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毎週かあさん サイバラくろにくる2004―2008(西原理恵子)

2009年2月13日

  • 筆者 松尾慈子

表紙毎週かあさん[作]西原理恵子

 「注 ぱちもん!!毎日かあさんにあらず」。帯で注意のある通り、これは毎日新聞で連載中の「毎日かあさん」ではない。「善人まんが」を標榜したそれと違い、こちらは小学館の携帯サイトで掲載中の1コマ漫画を集めたもの。腹黒さ全開、黒サイバラの魅力満載である。

 西原といえば、「毎日かあさん」「上京ものがたり」で手塚賞短編賞をはじめ、文化庁メディア祭優秀賞、文藝春秋漫画賞を受賞した短編漫画界の重鎮だ。でも、受賞した作品をみれば、善人まんが、ファンがいうところの「白サイバラ」ばかり。長年のファンは「違うんだ〜サイバラの魅力はそんなのばっかりじゃないんだ」と叫んでいたことだろう。その点今回の「毎週かあさん」は腹黒さ健在。ファンはほっとさせられるのではないだろうか。

 なにしろあとがきによると「この本のカットの前の〆切がいつも毎日かあさんで善人部分を先に使い切ってしまいこのようなうす汚い内容のカットだらけに」とある。

 実は私はかつては「黒サイバラ」作品は苦手だった。そして「毎日かあさん」でようやくサイバラ好きとなり、食わず嫌いだった作品たちにも手を出し、「・・・人にはいろんな面があるからこそおもしろいのよね」と思えるようになった。しかし、「毎週かあさん」のコメントを読んでがくぜん。「毎日かあさんは『善良MAX』で売っております。日本PTA界、育児まい進中の親たちという顧客を逃さぬよう私なりにマーケティングをしております」。そうか、私はサイバラのマーケティングの結果による善良さに取り込まれていたのか。

 まあ、それはいいとして、毎週かあさんはサイバラの本音まるだし。「誠意ってお金のことだよ 地球はこれで回ってます」「瀬戸内寂聴のポストがあいていると思う」「悪口はしゃべるほど上手くなる」。う〜ん、サイバラの言葉は生活と直結していて深いなあ。サイバラらしい鮮やかな色彩のカラーイラストが説得力を増す。

 この本は04年から08年までのカットが収録されている。2007年3月、元夫の鴨志田穣氏が死去した。サイバラは3カ月活動休止する。その直前の1月、フィリピンへ家族旅行をして「思い出深い旅行でございます」と書いている。愛情満載の「毎日かあさん」を「マーケティングの結果の善人まんが」と悪ぶっているが、やはりサイバラは元夫をはじめ、家族を深く深く愛している人なんだなあ、と端々で感じる。仕事再開のカットで「このたびはいろいろとありがとうございました」と手を振る鴨ちゃんがかかれていて、サイバラの悲しみの深さと立ち直る力にちょっとうるっときてしまう。

 サイバラの魅力は現実を見据えた率直なせりふと、美しい色の取り合わせにあると思うので、全ページカラーのこの本は見応えがある。サイバラの最近の本は多くが1000円前後で「単価たっか〜」と思うのだが、たいてい全部カラーなのでそれだけの価値はあるなあ、とは思うのだ。

 最後にどうでもいいことだが、私自身の「光陰矢のごとし」っぷりにびっくりだ。この本ではカットの掲載時期に起きた大ニュースが右ページに添えられてるのだが、スマトラ島沖地震って04年!? 日本海側のドカ雪って06年だっけ? つい最近のことだと思っていたよ。その間、サイバラは毎週毎週、カット描いて毎日かあさんを描いていたのね。それだけでも頭が下がります。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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