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恋のまんなか(松本ミーコハウス)

2009年2月27日

  • 筆者 松尾慈子

写真恋のまんなか[作]松本ミーコハウス

 久しぶりにボーイズラブ(BL)をご紹介させていただきたい。「最近、落ち着いてきたと思ったのに、やっぱりかよ」とツッコミいただきそうですが、すみません、性分なもので。最近BLを紹介できなかったのは、新規の作家を発掘できずにお気に入りの作家ばかりを読んでいたからで。こそこそ「June」を読むだけだった私の青春時代と違い、BL漫画があふれ、雑誌「ダヴィンチ」でBL特集を組まれるような時代になったというのに、いや好みってのは難しいものです。

 友人から「結構いいよ」とすすめられて手にしたこの本。少女漫画らしいお目めきらきらの絵柄、ミドルティーンの主人公、どれも正直心ひかれなかったのだが、読んでびっくり。意外に私の心にジャストミート。自分が子供である、という自覚があることは、こんなに切ないのね。大人になってしまったかつての子供にもおすすめです。以降、ネタバレありなのでご注意を。

 内気な優等生の一之瀬は、心を寄せていた松原に見破られ、「なんてことねーだろSEXぐらい」と言われて関係を結ぶ。松原の心が自分にないことを知りながら、関係におぼれていく一之瀬。そして夏休みを迎え、一之瀬の預金をはたいて二人は家出を決行する。

 育児放棄をしている松原の父。一人息子に過剰な期待と愛情を注ぐ一之瀬の母。二人の子供たちは自分をめぐる環境をよく分かっている。旅先でセックスにおぼれる二人だが、これは無計画な現実逃避の旅ではなかった。

 一之瀬は塾の合宿と偽って2週間の約束で家を出た。旅が終わりに近づいたことを松原は悟る。「おまえが帰ることを考えたら 帰ろうと思ってた」と松原。松原は父親が自分を捨てたら施設にいくことを考えていた。その前のつかの間の逃避行。自分はまだ子供だから。結局、二人が帰宅すると、ある事情でどちらも親から引き離されることになる。でもそれは自分で決めたことじゃない。所在なさを感じつつ一之瀬は「僕らこどもだからね」とつぶやく。

 もうすっかり忘れていた。子供だと、自分のことなのに自分で決められないということを。その息苦しさを、この作品はさらりと描いて見せている。二人の子供は決して自分たちの親を攻撃しない。ただ、目の前の現実として受け止めている。そして自分の無力さを知って、許される範囲で自由な行動をしているだけだ。家出の最初は「だから子供って無責任でいいわよね!」と思っていた私も、子供たちの苦しさに気づくにつれて、「あ〜子供って不自由なんだよね、そうだったよね」としみじみ思い出された。

 率直に言って、絵柄や物語も荒削りでまだまだ発展途上といった感じだ。しかし子供の繊細さの描き方などをみると、今後の成長を予感させる。次回作に期待したい。

 ところでコミックスの書き下ろしショートストーリー「2匹の伴侶」では二人の将来が描かれている。最近こういうのが多くなっていて、雑誌掲載の段階できちんと最終的なラストまでもっていってほしいと私は思うのだが、どうなんだろう。本編の数年後の話っていうのは連載の中に入れにくいのかなあ。コミックスで買うとお得な感じがするが、雑誌で読んでしまった作品だと、その数ページのために買うのはちょっとためらわれたりする。私の愛する遠藤淑子の「狼には気をつけて」が文庫化したときも書き下ろし漫画が入っていて、こちらの読者様から「読みましたよね!? よかったですよね〜」とメールをいただき、大あわてで買いに走りましたよ。ちゃんとコミックスでも持っているのに。確かに買うだけの価値はあるだけのショートストーリーだったが、でも、また本棚に同じ本が二冊という事態になってしまいましたよ。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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