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女子高生チヨ[64](ひうらさとる)

2009年7月17日

  • 筆者 松尾慈子

写真女子高生チヨ[64][作]ひうらさとる

 雑誌掲載のときから気になっていて、ようやくコミックスになってくれた。タイトル通り、64歳のチヨが送る高校生活をつづった実録漫画である。主人公は、恋愛を放棄する「干物女」という言葉をはやらせた漫画「ホタルノヒカリ」の著者ひうらの実母だ。すごい!うらやましい! 母親がこの年代になってもそんなに生き生きしていられるとは。超高齢社会に向かう日本に一石を投じる!なんてもんじゃなく、普通のバリバリ浪速のオバちゃんの大活躍、ぜひみなさんも老後の参考にしてほしい。

 まず特筆すべきは、チヨさんの前向きな態度だろう。「親でも先生でもない、私は同級生 先入観をもたずに世代の違いをおもしろがる」これはチヨさんが自分に言い聞かせていたことだという。友達作りの第一歩はまずあいさつから。返事があったのは「なんかしゃべってくれた!」が4分の1、「ほほえみ返し(苦笑含む)」が4分の1、残りの半分は「困り顔&スルー」だそうだ。それでもめげないチヨさん! 次の一歩は、授業についていけなさそうなコにはノートを貸す、その3は、ひとりでぽつんとしてる子には積極的に声をかける。こうやってチヨさんは10代の友達を獲得していったというのである。いやはや本当に尊敬するしかない。

 そして、圧巻は「スクール水着」の回だ。そう、チヨさんが通っているのは夜間学校、授業には体育もある。「実際きっついもんあるで」と見学した夫のユズルに言わしめた、スクール水着でプール授業! それでもチヨさんは臆することなく、「運動オンチな私が輪の中におるで?」と感動するのである。

 そして夫ユズルもまたいいキャラで、妻が夜に家をあけるようになると、料理に目覚め、帰宅したチヨさんに揚げたての天ぷらと自宅で漬けた漬物を出すほどにまで腕を上げたという。そして、毎日チヨさんが話す学校の話がおもしろくて、自分も街の若者に目がいくようになって、どんどん夫婦の会話が増えていったのだという。一人が変われば、呼応して変わっていく、なんとうらやましい夫婦像だろうか。

 もちろん、夜間学校にはやる気がなく入ってくる若者もいる。チヨさんは彼らに対して、「私も15歳のころは勉強嫌いやった 出戻り同級生としてなんか伝えてあげられることはないんやろか」と思い、積極的に授業を盛り上げていく。

 学校に通い始めて、チヨさんはがぜん若返った、と娘のひうらは描いている。「腹肉減少!背筋ものびた!お肌はつるつるに!あたしが名前も知らないようなバンドのヒット曲を鼻歌で!」 ……40目前の私、完全に負けてます。今はすでに学校を卒業したチヨさん。巻末の親子対談で、「卒業後はミクシィとかやってないと連絡取りづらい」とさらりと言っていて、もう考え方すっかり女子高校生です!あなた! とツッコミいれたくなったよ。

 そんなチヨさんも、学校に入る前までは普通のオカンだったという。「普通のおばあちゃんみたいなイライラしてる感じだった」と娘ひうらが指摘し、チヨさんも「それまではストレスため込んで、普通のお母さんしなあかん、みたいな感じやったのが。変わった」と振り返る。そうか、普通のオカンが学校いってそんなに変わるのか。ならば口うるさい私の母にもぜひ行ってもらいたいものだ。

 60歳すぎて高校を目指したチヨさん。動機は「21世紀になった 20世紀にやり残したことを始めようと思いました」。人間、いくつになっても始められる、と勇気をもらえる、笑いながら元気になれる漫画だ。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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