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ワンダフルライフ?(ケイケイ)

2009年5月22日

  • 筆者 松尾慈子

表紙ワンダフルライフ?[作]ケイケイ

 最近、私は猛烈に記憶力が落ちている。今、一番おそれていることは、「この作品、前にコラムに書いたことがなかったっけ?」だ。ケイケイの前作「ジュゲム・ジュゲム」を書いたことは覚えている。この「ワンダフルライフ?」が朝日新聞本紙の書評欄で別の人が取り上げていたことも覚えている。それなのに、私自身がこれをコラムに書いたかどうかを忘れている。5年も続いたコラムなのに自分で記録を残してないので確認するすべもない。すみません、たぶん書いてないと思って、書かせていただきます。だって今回でた3巻がやっぱりおもしろかったんだもの。

 妙齢の独身女性の生活の悲哀をかかせたら天下一品、ケイケイのショートコメディーだ。8ページの中に、日常の「とほほ」と「くすり」がぎゅっと詰まっている。28歳独身彼氏なしの矢野美保子、同じく妙齢・男なしで倹約家のナナちゃんら、普通に自分の隣に住んでいそうな女性たちが登場し、赤裸々なつぶやきで笑わせてくれる。小太りだからと年中ダイエットしていて、美人の愚痴には「ケっ」と毒を吐き、自分のためにチョコを買いにバレンタインチョコの売り場に行き、「私の背中にだけ彼氏がいませんっていう紙が貼っているような気がする」などなど、妙齢女性ならば胸を突かれるようなシーン満載だ。といっても私は一回り近く年上だが。掲載誌「Kiss」がそういう世代向けだから仕方がないか。

 メインの主人公は矢野で、フツーの事務職で給料も生活できるぎりぎりのライン、日記をつければ1年毎日同じことをかいてしまいそうな勢いの万年ダイエッターだ。彼女のつぶやきもそれはそれでおもしろいが、私が誰より共感するのが、倹約家のナナちゃんだ。つまり悪く言えばケチ。着ている物はフリマでゲット、食材は底値を記憶して、特売でしか買わない。ああ、そうよ現実にはそうやって暮らしているだろう女性はいっぱいいるはずなのに、漫画ではおしゃれな服に身を包み、賞味期限切れかけの物なんて食べそうもない女性しか出てこないんだもの。ナナちゃん、私も今はシャツもパンツもユニクロの特売、靴に至ってはフリマの1000円よ! あなたの存在に安心させられるわ!。そのナナちゃんが実践しているつましい生活には笑わされるというか身につまされるというか。オレンジジュースは5倍に薄めてクエン酸と砂糖をいれてごまかす、なんて思いもつかなかったよ。そこまでする倹約家でも、ときには「結局は長く使えてお得だから」とばばんと高価なブランドスーツを買ったりするあたりが、ナナちゃんすごいわ。

 というわけで、妙齢の女性に加え、妙齢の女性の生活や心理を知りたい人にはうってつけの漫画なのである。

 蛇足で言うと、「女のはしょり道」の回で告白したとおり、私は年数回しか化粧をしない女だ。3巻でメークを忘れて出社してしまった矢野が登場して、「ノーメークで外にでたら怪獣扱いされるって思ってた」というシーンがあった。そうなのか、世の女性はそう思うから毎日面倒でもメークをしているのか。私は「面倒くさい」が勝ってしてこなかったよ。矢野も一瞬は「ノーメークを居直ろう」と思うのだが、結局、同僚が矢野のノーメークの顔を見てびくっとしたのを察して「心が折れてしまいました」と、同僚から化粧道具を借りてメークするのである。そうなのか、それが世の中の女性というものなのか。私にも女性心理の勉強になったよ。でも「メークをしない人」と認識されてしまえば、もうびくっとされないからいいんじゃないのか? そう思っている私はすでに女失格なのか?

 ナナちゃんもやっぱり会社にはメークしていってるの? 教えて私を安心させて、ナナちゃん。

 ところで、これを読んだある独身男性は堂々と「つまり、こういう『独身女の不幸を笑いものにする漫画』が成立するってことは、妙齢の独身女性は不幸ってこと? 俺は自分が全然不幸だと思わないから、やっぱり独身なら女より男の方が幸福なんだな」と言い放った。いや、それは違うと私は思う。たぶん独身男性の日常は笑えないか、男性本人たちが笑うほどのウイットに欠けているから、漫画として成立しないのだと思う。だって言うじゃない、「男やもめにウジがわく 女やもめに花が咲く」って。ちょっと違うか。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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