の一匹目こそへその緒を切るのに手間取るものの、その後は楽々安産で落ち着いた母親ぶり。ネコの育児本片手に右往左往する松苗とはエライ違いなのだ。やっぱり動物ってすごい、誰に教えられなくてもちゃんと母親になれるのね。その後もパフェは計7匹を生んで育て上げる。ママは偉大だ。

 本当にどのネコもかわいらしく、また擬人化された姿も愛らしく描かれる。お別れするときはつらいけれど、これを読むと本当にネコが飼いたくなってしまう。いやあ、松苗がここんとこずっと発表作品が少なかったのも、それも道理と納得できる。

 しかし最後にひとつ疑問なのは、松苗邸の美しさ。12匹もネコがいたら、ソファやカーテンはびりびりに、そしていたるところ毛だらけにされるのではないか? ところがカバー折り返しにある松苗邸の写真には、ネコによって乱されている雰囲気はみじんもしない。飾り棚にはオブジェがあったり、シェードつきのスタンドがあったりと、ふつうの家以上に装飾品があるのである。掃除のしやすさだけを追求し一切の装飾品を排除した我が家とはエライ違いである。ああ、その美しさの秘訣を教えてほしいよ。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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