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わが家の母はビョーキです(中村ユキ)

2009年7月3日

  • 筆者 松尾慈子

写真わが家の母はビョーキです[作]中村ユキ

 告白しましょう。ウチの家は「統合失調症」が多発する家系です。昔で言う「精神分裂病」です。どうです? 腰がひけたでしょう? あなたの心の中に、どんな想像がわきましたか? 包丁をふりまわし、突然大声をあげるような姿ですか? この病ほど社会の偏見が強い病気も少ないように思います。でも、100人に1人の発病率なんですよ。あなたの大切な人がこの病にかかったら、どうしますか? 今回、ちょっとマジ入ります。苦手な方は今回はスルーして、また次回からよろしくお願いいたします。

 「つれがウツになりまして。」(幻冬舎文庫)が大ヒットしてドラマにもなり、「ウツ」という病気が世間に認知されるようになった。ところが、統合失調症については同じ精神疾患でありながら、まだまだ一般には知識が浸透されていないように思う。そう思った著者が統合失調症の母と暮らす日々をつづったコミックエッセーだ。病気の厳しい現実を描きながらも、読後感は悲壮ではない。適切な治療法と出会い、病気を理解するようになってからは「私は現在、『トーシツ』を母のオマケくらいに思えるようになってきました」と著者は書く。自殺企図や包丁をふりかざすなど激しい症状に、読んでいて胸が苦しくなる場面もあるが、統合失調症を知るためにも、ぜひたくさんの人に読んでほしい。障害年金や支援センターなど患者に必要な情報も盛り込まれている。

 著者の母は27歳、著者が4歳のときに奇異な行動が目立つようになり、入院した病院で「統合失調症」と診断された。母親は幻聴や妄想に悩まされ、時には娘に包丁を向けることも。幼い著者は母親の様子がおかしくなると包丁とお金を隠し、いつも心の片隅では母親を心配するようになった。しかし、入退院を繰り返し、20数年かかって、ようやく「適切な治療と薬、周囲の援助で回復できる」といえるまでになった。苦しさの中でも絆を深めてきた母娘の姿と、後半に登場する著者の夫の優しさと楽天家ぶりに、読んでいて気持ちがほっとする。

 私自身も若い頃は、統合失調症発症の不安におびえていた。親兄弟などに同じ病気の人がいると、発症する確率は高くなる傾向があるからだ。親族内に私が知るだけでも3人いて、うち2人は社会参加できないままだ。統合失調症は10代から30代で発症することが多いので、リスクが低い年代になったいま、将来の子供のことを考えて、ブルーな気持ちになっている。そんなときにこの本に出会えてよかった。「早期治療で早期回復」、現在は薬も進化して、服用しながらも症状が消えて日常生活が送れるようにもなるんだと、励まされる。

 「もっと早く病気を知り、治療をしていればよかった」と深く後悔する著者の「誰もが早期治療を受けるために 多くの人にトーシツを知ってほしい」という強い願いは胸を打つ。とりあえず、多くの人に、気持ちを真っ白にして読んでほしい本だ。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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