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麻酔科医ハナ(なかお白亜・監修松本克平)

2009年1月30日

  • 筆者 松尾慈子

 「年収3500万でもやりたくない仕事ってナニ?」と帯にあった。答えは麻酔科医。ある民間病院では、麻酔科医が一斉にやめてしまい、年収3500万円で急募したという。それほどキッツいわけなのね、麻酔科医って。この漫画を読めば、それも道理とうなずける。

 実は、個人的なただの漫画つながりで、私には麻酔科医の知り合いがいる。最初に私がその人の職業を知ったときには「麻酔科医? ペインクリニックとかですか?」ととんちんかんな質問をして相手を失望させてしまった。私はてっきり、腰痛治療などの神経ブロックをする医者だと思ったわけだ。しばらくやりとりする中で、「手術中に、麻酔をかけて患者の全身管理を行う、とっても人手不足でとっても大変なお仕事」ということが分かり、ただのオタク仲間だと思っていた私は「はは〜〜っ」と心の中でひれ伏したものだった。

 しかし、相手も私が当時所属していた「朝日新聞整理部」というところを、お片づけする部署だと思っていたようだから、お互いさまと言えばお互いさまか。ちなみに、整理部というのは各部が書いた記事全部を、どのページにどの順番に乗せるか、どういう見出しを付けるのかを決める部署です。名前からは全然想像つかないのだけれども。仕事って分野が違うと全然分からないものだよね。

 というわけで、私はその知り合いのメールから伝わってくる「麻酔科医という職業への誇り」と、「その重責に待遇が見合ってないことや人手不足への嘆き」を少しでも理解すべく、この漫画を手に取ったわけですよ。

 近年、医療漫画は数あれど、これはとびきりマイナーな科、麻酔科医が主人公。全国で8000人あまりしかいないのだという。大学病院勤務2年目の麻酔科医、華岡ハナコの職場では「1日15時間労働、休みは月2日、給料は時給換算で550円」だという。うっひゃ〜、それは辞表も書きたくなるねえ。しかし、第1話目でハナコは書いた辞表を「この人手不足じゃあね」とあっさり受け取り拒否されて、また麻酔の日々に戻る。胎児仮死の超緊急帝王切開の手術室に集まった産婦人科医に小児科医、そして麻酔科医の面々を見て、ハナコは「いまこの手術室に来てる科はみんな人気がなくて人手不足で超多忙、その上アブなくてすぐ訴えられる 誰だって逃げたくなるのがあたりまえ」とひとりごちる。でその次の瞬間強く思うのだ。「好きじゃなかったらこんな仕事 1日で辞めてたよ!!」。そう、こんな激務を続けられるのは、仕事への誇りだよね。外科医から蔑みやセクハラを受けたり、手術中の突然な血圧低下に対応できなくなったりと様々な困難があっても、ハナは持ち前の明るさと仕事への熱意で乗り越えていく。

 この漫画では、麻酔科医の重要性と、その勤務の厳しさがまざまざと伝わってくる。さまざまな職業漫画があるけれど、どの職種においても、自分の仕事を好きでやっている人々を読むのはやっぱり楽しいね。「労働は苦役ではなく自己実現」って本当に思えればいいよね。ハナがそう思えるためにも、麻酔科医の待遇が改善されればいいのになあ、と強く思う。

 しかし、漫画アクションに掲載しているだけあって、やたら女の子の胸がでかいのはいいとしても、パンチラシーンが多すぎると感じるのは私だけか? いまどきの女の子、そんなにおおっぴらにパンツ見せてるとは思えないんだけど。

 そういえば、友人が緊急帝王切開で出産するのに、麻酔科医の手配がつかなくて手術が決まってから1時間以上もだえ苦しんだっていってたなあ。それと、産院で硬膜外麻酔での無痛分娩を希望したら「麻酔科の先生を特別に呼ぶので分娩費用に加えて10万円かかります」って言われたとか。ああ、どれもこれも、麻酔科のお医者さんが足りないからなのね。この漫画で、麻酔科を志望する若者が増えることを祈ろう。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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