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曲がり角のボクら(中村明日美子)

2009年6月5日

  • 筆者 松尾慈子

表紙中村明日美子[作]白泉社

 「中村明日美子、すっごくいいよ」。漫画友達にそういわれたのはもう数年前だ。その当時、中村明日美子は今よりもっと個性的な絵柄で、とんがったボーイズラブを描いていたので、私の触手はイマイチ動かなかった。いま、中村が白泉社で少女漫画を描くようになり、その作品の鮮やかさに目からウロコが落ちる思いだ。私は本当に先見の明がない。漫画友達よ、すまない。数年遅れになってしまったが、いまになってようやく中村明日美子を紹介したいと思う。

 表題作「曲がり角のボクら」は、男の子2人女の子2人の恋愛スクランブル。「学祭前に告白して、後夜祭で一緒にフォークダンスを踊る そうするとそのカップルは永遠に」。ありがちな学校の伝説をモチーフにした恋愛ものだが、テンポのいいせりふまわしと、キャラがたった登場人物たちのおかげでありきたりな物語にさせない。2組のカップルができたらいいんじゃん、と単純に思うのは間違い。今時はそうもいかないんですね。

 背が小さくてかわいい近藤さんは、背の高い神原さんと仲が良い。もてる男の恩田君は、小さなミドリ君と仲が良い。伝説に乗っかって恩田君は近藤さんに告白するけれど、神原さんはそれにいい顔をしない。もてるんだけど本当はビビリな性格の恩田君が恋に落ちたのは、近藤さんが冬服一番乗りで登校したその朝に上履きを間違えたところを見てしまったから。そうなんだよねえ、10代での恋って本当に、ささやかなことから始まっちゃうんだよねえ。もて男の恩田に警戒心を示す神原さんの意外な本心などが明かされ、さわやかな青春群像物語に仕上がっている。

 中村明日美子といえば、ひょろりとした瞳と長い手足が絵柄の特徴だ。その独特な絵柄が、センシティブな思春期の少年少女を描いた物語にマッチしている。雑誌「メロディ」での最近の掲載作品もさわやかでかつどこか力が抜けているいい恋愛物語を描いている。中村が少女漫画にこれほど向いているとはびっくりだ。正直いって以前の中村は良い意味でも悪い意味でもボーイズラブ作家らしく癖が強かった。個性を残しつつここまでポップにしてしまうとは、白泉社の編集さんもなかなか敏腕なのではないだろうか。実際、今回同時収録されている短編「となりの吸血鬼」はへんてこな作品だった。男女の恋愛が描きたいのか、男同士の微妙な関係が描きたいのか分からないなあ、と一読して思ったのだが、雑誌未掲載作品で「メロディ」に投稿した作品なのだという。本人も後書きで「メロディのカラーを見誤っていた」とかいているが、この迷走している作品を読んで、少女漫画を描かせてやろうと思った白泉社、太っ腹だぜ、とちょっと思った。将来性のある漫画家を見抜く目がある点においては、私は全然かないません。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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